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2017年01月17日

「音声アシスタント」を使っていますか? 世界の若年層ネットユーザーの半数が利用

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 iPhoneの「Siri」とか、Androidの「Google Now」とか、Windows Phoneの「Cortana」とかの、音声アシスタント・サービスは、非常に盛り上がっているようだが、実際どれくらい浸透しているのだろうか?

 そこで、スマホをはじめPCなどに組み込まれている「音声アシスタント」機能が、世界のネットユーザーの間でどれくらい利用されているのかの調査を、アクセンチュアが実施した。調査は世界26か国(Australia, Brazil, Canada, China, Czech Republic, France, Germany, Hungary, India, Ireland, Italy, Japan, Mexico, the Netherlands, Poland, Romania, Saudi Arabia, Singapore, Slovakia, South Africa, Spain, Sweden, Turkey, the United Arab Emirates, the United Kingdom and the United States)の2万5996人を対象に、2016年10月から11月までの間にオンラインで行った。回答者の年齢層も14歳から55歳以上までと、各国のオンラインユーザー数の分布に合わせた。

 結果例を図1に示す。世代別の利用状況を見ても明らかのように、若い世代ほど多くの人が利用しているが、中高年層になると音声アシスタントに抵抗を示す人が多い。

音声アシスタント201701.png
図1 音声アシスタントの利用率

 14歳から17歳までの10代では、3831%の若者が今でも日常的に「音声アシスタント」を使っていると答え、最近使い始めた20%を加えると、半数の人が利用していることになる。まだ使っていないが、音声アシスタントに関心を抱く回答者を潜在ユーザーとみなせば、近いうちに10代ネットユーザーのほとんどが利用するのだろう。ミレニアル世代(18〜34歳)でも、7割近い人が音声アシスタントを使うことになりそうだ。

 逆にX世代(35〜55歳)とか、ベビーブーマ世代(55歳以降)となると、スマホなどに向かって音声で問いかけることに抵抗を感じるのか、あるいは問い合わせるたびに個人情報が吸い上げられていくことに危機感を抱くのか、使いたくないという割合が高い。

 今回の調査で興味深かったのは、国別で利用率が大きく異なっていたことだ。中国とインドがそれぞれ55%と高く、米国も46%と高かった。逆に、カナダは27%、ドイツは28%と低かった。日本の結果は出ていなかったが、おそらく低いのではなかろうか。確かに中国では、スマホに向かって話しかけている姿をよく見かける。

 今回の調査でも、スマホユーザーの間で次のようなパーソナライズ・サービスのニーズが高まっていると指摘していた。

My health assistant
Smart trip assistant
My personal assistant
Home mood-atmosphere assistant
Entertainment advisor
Event advisor
My fashion assistant

 そのニーズに応えて、質の高いAI音声アシスタントの出番が増えるのだろう。

 またこうした音声アシスタントの流れに乗って、米アマゾンが売り出した据え置きタイプの音声アシスタントデバイス「エコー」が品切れになるほど爆発的な人気を博し、さらにエコーに搭載された音声アシスタント機能「Alexa」を搭載した製品群が今年1月のCES(Consumer Electronics Show)の最大の目玉になった。これからは、機械に向かって声を出してやり取りしないとダメなんだろうか・・・。


◇参考
・Dynamic Digital Consumers(Accenture)
・Half of Connected Teens Globally Say They’re Using Voice-Enabled Digital Assistants(Marketing Charts)



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posted by 田中善一郎 at 14:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ビッグデータ AI
2015年07月02日

巨大な「モノのインターネット」市場、シリコンバレー企業よりも老舗企業が主導?

