新聞社や雑誌社,テレビ局などの伝統的なメディア会社にとって,従来のオフラインサービス以上にオンラインサービスが重要になろうとしている。ところが,編集(コンテンツ)ビジネスでも広告ビジネスでも,ネット専業事業者に主導権を握られているのが現状だ。中でも,GoogleやYahoo,Microsoft,AOLなどの検索エンジン/ポータルサイトが優位に市場を牽引している。
すでに広告市場では,以前のエントリーで紹介したように,伝統メディアのオフライン広告がじり貧気味なのに対し,GoogleやMicrosoftなどのポータル系サイトのオンライン広告が急成長している。さらに伝統メディアまでも,自分たちのオンライン広告ビジネスをGoogleなどのアドネットワークに依存させ始めているのだ。
オンラインシフトを加速化させている伝統メディアにとって,収益源の柱となる広告ビジネスを巨大ネット企業に頼っていくのはおもしろくない。そこで,自前のアドネットワークを仕掛けようとしているのである。
だが,巨大ネット企業の大規模アドネットワークと真正面から戦っては相手にならない。ComScore Media Metrixの2月データによると,Yahooのアドネットワークのユニークビジター数は1億5700万人で,Googleのアドネットは1億4700人である。伝統メディア会社がいくら頑張ったとしても,リーチの大きさでは勝負にならない。
そこで,伝統メディアが取り組み始めたのは,"vertical ad networks" とか"topic-specific ad networks"と呼ばれるアドネットワークである。つまり,特定分野にターゲットを絞ったアドネットワークである。規模は小さいけれど,効果的なターゲット広告を売り物にするのだ。ただし,自分のサイトだけでは小さすぎるので,同じ分野をカバーしている外部サイトや外部ブログを仲間に入れて,自サイトを核にしたアドネットワークを構築することになる。
例を見ていこう。先日紹介したForbes.comの(Business and Finance Blog Network)は,400ブログを束ねたビジネス/金融分野向けアドネットワークである。Xconomyなどが加入する。近く立ち上がる。
技術専門出版社IDGはIT分野をターゲットにしたアドネットワークIDG TechNetworkを始めている。独立系のIT出版サイト(パブリッシャー)を仲間入りさせていく。Data Center Knowledgeのようなサイトが加わっている。
Martha Stewart Living Omnimedia はライフスタイル分野に絞ったアドネットワークMartha's Circleを旗揚げした。FriendsEAT.com やChristmas-Cookies.com のようなライフスタイル系サイトが加入した。
Warner BrosもTelepictures部門がママさん向けアドネットワークMom•Logic を立ち上げた。ママさん向けWebサイトやブログを募っている。
そのほか,Conde Nastのオンライン部門CondeNetがファッション系や技術系ブログを仲間入りさせたアドネットワークを立ち上げるように,伝統メディアの"vertical ad networks" がブームになってきた。新聞社サイトやTV局サイトのアドネットワークも産声をあげ始めている。
こうしたニーズに応えて,Adifyが"vertical ad networks"のインフラサービスを提供している。同社が提供しているアドネットワークは,Featured Networks Powered by Adifyで一覧できる。IDG Tech NetworkやMOMLogicもAdifyのシステムを利用している。IDG Tech Networkが最近,Adify Widget Shareを採用して加盟サイトにウィジェット広告を配信することになった。
なぜ,ここに来て伝統メディアが自前アドネットワークに乗り出すのか。いつもでもGoogleやYahooの言いなりになるのはプライドが許さないのかもしれない。それにオフラインメディアのブランド力やオフライン広告営業のノウハウを活かして,高付加価値の広告ビジネスを展開したいということか。IDGは120人以上の広告スタッフを抱えており,彼らを有効活用するためにも自前のアドネットワークが必要なのかも。Googleなどのアドネットワークのようなシステムに高く依存するのではなくて,スタッフの営業力に頼って高いCPMのターゲッティング広告を集めていきたいのだろう。外部のWebやブログを惹きつけるためにも,高いCPMの実現が必要だ。
ただ課題も多そう。ほんとうに外部サイトとの間でWin-Win関係を築いていけるかどうかだ。自社のメディアサイトだけではなくて,外部サイトを含めたネットワーク全体の集客力を高めて,広告売上げを増やしていかなければならない。簡単ではない。伝統メディアのアドネットワークに加入しているサイトを見ればわかるのだが,ほとんどがGoogleなどの大規模アドネットワークを継続させている。また女性向けアドネットワークで話題のGlamのように,多くの広告在庫を抱えるようになったのだが,売れ残りが増えて自社広告ばかりが目立つことにもなりかねない。
しばらく,伝統メディアの"vertical ad networks" の動きは目を離せない。
◇参考
・Traditional media team with niche sites to nab ad dollars(USAToday)
・Media cos. battle Web portals on ads (AP)
・Forbes Plans 400-Member Financial Ad Network; Viacom Forming Ad Nets For Music, Male Lifestyle(paidContent.org)
・Forbes,金融分野の400ブログを束ねた広告ネットを立ち上げ(メディア・パブ)
・IDG TechNetwork Debuts Media Network for Marketers to Reach Audiences of Independent Technology Publishers(プレスリリース)
・Details on Some Media Online Ad Networks(AP via Yahoo News)
・MTV/Nickelodeon Buy Parenting Sites to Form Ad Network; Burst Worried?(CenterNetworks)
・Adify Widget Share Powers Content Syndication for Publisher Networks(プレスリリース)
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