“The End of Advertising as We Know It”というタイトルのレポート(Executive SummaryのPDF)を,IBMが公表した。これまでの広告モデルが終焉すると主張している。このレポートの中で,今後5年間に繰り広げられるであろうシナリオを占っている。
明らかに広告の主流は,マス相手の伝統的な広告から,個人相手のターゲッティング広告へと移り始めている。広告枠の透明化と,その売買のオープン化も進みそうだ。企業は,広告料金が“インプレション(impressions)”ベースから“リアルインパクト(real impact)”ベースにシフトすることを要求している。つまり視聴率やページビューではなくて費用対効果を厳しく見始めているのだ。
今回,消費者2400人と広告専門家80人を対象に調査を実施した。その結果から,次の4つのトレンドを指摘している。
1.Attesion:広告がマルチチャンネル化し,消費者が能動的に広告と接触するようになっている。TV離れが進む。接触時間の点でも,PCがTVのライバルに。回答者の71%が,毎日2時間以上もPCからインターネットを利用している。回答者の48%は,PCとTVの接触時間がほぼ同じとなっている。
2.Creation:UGC(ユーザー作成コンテンツ)の台頭が目立つ。YouTubeやCrackleなどのように,ユーザーとの間で広告売上をシェアするモデルが出現。回答者の39%は,オンライン動画コンテンツとしてUGCをプロの作品よりも頻繁に視聴している。
3.Mesurement:広告専門家の2/3は,今後3年以内に広告売上高の20%がインプレション・ベース広告からリアルインパクト・ベース広告にシフトすると答えた。
4.Advertising inventories:広告在庫システムのオープン化と効率化の要望が高まっている。広告専門家の半数以上が,オープンプラットフォームが5年以内に実現すると見ている。
こうしたトレンドを基に,2012年までの5年間に広告の在り方がどう変わっていくのかを整理した。ここでは,広告在庫システム(オープン性)とマーケティングコントロール(消費者主導性)をパラメーターとして,次の4シナリオ(事象)に分類した。
●オープン化と消費者主導に向かう広告モデル
・Continued Evolution:現状の延長上で変革していくモデルだが,1対多モデルが健在。依然として,伝統的な広告チャンネルに多くの広告費が注ぎ込まれていく。
・Open Exchange:オンラインではAdsenseなど。Googleが展開しているラジオ広告(dMac)や新聞広告(Print Ads)も。
・Consumer Choice:例えばTivoのinteractive advertising technology。コンシューマーが番組を視聴している時に現れるポップアップ広告。
・Ad Marktplace:消費者が好きな広告タイプを選ぶことができる。オープンな広告マーケットプレースが幅広く普及し,いずれの広告主も望みの消費者にリーチできるようになる。
これからの広告は,オープンな広告マーケットプレースに向かい,数年後にも開花すると,IBMは言いたいのだろう。
このシナリオを描くためのバックデータが,このレポートに掲載されていたので,興味深いものを以下に示しておく。
一つは,セグメント別の広告売上のCAGRである。2006年から2010年までの年平均成長率である。やはり,消費者主導の広告メディアが高成長していくが,供給者主導の伝統メディア広告の成長が鈍ってきている。
●セグメント別広告のCAGR(年平均成長率):2006-2010
次は,世代別に見たメディア接触である。伝統メディアの主役であるTVは,中高年にはまだ人気が高い。一方で,34歳以下の若年層のTV離れが目立つ。逆に,若年層にはSNSやUGCの普及率が際だって高い。若者は新聞を読まなくなっているが,新聞社サイトにもあまり近づいていないようだ。米国のメディア接触の特徴は,中高年層のSNSやUGCの普及率が高いことである。こうした背景があって,IBMが上のシナリオを組み立てのかもしれない。ただ,モバイルインターネットに関しては,米国の普及率は驚くばかりに低い。
●世代別メディア接触
IBMのレポートを見るまでもなく,インターネット広告を中心に米国の広告市場の地殻変動が始まっている。Google,Yahoo,MSNのポータル/検索サイトが競って広告ネットワークの拡大を進めているし,最近のOpenSocialに続いて,FacebookやMySpaceのソーシャル広告の旗揚げなどと,確かに広告市場は激震の時代を迎えそうだ。
◇参考
・IBM Predicts the End of Advertising as We Know It(IBM)
・The end of advertising as we know it(IBM)
タグ:広告
> 的な広告から,個人相手のターゲッティ
> ング広告へと移り始めている。
なるほど!マーケティングがセグメント(グループ)からOne to Oneへと移り変わって来たように、広告も"個"が対象になってきたのですね。
One to Oneのマーケティングが出てきて、LTV(顧客生涯価値)の概念が生まれましたが、広告も一生涯での情報シェアという概念が生まれてくるかもしれませんね。