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  モノのインターネット(IoT:Internet of Things)が2025年には、年間3.9兆ドル〜11.1兆ドルの経済価値を世界市場にもたらす。 これはマッキンゼー(McKinsey Global Institute)がはじき出した予測である。

IoTMcKinsey201506.png
(ソース: McKinsey Global Institute)
図1 マッキンゼーのIoT市場予測


 そのIoT市場の主導権を握るのはどこか。やはりネット企業なのだろうか。必ずしもそうではなさそうだ。影が薄くなっていた伝統的な老舗企業が、今度こそは我々の出番だと意気込んでいる。

 インターネット市場はこの20年近く、爆発的な成長を遂げてきた。ヤフー、アマゾン、グーグル、フェイスブックのようなシリコンバレー育ちの新興企業が台頭し大活躍してきた。その間、これまで産業界の主役であった伝統企業の多くは、守勢に回りがちで以前に比べ今一つ元気がなくなった。自分たちが長年築き上げてきたビジネスモデルを新興ネット企業によって破壊され、主導権を握られることが増えてきたためだろう。特にコンシューマ分野においてネット企業による主役交代の場面が目立った。

 ところが高成長が続いたインターネット市場もやや陰りが見え始めてきた。あれだけ勢いのあったスマホも出荷台数の伸びが鈍ってきている。そこで成熟期をいずれ迎えるであろう従来型インターネット市場に代わって、次の新しいインターネット市場を探る動きが出てきているのだ。それがIoTである。これまでのインターネット市場では、つながることが前提のPCやスマホなどのデバイスを対象に各種ネットサービスが提供されてきた。次のIoTと称する新しいインターネット市場では、つながることを前提にしなかったモノも含めて、あらゆるモノをつなげて斬新なサービスを提供していこうとしているのである。

 モノのインターネットは急に飛び出てきたわけではない。例えば20年ほど前にはユビキタスコンピューティングとかユビキタスネットワークという掛け声で立ち上げようとする動きが盛り上がったこともあった。ここにきて、センサー、GPS、モバイルネットワーク、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、人工知能、ロボットなどのIoTを支える技術が進歩し整備されるに伴い、いよいよ本番を迎えようとしているのだ。それに合わせてIoTの市場を占うレポートが、3〜4年前あたりから調査会社やコンサル会社、開発企業などから次々と発表され始めた。2020年には300億個のモノがつながり、3兆ドル超の巨大市場を形成するといったレポートのように、IoT参入企業を元気づける内容となっている。
 
 実はモノのインターネットは既に地道に普及してきている。身近な例では監視カメラや自販機がネットに接続され始めているし、産業機器のネットワーク化も盛んになってきている。それに伴い、IoT関連技術の開発競争も激しさを見せている。英国特許庁の調査によると、世界のIoT関連の特許件数は年率40%で増え続けている。2004年から2013年までの10年間に生まれてきたIoT関連発明件数の企業別ランキングは図2のようになった。

‭IoTInventionsCompany.png
(ソース:Forbus、データ: United Kingdom’s Intellectual Property Office)
図2 IoT関連発明件数の企業ランキング。英国特許庁調査による。2004年から2013年のパテントファミリー(特許の優先権を利用して出願した特許の出願群)数を計数している。IBM、ソニー、インテル、GEの老舗企業の他に、ZTE、LG、サムソンの中国/韓国系メーカーや、ノキア、エリクソンの北欧系通信機メーカーが目につく。

 興味深いことに、トップ20社にシリコンバレー育ちのネット新興企業が選ばれていない。それに代わって、伝統的な老舗企業が数多く姿を現している。IoT開発がまだ、センサーや通信などのハードウエアが中心の段階であるからかもしれない。さらにネット企業にとって3年ほど前までは、従来のインターネット市場でソーシャル化、モバイル化を巡って苛烈な競争の繰り広げている最中で、とても先のIoT開発を本格的に取り組む余裕がなかったとも言える。でも自動運転車の開発で先行しているグーグルは、2年ほど前から、計8社ものロボット会社、ネット接続のサーモスタットや煙感知器などを開発している「Nest Labs」、AI関連スタートアップ「DeepMind」などを矢継ぎ早に買収し、IoT開発でも存在感を誇示している。

