すでに、動画コンテンツを作りインターネットに投稿し配信するのは、パブリッシャーのみならず、ブランド企業や個人でも、当たり前になってきている。こうした動画コンテンツがいち早く、幅広いネットユーザーに視聴されるようになってきた背景に、ソーシャル系のプラットフォームの役割が大きい。
動画メディアの調査会社である米Tubular Labsが、動画配信のプラットフォームであるSNSにおいて視聴回数の多いパブリッシャー(クリエーター)のランキングを毎月公表しているが、今年8月の結果を図1に示す。ここではグローバルに動画配信に利用されている主要SNSの「Facebook」、「YouTube」、「Instagram」において、どれくらい視聴されているかを示している。
図1 SNSで視聴回数の多いパブリッシャーのランキング。トップ25のパブリッシャーと、ランク外から6パブリッシャーについて、それぞれのSNS別の視聴回数を示している。Twitterなどのプラットフォームでの視聴がここでは示されていない。このため実際の視聴回数はもっと多いはず。
検索性のYouTubeと拡散性のFacebook
トップ25に入るパブリッシャーともなると、SNSだけで月間10億回近く視聴されている。多くのパブリッシャーは、複数のSNSで動画コンテンツを配信して多くのユーザーに閲覧してもらうために、分散型メディアを採用している。だが実際には図1に示すように、特定のSNSに依存している場合が目立つ。
かつては、動画配信といえばほとんどYouTubeの独壇場であった。ところが数年前あたりから、モバイル化・ソーシャル化の追い風を受けて、パブリッシャーが次々とプラットフォーマとしてFacebookへの依存を強めていた。米欧だけではなくて新興国においてもだ。パブリッシャーのコンテンツの中心がテキストから写真・イラストに移るに伴い、Facebookはバイラルメディア環境を整え、オンラインメディアの主導権を握るようになっいた。続いてFacebookは次の一手として、パブリッシャーに対して動画コンテンツの投稿を強力に促した。コンテンツのエンゲージメントが大幅にアップすると売り込んだ。
パブリッシャーもその働きかけに応じて、Facebookへの動画コンテンツの投稿に動き始めた。最初に大きく開花したのが短尺の料理動画である。例えばBuzzFeedのTastyは、3年ほど前に、月間視聴回数が20億回を突破する勢いを見せつけた(「月間ビュー数が億回超えの「料理動画メディア」が続出、レッドオーシャン化の兆しも」を参照)。料理に続いて、その他の分野の動画コンテンツも、世界中のパブリッシャーが競って投稿するようなり、動画配信プラットフォームとして、FacebookがYouTubeに対抗する存在になってきた(他国に比べFacebook普及率の低い日本はそうではない)。
Tubularはこのほど、YouTube と Facebookのそれぞれにおいて、視聴回数の多かったジャンル別動画コンテンツのランキングを発表した。図2に、今年の第2四半期における視聴回数を示しているが、料理(Food & Drink)分野だけだはなくて、エンターテイメントやニュースの注目分野でも、FacebookはYouTubeと激しく競い合っている。
図2 YouTube 対 Facebook。視聴回数の多かったジャンル別動画のランキング。2018年第2四半期の視聴回数(単位は10億回)。ここでの動画コンテンツはほとんど無料で広告やeコマースなどを収益源としている。映画やTVドラマ、スポーツ実況などの課金型の動画配信にもYouTube や Facebookは力を入れ始めており、Netflix、Hulu、Amazon、Appleなどの新たな競合相手との戦いがすでに始まっている。
図1のトップ25のパブリッシャー(クリエイター)が活用している動画配信プラットフォームを見ても分かるように、パブリッシャーは戦略的にYouTubeとFacebookを使い分けしているようだ。
音楽や子供向けなどの動画配信サービスを手掛けていたパブリッシャーは、やはりYouTubeに頼っている。トップ25の1位のT-Seriesは音楽や映画のプロモーション動画を配信しているが、今年8月には30億回もYouTubeで視聴されており、ほとんど100%に近くYouTubeに頼り切っている。4位の子供向け動画のCocomelonも、18億回以上の視聴すべてがYouTubeにおいてであった。賞味期間が長いストック型コンテンツは検索エンジンからの利用も多いことから、YouTubeが向いている。
一方、ニュースメディアのように、数多く投稿する動画コンテンツを、次々とユーザーに消費してもらいたいパブリッシャーは、Facebookを優先して活用している。フロー型の動画コンテンツでも、拡散性が特徴のFacebookだと短期間に多くのユーザーに視聴される可能性がある。バイラル性の高い動画を次々と投稿しているトップ25の3位のLADbibleや同9位のUNILADは、投稿動画の視聴の大半をFacebookに頼っている。
