マスメディアも,ブログの存在は無視できなくなってきた。最近では読者や視聴者との双方向コミュニケーションを高めるために,ブログコーナーを置くのも珍しくない。書き手のブロガーに,記者や特定の寄稿者だけではなく,読者や視聴者も参加するようになってきている。だが,やはり既存メディアの枠内ではいろいろと制約が課せられる。残念ながらブログ本来の自由奔放さを発揮しきれないものが目立つ。
そこでブロガーの自由さを保ちながら,事業としても成立させようとするブログ集団が立ち上がってきたのだ。ブログは個人でも簡単にオンライン出版を可能とするツールである。ブロガーの多くは,個人の言いたいことを発っする場としてブログを利用している。もともとパーソナル出版で生計を立てようとなんて,あまり考えていない。せいぜいアフィリエイト広告で小遣い稼ぎに励む程度であった。
だが,質の良いブログを増やし,またそれらを継続させるためには,職業としてブロガーが成り立つ環境を作り出さなければ・・・。ということで米国で,新興のブログ出版社が数多く出現しているが,ここではWeblogs, Inc.とFM Publishingに注目する。Weblogs, Incは,2004年1月に創立し,現在では約80ブログを抱えるブログ出版社に成長し,経営的にも軌道に乗り始めている。一方のFM Publishingはまだ準備中の段階だが,秋にスタートする。共に,ネット業界で求心力があり編集のプロであるアントレプレナーが創立者である。90年代後半のネットバブル期に,シリコンバレーやシリコンアレー(NY)でネットビジネス出版で活躍した連中だ。だから,ブログの勃興期に素早く反応し,ブログベースの新しいメディア事業モデルを確立しようと乗り出している。
基本的なビジネスモデルはこうだ。多くのブログを発行する出版社であるが,当面は広告売上に依存する。ブログコンテンツは無料である。将来は,ポータルサイトなどへのコンテンツ販売に向かうだろう。出版業では経費の大半が人件費となりかねないので,社員は必要最小限に絞る。広告営業やプロモーション,システムインフラなどの共通部門に専任スタッフを雇うが,正社員としての編集スタッフは原則,置かない。ブロガーとはフリーランサー契約を結び,成果に見合う報酬を支払う。つまり,当初は,編集経費をなるべく絞り込む。
各ブログも単体ではいわば素人経営の個人商店のようなもの。コンテンツ作りで手一杯で,なかなか広告や販促に手が回らない。相当な人気ブログでも,本業としてやっていくのは厳しいはず。だが,広告営業やプロモーションを専任のプロを擁するブログ出版社に任せると,思わぬ高収益を達成するかもしれない。また優れたブログを集結させることにより,相乗効果も発揮できる。パッケージ広告も展開できるし,ブログ集団へのトラフィックの流れを太くすることも可能だ。
これまでのメディア企業との大きな違いは,日常の編集作業にある。ブログコンテンツの扱いだ。既存のメディア企業では,編集テーマの選択や記事内容のチェックなどは企業側が責任を持って進める。だが,ここで取り上げたブログ出版社では,日常的な編集作業を事実上ブロガーに任せてしまうのだ。つまり,社員でもないブロガーのコンテンツが,チェックを受けないままネットに流れてしまうことになる。
そこでブログ出版社としては,信頼でき,人気があり,そして事業性も見込めるブログ(ブロガー)を,いかに集めるかが鍵となる。つまりブログ(ブロガー)に対する目利きが欠かせない。その役割を担っているのが,Weblogs, IncではJason Calacanis とBrian Alveyであり,FM PublishingではJohn Battelle となる。ブロガーからも信頼される求心力のある人物でないとうまく務まらない。
WeblogsのCalacanis と Alveyは,最終的には狙いを定めた300種近いブログの品揃えを目標として出発した。技術,メディア,エンターテイメント,コンシューマー製品といった分野で,ニッチなマーケットに絞ったブログを発行していく。事業性の高いトピックをカバーする優れたブログがあれば,そのブロガーと交渉する。でも,カバーすべきトピックでも基準を満たすブログが存在しなければ,新規ブログの創刊を発表し,ブロガーを公募している。例えば最近では,ライフサイエンスのブログ創刊を企画し,同社のブログ上でブロガーを募った。