 従来のインターネット市場の事業者からすれば、IoTのモノとしては、
・ウェラブル(メガネ、ブレスレット、靴、時計、シャツ/ジャケットなど)
・ホーム(家電製品、照明、セキュリティー装置、冷暖房空調設備、サーモスタットなど)
のような、身近なコンシューマ向けデバイスを対象にしていきたい。

 年初に開催された恒例の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー:CES」でも、今年はIoTが目玉になっており、900社以上がIoT関連の製品やサービスを展示していた。これを見たネット企業は、これからのIoT市場においても活躍できると期待したかもしれない。

 ところが、冒頭のマッキンゼーの調査からも分かるように、調査会社やコンサル会社、それにメディアやIoT関連企業が描いているIoT市場の青写真では、ウェラブル・デバイスや家電製品などをあまり眼中に入れていないようだ。図2に示すようにマッキンゼーは、工場、乗物(鉄道、航空機など)、小売、職場、公共物、屋外(物流、自動運転)などの9カテゴリー別にIoT市場規模をはじいている。その70%以上がB2Bアプリケーションと見ている。経済効果が最大のカテゴリーは工場のIoTで、1.2兆ドルから3.7兆ドルと予測している。工場内のモノをセンサーネットワークでつないで、効率的な運用管理や保守を実現させる。B2Bアプリケーションは一般に、B2Cアプリケーションに比べ桁違いに経済効果が大きい。例えば、IoTを活用して電力の燃料削減を1%達成できれば、世界市場で数百億ドル規模のコストを毎年抑えることになるという。医療分野の効率向上や天然資源の設備投資削減でも、同じようにそれぞれ数百億ドル規模の経済効果を生むそうな。これらを積み上げていけば年間10兆ドルを突破するということか。IoTの予測には不確定要素が多く、大風呂敷を広げた夢物語も少なくないが、ともかくほとんどの産業を巻き込んだ形で動き出したのだ。

 ついでに、Business Insiderの予測も覗いてみよう。ここでは、ホーム、政府/インフラ、企業の3セクターに分類して、それぞれにおけるIoTデバイス数と経済効果の予測をグラフで示している。図3がIoTデバイス数、図4が経済効果の予測推移である。ここでも、政府/インフラや企業向けのB2Bアプリケーションが70%以上占めている。

IoTBIa.png
(ソース:Business Insider)
図3 Business Insider調査によるセクター別のIoTデバイス数

IoTBIValueAddedbySector.png
(ソース:Business Insider)
図4  Business Insider調査によるセクター別のIoT市場規模


 もう一つのYole Développementの調査は切口が他と違っていたので、紹介しておく。下の図5は、IoT関連製品やサービスを提供している企業の売上高推移(予測)である。ハードウエア、クラウド、データに分けて予測している。2024年まで年平均成長率 42%で急激に伸び続け、2024年の売上規模は4000億ドルを超えると見込んでいる。2019年までの今後5年間は、ハードウエア(センサーなどを含むIoTデバイス)の売上高が最も多い。2019年においても、ハードウエア売上が年間670億ドルとなり、570億ドルのデータ売上高を上回っている。でも2020年以降はソフトや付加価値サービスの売上が急上昇するのに対して、単価が下落するハードウエアの売上高は下降していくと予測している。特にデータ売上の伸びはすさまじく、2024年には総売上高の約75%と大半を占めると見ている。AIを活用したビッグデータ分析技術が問われそう。

IoTMEMSSensors.png
図5 Yole Développement調査によるIoT市場規模 2020年まではハードウエア分野の売上が多いが、2020年以降はデータ分野が大半を占める

 日本企業は優れたセンサーなどの部品技術を擁するので、IoTデバイスの部品供給で力を発揮しそう。でもスマホビジネスのようにスマホ本体への部品供給だけに終わるのではなくて、市場規模の大きいクラウド(プラットフォームなど)やデータ(アプリ)分野にもグローバルに活躍してもらいたい。IoTは政府や伝統企業を顧客としたB2Bアプリケーションが主流で、シリコンバレー育ちの歴史の浅いネット企業には参入しずらい分野である。アプリケーション分野で対象となる工場、自動車、鉄道、公共設備/インフラ、物流、建設、などのモノつくりに定評の高かった日本の伝統企業が、つながることを前提にした付加価値の高いモノつくりでも世界をリードしてもらいたいものだ。