ただ、上の例のようにYouTubeあるいはFacebookの特定プラットフォームに頼り切るのは危険である。そこで最近、特定プラットフォームの依存から脱皮して、分散型メディアに変えていこうとするパブリッシャーが急増している。既に、DIY動画で人気ナンバー1の5-Minute Crafts(トップ25の3位)は、8月の視聴回数がFacebookで8.7億回、YouTubeで8.6億回、Instagramで3.7億回とバランスよく分散させている。動物動画で日本でもファンの多いThe Dodo(13位)は、YouTubeやInstagramでの視聴を増やして、Facebookへの依存を減らしている。
動画配信でも勢いづくInstagram
旬のInstagramが動画配信プラットフォームとして急成長していることも、見逃せない動きである。上で紹介した5-Minute CraftsやThe Dodoでも、Instagramでの視聴回数をこの2~3年一気に増やしてきている。若年層に的を絞って動画を提供したいパブリッシャーは、Instagramへの投稿に全力投球するのも効果的である。トップ25で2位のWorldStar Hip Hop // WSHHは8月にInstagramだけで約16億回、また同8位の9GAG: Go Fun The WorldはInstagramだけで約11億回も視聴されていた。
図3 InstagramのWorldStar Hip Hop // WSHHページ。約2000万人のフォロワーを擁している。今年8月の1か月間で、投稿した動画コンテンツがInstagram上で16億回も再生された
今や動画配信の3大ソーシャル系プラットフォームとして、YouTubeとFacebookに加えてInstagramがのし上がってきたと言える。Facebook一辺倒で動画を提供していた新興パブリッシャーが、最近は相次いで、Facebookへの依存を減らす狙いもあって、InstagramやYouTubeでの視聴回数を増やす施策を講じている。例えば料理動画のTastyは、1年半ほど前までSNSでの動画視聴の約95%がFacebook上であったが、今年8月には約50%にも減っている(図1で示すように、Facebookが4.1億回、YouTubeが1.1億回、Instagramが2.9億回)。
Facebookを活用すれば、かつてのバイラルメディアのような急発進の可能性も
先進国で若者を中心にFacebook離れが少し進んでいるといっても、日本市場と違って、けた違いの規模感と、今でも圧倒的なシェアを誇っている。それに広域に渡っての極めて拡散性が強いSNSである。このため動画サービスを手掛けるスタートアップでも、Facebookをプラットフォームとして活用すれば、短期間で信じられない規模の視聴回数を獲得する可能性がある。
トップ25の15位に突如登場したFake Outrageは、日常生活の便利な道具(新製品)を紹介する短尺の動画サービスであるが、凄まじいロケット発射を成し遂げている。今年の6月まで投稿した動画はほとんど視聴されなかったのが、7月にはFacebookで約1億回視聴され、さらに8月には10倍近い9億4600万回も視聴された。Facebookの累積フォロワー数も、6月までほとんどいなかったのが、7月に3万4400人、8月に21万5000人(9月18日には219万人)と急増している。まさに5年ほど前に起こったバイラルメディアの再来なのか。Facebookが備えもつ恐ろしいまでの拡散性を再認識した。
図4 Fake Outrageの動画コンテンツ。Facebookを動画配信プラットフォームとして活用することにより、わずか2カ月の間に10億回近い動画視聴回数を達成。
ここで見てきた3大動画配信プラットフォームであるYouTube、Facebook、Instagramはいずれも、開発途上国も含んでグローバルにかなり普及している。また動画コンテンツは言葉の壁が比較的低いし、最近ではテキストの説明やコメントなども自動翻訳が進んでいる。このため国境を越えたグローバルな動画サービスが手軽に実現できる環境が整ている。
図1で示したトップ25のパブリッシャーも発信国には開発途上国も多い。1位のT-Series、6位のSET India、それに23位のZee Music Companyはいずれもインド産である。3位の5-Minute Craftsはキプロス、22位のnetd müzikはトルコ、24位のBadabun、25位のCanal KondZillaはブラジルが発信国である。