テレビの視聴時間が減っている。インターネットの台頭でテレビ離れが進んでいる。それを前提にして,メディアのビジネスモデルを見直す動きがあちこちで展開中だ。
ところがどっこい。米国のテレビ視聴時間は減るどころか増えており,今や過去最高のレベルに達している。Nielsen Media Researchの調査は,ネット業界の通説を覆す結果だ。
レポートによると,家庭でのTV視聴時間は9年間,一本調子で増え続け,この1年間( 2004年9月〜2005年9月)では1日当たり平均8時間11分にもなった。1年前に比べ2.7%,10年前に比べ12.5%も増えている。個人の視聴時間は4時間32分で,これも過去最高に達している。プライムタイムの視聴者数も1年前に比べ増えており,決して低迷していない。
先日のPew Internet Project のレポートでは,米国のブロードバンド世帯普及率は53%に達したが,早くも踊り場にさしかかっていることを伝えていた。インターネットの普及と同様,ブロードバンドも使いそうな人はほとんど利用しており,今後は,ほとんど伸びないとの分析だった。
両方のレポートを見て感じることは,市場の2極分化がさらに進むことだ。確かにTVのカウチポテト族は減らないし,半数近くの人はブロードバンドと縁のない生活をおくるかもしれない。だが,富裕層や若年層はTVの視聴を減らし,ブロードバンドインターネットに接する時間を増やしている。ビジネスの観点からは,すでにブロードバンドを利用している富裕層や若年層を相手に商売をしていけば良いのだ。これ以上ブロードバンドを普及させても,つまり貧困層にブロードバンドを使わせても,ビジネス的には旨みがないと踏んでいるのだろう。やっぱりインターネットは貧富の格差をますます拡大させていくのだろうか。
10年少し前の話を思い出した。某大学の某大先生が,その当時の米副大統領ゴアが提唱する世界情報基盤(GII:Global Information)をしきりに持ち上げ,日本も支援すべきと主張していた。地球のすみずみまでインターネット環境を整備する必要性を,声高らかに訴えていたのだ。GII構想は米産業の世界戦略であることは明白なのに。そこで,その先生に「世界の半分近い人が電話すらかけたことがない現状では,開発途上国の生活レベルアップにはGIIよりも電話環境の整備のほうを優先すべきでは」と質問したことがあるが,無視された。
米国だけではなくて,これからの日本でも,もちろん地球レベルでも,インターネットは勝ち組と負け組を色分けしていきそうだ。このままだと,インターネットは貧富の格差を拡大させていく寂しいインフラとなる。
◇参考
・
Nielsen Reports Americans Watch TV at Record Levels・
米国のブロードバンドの普及,踊り場に
posted by 田中善一郎 at 10:45
|
Comment(4)
|
TrackBack(0)
|
TV ビデオ ラジオ