◇参考
・Here's what happened in Internet of Things this week(Business Insider)
・Unlocking the potential of the Internet of Things( McKinsey Global Institute report)
・Where Is The Internet-Of-Things Being Invented? Not In Silicon Valley(Forbes)
・MEMS Executive Congress 2014(SEMI)
・CES Overselling the Internet of Things(EDN)


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posted by 田中善一郎 at 21:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | ビッグデータ AI
2014年02月24日

なぜ大手ネット企業が一斉に人工知能技術の開発に乗り出したのか

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グーグルだけではない。フェイスブックやヤフーも、さらにバイドゥ、ピンタレスト、ドロップボックス、ネットフリックスといった若いネットサービス企業までも、一斉にAI(人工知能)の研究者や開発者をかき集め、競って開発体制を整備している。

これらハイテク企業が運用するソーシャルメディア・サイトでは、ユーザーの提供情報や行動履歴などの膨大なデータ(ビッグデータ)が宝の山となり、ビジネスの武器となっている。フェイスブックは毎日約500テラバイトもデータベースに蓄えているという。

ところが活用しているデータ、つまりコンピューターで扱えるデータは、これまでテキスト系の構造化データが中心であった。一方でこれから摂取するデータは非テキスト系で非構造化のものが、爆発的に増えてこようとしている。本格的なビッグデータ時代到来ということで、IDCが調査したレポートによると、データベースに蓄えられていくデータ量は2015年までに約8,500エクサバイトに積み上がると予測している。その9割以上が非構造化データである。さらに注目すべきは、その非構造化データの7割近くがユーザー(消費者)が生成するデータであることだ。つまり、ソーシャルメディアで生成されるデータが多くなるということだろう。BigDataIDC2015.png



こうした類のビッグデータをいかにビジネスで活用できるようにしていくかが、これからのネット企業の勝負どころになろうとしているのだ。そのデータの種類も、既にそうなってきているが、テキスト系よりも写真や動画などの非テキスト系データの割合がグンと増えてきている。たとえば有力なソーシャルサイトでは、毎日、次のように大量の写真データが投稿・共有されている。

・フェイスブック・ユーザーは毎日3億5000点の写真をアップロードしている

・ワッツアップ・ユーザーは毎日5億点の写真をアップロードしている(最近ワッツアップをフェイスブックが買収)

・スナップチャット・ユーザーは毎日4億点のスナップ(snap)をアップロードしている

・インスタグラム・ユーザーは毎日5500万点の写真をアップロードしている

ところが、写真のような画像データも、タグ(ラベル)付けされておれば、ビジネスで利用できるのだが、そうでないと無用の長物になりかねない。ソーシャルメディア上で消費者(ユーザー)が投稿する画像(写真)から、商品やブランドロゴ、人物などが特定できれば、マーケターにとって膨大な写真がまさに宝の山になる。

でも一日当たり億点以上も生成される画像にそれぞれ人手でタグ付けしていくのは、不可能である。そこで自動で画像のタグ付けを目指して、AIによる画像認識に大きな期待が寄せられているのだ。中でも切り札として、ディープラーニングと称する機械学習技術に熱い期待が集まっている。AI技術を競う各種コンテストで、ディープラーニングが圧倒的な成績で連勝していたからだ。画像の分類問題のコンテストでも桁違いの成績を収めた。

画像認識の機械学習システムの場合を見てみよう。たとえば人手で犬とタグ付けした犬の画像をたくさん機械学習システム(人工知能)に入力し学習させておけば、新たに入力された画像が犬であるかどうかを自動で識別できるようになるということだ。さらに猫とタグ付けした猫の画像も学習させておけば、未知の画像を与えてもそれが犬か猫かも識別できるようになる。でも、人手でタグ付けした画像で学習させるのは結構面倒である。そこでフェイスブックやインスタグラムのサービスで、ユーザーに投稿写真に対し写真のなかのオブジェクトや人物のタグ付けをしきりに勧めている。それは、機械学習のためにもなるからだ。たくさんのユーザーと投稿写真を抱えているソーシャルメディアでは、機械学習も数多く自動的に行えるので、画像認識の質を高めることができるという。

