チュニジアそれにエジプトで始まった反政府運動の嵐は、モロッコからイランまでの北アフリカ・中東全域に吹き荒れている。
Arab and Middle East revolt - an interactive map:ソースはGuardian
今回の反政府/民主化デモでフェイスブックの役割が大きかったので、その背景を追ってみた。
NBC News correspondentのRichard Engel氏が撮影。アラビア語で
“Thank you, Facebook.”と書かれている。
多くのアラブ諸国では、いつまでも続く貧困と若者の失業で国民の不満が鬱積していた。同じような不満を抱く国民間の連携を一気に広げかつ強める役割を果たしたのがフェイスブックで、大規模な反政府デモへと発展させてきたのだ。でもここまで国民の連携を生み独裁政権を崩壊させるほど、アラブ諸国でフェイスブックが利用されるとは・・・・。
それを理解するには、ここ数年のアラブ諸国の動きを振り返ってみる必要がありそう。昔から識字率も就学率も高くない地域だったので、インターネットもあまり普及していなのではと思い込んでいたのだが。確かに10年ほど前まで、中東のインタネット普及率は、イスラエルを除くと欧米や日本に比べ極端に低かった。それが現在では、中東のインターネット普及率は約29%(イスラエルを除く)と世界の平均普及率を少し上回る程度まで上がっている。この10年間で、なんとネット人口が約1800%も増えたのだ。中東以外の国におけるネット人口の増加率は432%であったので、世界的に見ても中東地域のネット人口の増え方は特出していた。
●中東のインターネット人口(Internet Users)
NOTES: (1) Internet Usage and Population Statistics for the Middle East were updated as of June 30, 2010. (2) Population numbers are based on data contained in the US Census Bureau (3) The most recent Internet stats come mainly from data published by Nielsen Online , ITU , Computer Industry Almanac and other trustworthy sources. (4) Data on this site may be cited, giving due credit and establishing an active link back to InternetWorldStats.com . Copyright c 2010, Miniwatts Marketing Group.●中東各国のインターネット人口(Internet Usage)
(EgyptとTunisiaはアフリカに分類されている。
Egyptのインターネット人口は1706万人で、普及率は21.2%。
Tunisiaのインターネット人口は360万人で、普及率は34.0%。)
また、人口そのものも急増している。アラブ諸国全体の平均年齢は22歳で、世界の平均の28歳に比べるとかなり若い。アラブベビーブーマーと呼ばれる若者が多いのだ。アラブ諸国の全人口は4年前に3億2000万人(現在の米国の人口)であったが、2015年には約4億人に達する。アラブベビーブーマーの特徴は就学率が高いことである。大学に入る人も増えた。エジプトの若者(15-25歳)の識字率は20年前に63%であったのが、2005年には85%にアップしている。ネット人口が爆発的に増えたのも、こうした就学率の高い若者が増えたからである。
ところが若者の急増で、大学を出ても就職できない人が増えてきていた。実際の失業率も公式データよりもかなり高いようだ。さらに貧困層の割合も非常に高い。一方で、アラブ諸国は長期政権の独裁者が支配するようになり、政治や経済の腐敗が蔓延し、貧富の格差が広がった。さらに、反政府の動きを封じるために、国民に自由を与えないようになっていった。Freedom Houseは、北アフリカや中東は、世界で最も民主化のレベルの低い地域と警鐘を鳴らしていた。2010年においてもさらに悪くなっており、改善しそうもないともレポートしている。世界の各国を、自由な国(FREE)、部分的に自由な国(PARTLY FREE)、自由でない国(NOT FREE)に分類したが、以下のようにアラブ諸国はほとんど自由でない国となっている。
●Freedom Houseの
Map of Freedom ところが、アラブベビーブーマーを中心とする若年層では、幸い就学率も高く、そしてインターネットユーザーも多くなってきていた。そして2年前に、ついにフェイスブックがアラビア語対応になり、一気に普及し始めた。以下の表は、北アフリカと中東のアラブ諸国でのフェイスブックユーザー数である。Growthではこの半年間に増えたユーザー数と成長率である。また、Penは普及率で、全人口のうち何%がフェイスブックユーザーであるかを示している。アラブ諸国の他に、インドネシアなどのイスラム国家と、日本と中国も載せた。フェイスブックユーザー数の国別ランキングで見ると、2位と4位にイスラム国家が入っている。
●Facebookユーザー数
ソース:
socialbakers ここでアラブ諸国におけるフェイスブック普及率(浸透率)が、意外なほど高いことだ。Yemenを除くと、いずれも日本の1.92%よりも高い。エジプトで20代の若者が中心になって、フェイスブックを使ってデモを指揮できたのも、若者の間でかなりフェイスブックが根付いていたからであろう。
上の表でFreeの列には、国境なき記者団がまとめた
Press Freedom Index 2010(報道の自由度)の国別ランキング順位を示した。Freedom Houseにも自由のない国と烙印を押されたが、報道の自由度もないとのことだ。チュニジアもエジプトもこれからが本番で大変である。イスラム国家ならではのは自由の考え方も違うだろうし、どのように収束していくのやら。
◇参考
・
Facebook Statistics by country(socialbackers)
・
Press Freedom Index 2010(Reporters Without Borders)
・
アラブの反政府運動 (The Diary After Retirement)
・
Facebook usage statistics Dec 31st 2010 vs Dec 31st 2009 vs Dec 31st 2008(nick burcher)
・
Picture Of The Day: Cairo Protester Holds Sign That Says “Thank You Facebook”(Mediaite)
・
Internet Usage in the Middle East(Internet World Stats)
・
Freedom in the World 2011: The Authoritarian Challenge to Democracy(Freedom House)
・
Doug Cassel on what sparked the current Middle East uprisings(WBEZ91.5)