Weblogsは設立して1年半が過ぎたが,現在,100人以上のブロガーと契約し,80種近いブログを発行している(theweblogsincweblog)。毎日1000以上のエントリーが投稿され,月間ページビューは6000万超という。旗艦ブログであるEngadgetは別格として,大半のブログのブロガーとは,月額100ドル〜3000ドルで,平均すると月500ドルから600ドルの間の報酬で個別にフリーランス契約を結んでいる。まだ,Weblogsだけの報酬だけでは生計を立てられないのが現実だ。でも2年後には,本業として生活できるブロガーを数多く輩出していきたいとのことだ。
同社の売上は広告に依存する。Google AdSense広告売上を膨らませていることはこのブログのエントリーでも紹介したが,Calacanisによれば年間100万ドルに近く達するとのことだ(JenSense)。AdSenseのようなシステマティック広告は,営業に人手もほとんど不要なので小規模なブログ出版社にとって都合がよい。だが,AdSenseだけでは広告売上を大きく伸ばすことが難しい。Engadget,Autoblog,TV Squadのようなブランド力のある人気ブログともなれば,大型のバナー広告などを大手企業から取ってこれる。そのために広告営業スタッフを置いているわけだ。すでに広告主との直接交渉で,Volvo, Equifax, Pacific Poker, Palm, Subaruなどの広告を掲載してきた。実際には,こうした広告売上高のほうが,AdSense広告よりもかなり大きいようだ(同社は収支を公表していない)。フルタイムのスタッフ10人の給与と,約100人のブロガーへの原稿料を考えると,現時点では収支はトントンではなかろうか。軌道に乗り出したので,今後が楽しみといったところか。
新しい広告メニューとしては,RSSフィード内広告が期待でき,同社は既に仕掛けている。さらに新たな収益源として浮上しそうなのが,ブログコンテンツの外販だ。そのためか,同社はブログコンテンツの著作権を得ている。特に注目すべき動きとしては,Yahoo!,MSNなどの主要ポータルサイトが,質の高いブログを囲い込んだり,さらには新ブログを立ち上げ始めていることだ。集客には人気ブログの掲載が必須となってきている。Calacanis自身のブログの中で,MSNから働きかけがあったことを語っている。もし商業ブログとしてコンテンツを外販するとなると,ブロガーからの反発も生じるかもしれないが,カスタム出版にも発展していけば,魅力ある市場に育ちそうだ。
もう一つのFM Publishingはまだ準備中のブログ出版社なので,明確には言えないが,大筋のビジネスモデルはWeblogs, Incと似通っているのではなかろうか。創設者のJohe Battelleは,Wired magazine の共同創刊者であり,またIndustry Standardの創刊者であったことで,業界では知名人である。彼自身のブログ“Searchblog”は人気が高い。技術系ブログを核にしたブログ広告ネットを仕掛けることになった。カルチャー系ブログも含む予定。まず10〜20ブログ規模で始める。 SearchBlogが参加するのは当然として,米国のナンバーワンブログとも言われるBoingBoingにも参加を呼びかけている模様。このブログ連合体に参加できるブログは,Battelleが定めた編集基準をパスしなければならない。
編集はBattelleに任せるとして,重要な営業責任者としてCNETの営業副社長であったChase Edwardsを獲得した。準備がうまくいっているかどうかは不透明だが,まもなく船出である。期待したい。
◇参考
・Can Blogging Ever Become Big Business? (Business2.0)
・The Business of Blogging (TechnologyReview.com)
・The best of the best from across the Weblogs, Inc. Network(Nanopublishing Weblog)
・Weblogs Inc., on target to deliver $1 million in Adsense revenue in a year
・Seeking 'Life Science' Bloggers for Weblogs, Inc.
・Battelle Reveals Plans: New Venture is called FM Publishing
・Former CNET Sales VP to Head Blog Network Sales