フェイスブックのAI研究所長に就任したLeCun氏がWiredのインタビューの中で、グーグルやバイドゥがディープラーニング技術を使って、ユーザー投稿写真の画像を分類していると語っている。水面下で、かなり開発が進められているようだ。

ここで、最近公表されている画像認識のサンプル例を掲げておく。最初は、年初にピンタレストが買収したVisualGraphが示す画像認識例。VisualGraphは画像認識とビジュアル検索のスタートアップ。25人が描かれた画像から,20人の顔を自動認識した例である。人間なら25人の顔を簡単に認識できるが、まだ機械(コンピューター)だとそう簡単ではないということかも。

AIPinterestVisualGraph.png

次はグーグルが、ディープラーニング技術を使って、ストリートビュー写真から家の番地を認識する例である。番地の数字は、縦書きや横書き、さらには斜め書きもあるし、サイズやフォントもまちまちであるだけに、かなり学習させる必要がある。テストでは、20万点の番地が含まれたストリートビュー写真を学習させた。機械学習のための写真のタグ付け(人手で番地付け)は、以前、reCAPUTUREを利用してユーザーに手伝ってもらっていたが、今回もそうかもしれない。

GoogleStreetViewNeuralNet.png

画像認識の壁は高そうだが、機械学習による画像認識の挑戦は真っ盛りである。



◇参考
・グーグルが推進する「人工知能のマンハッタン計画」(メディア・パブ)
・Social Media's Big Data Future -- From Deep Learning To Predictive Marketing(BusinessInsider)
・Pinterest, Yahoo, Dropbox and the (kind of) quiet content-as-data revolution(GIGAOM)
・How Facebook's New Machine Brain Will Learn All About You From Your Photos(Popular Science)
・Google team's neural network approach works on
street numbers
(Phys.org)







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posted by 田中善一郎 at 10:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | ビッグデータ AI
2014年01月31日

グーグルが推進する「人工知能のマンハッタン計画」

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 まるで「人工知能のマンハッタン計画」のようだ。そのように、グーグルの最近の動きがたとえられている。第2次世界大戦中に米国や英国などの連合国が科学者や技術者を総動員して原爆開発計画に注力したように、グーグルが人工知能(AI)の研究・開発のために優秀な科学者や技術者をがむしゃらにかき集めているからだ。

 年末年始だけでも、グーグルによるAI関連会社の買収が相次いでいる。年末に「Boston Dynamics」を買収したときには、やっぱりド肝を抜かされた。蹴られても倒れない4脚ロボットや山の急斜面を駆け登る軍備輸送用ロボットなどを開発している会社であったからだ。ここ半年少しの間に、8社ものロボット会社を買収したことになる。年明けには、ネット接続のサーモスタットや煙感知器などを開発している「Nest Labs」を32億ドルで買収。さらに今週に入って、ロンドンに拠点を置く謎のAI関連スタートアップ「DeepMind」を買収した。

GoogleIoT.png

 グーグルのこれまでの主流事業であるWebサービスやスマートフォンサービスに留まらず、ネットにつながる全てのモノをビジネスの対象にしようとしている。ロボットや家庭製品、それに自動車もだ。広義のスマートマシンである。既存事業に加えて、新しい各種スマートマシンにおいても、これからはいかに人間のようにスマート化(賢く)していくかが共通の目標となり、それを支えるAI技術を磨いていこうとしているのである。

