米国を代表する新聞と言えば,New York Times,Washington Post,それにWall Street Journalの3紙である。こぞってオンラインシフトを急いでいるが,その中で特に注目したいのは,開放路線に力を入れ始めていることだ。
1年前のエントリーで,次のように書いた
米国の新聞社サイトは最近,開放路線に舵を切り替えはじめている。自社サイトに読者を閉じ込めるのでなくて,読者ニーズに応えて外部コンテンツも並行して閲読できる仕組みを用意しようとしているのだ。たとえば,自社サイトの各ニュース記事に,その記事内容と関連性の高い外部記事へリンクを張ったりすることである。リンク先の外部記事には,ブログもあるし,競合サイトのニュースなども含まれる。
中高年読者に向けては,新聞紙コンテンツの焼き直しでも何とかやっていけるかもしれない。だが,多くの若い読者は今の新聞紙コンテンツでは満足しそうにない。例えばブログなどの対話的なコンテンツが必要だろう。それに,一方向の押しつけがましいニュース提供の在り方に反発する若者も少なくない。
そこで,若年読者のニュース接触に合わせようと,次のような手を打ってきている。
1.RSS配信
2.パーソナライズドページ
3.ニュースアグリゲーターとの連携
RSS配信については,3〜4年ほど前から米国の新聞社が一斉に手掛けている。特徴的なのは,カテゴリー別のRSSフィードを数多く用意したことだ。最近では,細分化したカテゴリー別RSSフィードを200種以上配信する新聞社も多くなってきた。この結果,RSSリーダーを用いて,特定トッピクのニュースを複数のニュースサイトから効率良く選び閲読できる。
次のパーソナライズドページ・サービスは,昨年から今年にかけて,大手新聞社を中心に始まっている。このサービスには,RSSリーダー機能も備わっている。そのため,ブログだけではなくて競合サイトのニュースもトピックを絞った形で取り込める。NYTのパーソナライズドページ・サービス“My Times”では,分野別に外部ブログや競合サイトニュースも推薦しており,開放的な姿勢をアピールしている。
そして,今度はニュースアグリゲーターとの連携である。ニュース記事と関連性の高い外部コンテンツの見出し(リンク付き)を,各ニュース記事に添える形で掲載し始めている。これまで,新聞社サイトは信頼を重視し自前コンテンツにこだわっていた。記事から外部サイトへリンクを張ることはほとんどなかっただけに,新聞社サイトとしては大きな方向転換であった。washingtonpost.comはInformと,WSJ.comはSphereと連携して,外部ニュースアグリゲーターから関連コンテンツ情報を提供してもらっている。そして,NYTimesも先週末から,ニュースアグリゲーターからのコンテンツを利用し始めたのだ。
NYTは買収していたニュースアグリゲーターを活用
NYTimes.comと手を組んだニュースアグリゲーターはBlogrunner である。実は,このBlogrunnerをNYTが買収していた。つまり今はNYTの一員なのだ。
NYtimes.comはBlogrunnerの利用を米国時間の11月1日から開始した。プレスリリースで発表したが,ほとんどのユーザーは気がつかなかったはず。Technology分野で目立たない形で始めているからだ。同サイトのTechnology分野のトップページをアクセスすると,右サイドに“Technology Headlines From Around the Web.”が定期枠として置かれている。ここに,Blogrunnerが編成した技術分野のニュース見出しが掲載されている。ここで重要なことは,選ばれたニュースソースが,NYTimes以外のニュースサイトやブログであることだ。下の例では,WSJやCNET,Venturebeatなどの記事見出しが出ている。例えばWSJの見出しをクリックすればWSJの該当ニュースページに飛ぶことができる。ニュース見出しの下の“Related Article”をクリックすれば,そのニュースと関連する記事一覧が現れる。
また,NYTimesが提供する技術(Technology)分野ニュース記事についても,以下の例のように,Blogrunnerから配給を受けた関連コンテンツを記事後部に掲載している。ただし,このエントリーを書いている段階では,一部の記事だけが対応していた。
このようにNYTimes.comも,washingtonpost.comやWSJ.comと同様,自ドメインのページから競合するニュースサイトや外部ブログに直接リンクを張り始めた。ただNYTimes.comの場合は,傘下のニュースアグリゲーターを利用しているため,他新聞社サイトよりも独自の手を打ちやすい。
将来は,Blogrunnerが若年読者の入り口になるかも
Blogrunnerが何をやろうとしているのかを見ておこう。上で示したスナップショット内にあるBlogrunnerをクリックすると,BlogrunnerドメインのTechnology分野ニュースページに飛ぶ。
これは独立した技術分野のニュースサイトである。マニアックな技術ニュース収集者に圧倒的な人気を誇るTechmemeとよく似た作りになっている。代表的なニュースサイトやブログを定期的にクローリングし,優れた記事を選別して掲載している。鍵となる“優れた記事の選別”は,TechmemeやGoogle Newsではアルゴリズムに従って自動的に行っている。ところが,Blogrunnerの場合は,機会が自動的に編集するだけではなくて,人の編集者がチェックしているという。またクローリング対象となるニュースサイトやブログは,多くのジャーナリストを抱えた編集室が協力して選別したとのことだ。パーソナライズドページ・サービス“My Times”を実施した時にも,多くの記者が分野別に優れたニュースサイトやブログを選別していた(こちらを参照)。Blogrunnerがどのような技術分野のニュースサイトやブログをクローリングしているかは,こちらで大まかにチェックできる。
Blogrunnerでは技術分野以外でも,以下の分野のニュースサイトを立ち上げている。またトピック/キーワード別のニュースページも備わっている。NYTimes.comとしては,技術分野での試みが順調に進めば,多分野でもBlogrunnerのニュースアグリゲーションを活用していくのではなかろうか。
ニュースアグリゲーションの優劣は,フィルタリングアルゴリズムに加えて,クローリング対象のサイト選別によって左右される。編集室からの支援が得られれば,Blogrunnerは強力なニュースアグリゲーターに育っていこう。そうなれば,NYTimes.comを開放的なサイトに変身させることになろう。そして将来,若年者を中心にNYTimes.comがBlogrunner経由で閲読されることになるのかもしれない。
◇参考
・NYTimes.com Launches Enhanced Technology Section(NYTimes,プレスリリース)
・The Robot in the Newsroom(New York Times Blog)
・米ワシントンポスト,競合ニュースサイト記事へのリンク張りを実施(メディア・パブ)
・マードック効果か,WSJ.comの記事がソーシャルメディア対策を(メディア・パブ)
・NYTimes記者が薦める他サイトコンテンツとは(メディア・パブ)
●お詫び
このエントリーは,5日の記事を再投稿したものです。理由が分からないのですが(おそらく操作ミス)で,5日投稿のエントリーが消滅していました。幸い,Bloglinesに残っていたので,それをコーピーして再投稿しました。コメントやトラックバックは消滅したままです。URLも変わってしまったので,前に投稿した記事にリンクが無効になってしまいました。お詫び致します。