ブログの普及で,誰もが手軽にオンライン出版が実現できるようになった。次に音声ブログでもあるPodcastingの台頭で,個人でもちょっとしたネットラジオ放送局が持てるようになった。そして,とうとう個人によるテレビ放送も・・・。面白くなってきた。
テレビ放送に変革をもたらそうとするプロジェクトが二つ,米国で相次いで始まる。一つが,今週発表のあった視聴者参加型テレビチャンネル「Current」である。元米副大統領のAl Gore氏が仕掛けていることでも話題になっている。8月1日からオンエアする予定。Googleがパートナーとして加わる。もう一つが草の根マルチメディアの「OurMedia」。3月21日から既にサービスが始まっている。ビデオや音声(Podcastingも含む),写真,テキストなどのコンテンツを,個人でも発信できるサービスである。何と誰もが無料で参加できる。こちらはYahooが関わっている。
視聴者参加で若者向けテレビ放送を目指すCurrent Currentは,視聴者層を18歳から34歳のインターネット世代に絞ったテレビ局である。米国の若者は新聞離れだけではなくて,テレビ放送にも遠のいてきている。ゴア氏は,既存テレビ放送が若者の声を反映してこなかったせいとする。視聴者参加形式を採って若者の関心テーマを放送すれば,若者が飛びつくテレビ局が復活できると主張。番組は15秒から5分と細かくセグメント化し,その内容は,技術,ファッション,テレビ,音楽,ゲームなどの最新動向から,環境,家族,資産,政治などの問題までをカバーする。
連携するWebサイトを通して,視聴者が自作ビデオを投稿でき,他の視聴者から高い評価を得たコンテンツはCurrentで放送される。またGoogleの検索でランキングの高いキーワードを参考にして,番組を作っていく。さらにオンラインでビデオジャーナリズムのトレーニングプログラムも用意する。どこか,韓国のOhMyNewsや日本のライブドアが進めている市民ジャーナリズム参加型オンライン新聞と似通ったところもある。
このようなCurenntは野心的で挑戦的なプロジェクトだが,前評判は必ずしも高くはない。一つに政治家が手を出していることが減点要因。民主党の活動とは関係がないとしているが・・・。それよりも気がかりなのが,既存テレビ放送にこだわっている点である。細分化したニッチな番組こそは,オンデマンドのニーズも高く,インターネット放送に向いているはずだ。Currentは衛星放送やケーブルテレビ介して全米の2000万家庭にリーチできる大きな力を持つことは確か。だが,あまりにもニッチな番組だと,多くの視聴者にとって“Gore TV”ではなくて“Bore TV”(退屈なテレビ放送)になりかねないとの声も。詳細な番組編成が固まった後の本番で,“Bore TV”とならなければよいが。
草の根メディアで盛り上がるOurmedia もう一方の
Ourmediaは,個人のビデオ,音楽,写真,音声クリップなどを無料でホスティングしてくれる草の根マルチメディアサービスで,非営利団体OurMedia.orgが運用している。草の根的に育ってきたブログがコンテンツの中心であり,また Lawrence Lessig, Howard Rheingold , Dan Gillmor,Brewster Kahleなどの重鎮がこぞってアドバイザリーボードとして応援していることからも分かるように,ブログの世界(ブログスフィア)では熱烈歓迎を受けている。Yahooもビデオ検索やCreative Commons Searchで後方から支援している。
ビデオ検索の方向が異なるGoogleとYahoo ビデオ検索でも競合するGoogleとYahooであるが,目指す方向が違っている。Googleは最初,テレビ放送番組だけを対象にしていた。この流れでCurrentを支援しているのも頷ける。現在も,PBS,C-SPAN,Fox News,C-SPAN2など,パートナー会社の番組だけに限定している。ビデオ検索結果らすぐにビデオを視聴できるわけではない。このため,ユーザーの評判はあまり高くない。Googleとしては,現時点ではテレビ放送局との絆を固めていく方が大事なのだろう。
Yahooのビデオ検索ではRSSをベースにしており,最初から草の根的なビデオブログも検索対象にしている。この延長上で,Ourmediaのコンテンツも対象として視野に入れるのは当然であろう。だから,多くのブロガーたちが,ビデオブログを始めビデオコンテンツに関しては,Yahooに親近感を抱くようになってきている。
こうした動きを察知してか,Googleは個人のビデオクリップを募り,Google Videoでの検索対象に加えていく---,とGoogleの共同創始者Larry Page 氏が,先のケーブルTV会議で明らかにした。さらに,Ourmediaのようなサービスを仕掛けていくかもしれない。
ブログを起爆として,テキストの世界でパーソナルパワーが炸裂した。オンライン新聞やオンライン出版のあり方が大きく変わらず得なくなった。次は,Podcastingをきっかけに,音の世界でもパーソナルパワーが威力を発揮しそうだ。ラジオの世界が変わっていこう。次は,ビデオの世界でのパーソナルパワーがどのような力を示し,テレビの世界を変えていくかだ。その意味で,「Current」と「OurMedia」のこれからの動きは見逃せない。
◇Currentのプレスリリース
・Al Gore and Joel Hyatt Unveil Current
http://www.current.tv/docs/Unveil.pdf
posted by 田中善一郎 at 11:05
| 東京 ☀
|
Comment(1)
|
TrackBack(4)
|
TV ビデオ ラジオ