 そこでグーグルは、トロント大学でGeoffrey Hinton教授が立ち上げていたベンチャーDNNresearchを2013年3月に獲得したのを口火に、先に述べたようにロボット関連の8社( Schaft、 Industrial Perception、 Meka、 Redwood Robotics、 Bot & Dolly、 Autofuss、 Holomni 、Boston Dymamics)やNestそれにDeepMindと、矢継ぎ早に買収を実施してきた。買収先企業の技術や特許を獲得すること以上に、AIのエキスパートの確保に躍起となった。

 グーグルには、Geoffrey Hinton氏の他にも、発明家やフューチャリストとしても有名なRay Kurzweil氏(エンジニアリングのディレクター)、グーグルの自動運転車を開発しスタンフォードAI研究所長も務めたSebastian Thrun氏(VP&Fellow)、自然言語処理の大家でGoogleの研究本部長を長く務めているPeter Norvig氏など、AIやロボット工学の重鎮を既にグーグルは囲い込んでいた。これに買収先企業に居た若い有望な研究・開発者が、続々と、グーグルに入ってくるのである。米国防省の災害救援ロボット競技会で勝利した東大発ベンチャーSCHAFTの開発者も仲間入りする。スマートホームNestの技術責任者であるロボティックス研究者Yoky Matsuoka氏(かつて秘密の研究所GoogleXに在籍していた日本女性)はグーグルに復帰する。

 それに今週、4億ドル〜5億ドルで買収したDeepMindの研究者も加わる。ただし約70人の社員を抱えているのに製品らしきものは事実上何も出していない謎のスタートアップに4億ドル以上も払うのは、高い買い物ではとの声も出ていた。ところがMIT Technology Reviewによると、DeepMindの1ダース(12人)のディープラーニング研究者は4億ドル以上の価値があるという。ディープラーニングは機械学習の手法で、音声認識や画像認識で大きな可能性を示す成果を上げつつあり、動画解析やロボット技術への応用も期待されている。ところがモントリオール大学のAI研究者Yoshua Bengio氏の見方によると、世界にディープラーニングの優れた専門家が50人くらいしかいないという。でも以下の特許例からも推測できるように、DeepMindが優れたディープラーニング研究者を擁していることが,AIコミュニティー内では知られていた。DeepMindを買収すれば、世界のトップ研究者50人のうち12人を一気に抱えることができるのだ。このため、グーグルだけではなくてフェイスブックなどのインターネット企業も買収合戦に加わった。でも、グーグルならではの興味深い膨大なデータセット(ビッグデータ)や強力なコンピューティングリソースを自由に使え、それに世界中から集まった優秀な研究者と交流できる環境が備わっているとなると、やはりグーグルに軍配が上がる。ちなみに優れたディープラーニング研究者ともなると、年収が7ケタ(100万ドル:約1億円)になるそうな。

DeepMindPatent201401.png

 ディープラーニングはまだまだ開発途上の技術であるが、営利会社のグーグルとしては、その技術により画像や、テキスト、動画を理解したり学習できる新しいタイプの製品を開発していきたいようだ。AIの研究者はSF的な夢の研究に走りがちだが、DeepMindからのスタッフはJeff Dean氏の下で働くことになりそう。Dean氏は分散システムを15年近くも担当してきたベテランで、DeepMindからの研究者にはディープラーニングによる画像検索などをやらせるのだろう。またBoston Dynamicsなどからのロボット部隊は、前のアンドロイド責任者であったAndy Rubin氏が面倒を見るようだ。Nestからの部隊の管理はTony Fadell氏が行い、CEOのLarry Page氏に報告するという。

 スマートな人工の頭脳を開発するために、グーグルはとびっきりスマートな人間の頭脳をかき集めた。そしていよいよ人間に匹敵する人工頭脳の開発プロジェクトが始まるということか。

◇参考
・More on DeepMind: AI Startup to Work Directly With Google’s Search Team | Re/code(re/code)
・What is going on with DeepMind and Google?(MARGINALLY INTERESTING)
・Is Google Cornering the Market on Deep Learning?(MIT Technology Review)
・How Google Cracked House Number Identification in Street View(MIT Technology Review)


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posted by 田中善一郎 at 07:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | ビッグデータ AI
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