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2018年04月16日

モバイル広告市場を牽引する「インフィード広告」、米国では非ソーシャルのシェアが増えて勢力図に異変が

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  ソーシャル化、モバイル化が進むインターネット産業で、この2〜3年、広告分野において台風の目となっているのが「インフィード広告」である。今年は少し鈍化するといっても、米国で前年比約30%増、日本で同23%増の高成長が見込まれている。

 調査会社eMarketerの米国市場予測によると、今年(2018年)のディスプレイ広告費564億ドル(約6兆2000億円)のうち約6割近い329億ドル(3兆5200億円)をネイティブ広告費が占める。2016年から2019年(予測)までの推移を図1に示す。ネイティブ・ディスプレイ広告費(図1の赤棒)の対前年増加率は、2016年が63.7%増、2017年が50.1%増と、爆発的な伸びを示した。それに比べ今年はやや減速するが、それでもプラス31%とすごい勢いで伸び続けそうだ。

 米インフィード広告eMarketerAA.png
(ソース:eMarketer)
図1 米国のディスプレイ広告費の推移。今年のディスプレイ広告費(予測)の58.3%はネイティブ広告が占める。ディスプレイ広告には一般のバナー広告だけではなくて、動画広告やネイティブ広告、リッチメディア広告も含んでいる。

 このネイティブ広告の大半はインフィード広告である。確かに最近、スマホでソーシャルサイトやニュースサイトに接していて目立つのが、流れるように視野に入るインフィード広告の存在である。米国市場での主役は、やはりFacebook(FB)である。今年の米国のディスプレイ広告費の37.2%に相当する210億ドルをFBが米国市場で稼ぐと、eMarketerは予測している。

 米国ではFBなどのソーシャルサイトの広告シェアが高い。そのソーシャル広告は2018年も96%近くがネイティブに頼ることになるという。FBのニュースフィードに流れるインフィード広告がその代表である。だが、そのFBはフェイクニュースや個人情報不正利用の問題を抱えていることもあって、Googleとともに寡占していたデジタル広告市場でブレーキが少しかかりそう。eMarketerもFBのシェア予測を最近になって下方修正している。

 ここで注目したいのが、米国のネイティブ・ディスプレイ広告市場で昨年は80.9%も占めていたソーシャルサイトが今年は73.5%に落ちると見られていることだ。代わって、残りの26.5%が非ソーシャルサイトが占めることになる。今年の非ソーシャルのネイティブ・ディスプレイ広告費は、前年に比べ80%も増えて87.1億ドルに達すると見込まれている。

 このように広告市場に揺さぶりをかけようとしているのがAmazonである。非ソーシャルプラットフォームであるAmazonがネイティブ広告市場でも暴れようとしている。同社のディスプレイ広告費は、今年の21.7億ドルから2020年には47.8億ドルに膨らむと見込まれている。今年の米国のインターネット広告市場は1000億ドルの大台に乗せるだろう。これからもGoogleとFacebookによる寡占が一段と進むと見られていたネット広告市場も、その勢力図が塗り替わろうとしているのかもしれない。

 米国の2017年の870億ドル(約9兆5700億円)規模に比べると、日本の2017年のインターネット広告市場は電通発表で1兆5094億円とかなり小さいが、大きな時差こそあれインフィード広告の展開でも後追いしている。サイバーエージェント/デジタルインファクトが実施したインフィード広告市場調査では、2017年に前年比36%増の1903億円に達した。今年は同23.1%増の2343億円と予想している。インフィード広告のソーシャルサイトの割合は、昨年が69.2%で、今年は71.2%とほぼ同じと見込まれている。つまり非ソーシャルが約3割となっている。規模こそ米国に比べ小さいが活気があり、似通った動きを見せている。


◇参考
・Native Ad Spend Will Make Up Nearly 60% of Display Spending in 2018(eMarketer)
・EMarketer: Native ad growth will dip to 31% this year(Marketing Dive)
・Native ads will drive 74% of all ad revenue by 2021(Business Insider)
・サイバーエージェント、インフィード広告市場調査を実施(サイバーエージェント)
・SNSでは、約6割が「ハッシュタグ検索よりも、タイムラインで情報収集」(プレスリリース、PR TIMES)
・今後、企業が最も注力したいSNS広告は「LINEのインフィード広告」(プレスリリース、PR TIMES)



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posted by 田中善一郎 at 15:51 | Comment(0) | マーケティング 広告
2017年12月08日

世界の全広告費の25%を、GoogleとFacebookの2社だけで寡占

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 GoogleとFacebookの2社が、圧倒的なシェアでオンライン広告市場を占めていることは、良く知られている。特に米国市場における寡占率の予測はあちこちで見かける。

 そこで、放送のTV広告やオフラインの屋外・映画広告なども含めた、世界の全広告市場において、GoggleとFacebookの2巨人がどれくらいのシェアを占めているかも知りたくなる。できれば、巨大化している中国市場も含めたシェア率も知りたい。

 その要望に応えた調査結果を、WARC(World Advertising Research Center世界無線通信主管庁会議)がこのほど明らかにした。WARCでは加入国(96マーケット)を対象に、モバイルだけではなくて広告市場の動向をも調べており、今回は2017年の予測も添えて発表している。

 その結果が次の図の通りである。
TotalMediaAdRev2017WARC.png
(データ:WARC、グラフ:statista)
図1 GoogleとFacebookの2社による2017年の広告売上は、世界のオンライン広告市場の61%、世界の全広告市場の25%を占めている。

 世界のオンライン広告市場における、2巨人(Goggle+Facebook)のシェアは、2012年の47%、2016年の58%、2017年の61%とはじき出している。今年(2017年)は、Googleが44%、Facebookが18%も占めている。

 オンライン以外の広告市場となると、TV広告は多くの国ではオンライン広告を上回る主役に居座っているし、グローバルに見れば、新聞、雑誌、ラジオ、屋外、映画などの広告費も膨大だ。GoggleやFacebookの影響があまり及ばない市場も大きい。

 そのためオンラインとオフラインを含めた全世界の広告市場となると、2巨人(Goggle+Facebook)のシェアは、2012年に9%、2016年に20%、2017年に25%となっている。今年(2017年)の内訳では、Googleが18%、Facebookが7%を占めると予測している。

 オンライン広告市場と比べるとシェア率は低いが、全世界の広告市場ですでに25%も占めているということは、やはり凄い。GoogleとFacebookが完全に牛耳っているオンライン広告市場の急成長が見込まれており、一方でオンライン以外の広告市場は成長が鈍ったり縮小傾向にあるだけに、全広告市場でも2巨人のシェアは今後急激に高まることになりそう。TVの動画広告もオンライン広告に流れ出しているし、屋外広告すらもオンライン広告化しそうである。

 WARCの調査では、かなりZenithMediaのデータを流用しているようである。そのZenithMediaが、今年の広告メディアの世界ランキングを発表していたので、そのトップ10を以下に掲げる。もちろん、トップ2はGoogleとFacebookとなっている。

Rank Media owner
1 Alphabet(Google)
2 Facebook
3 Comcast
4 Baidu
5 The Walt Disney Company
6 21st Century Fox
7 CBS Corporation
8 iHeartMedia Inc.
9 Microsoft
10 Bertelsmann
(ソース:ZenithMedia)
図2 Ranking of Top 10 Global Media Owners 2017


◇参考
・25 Percent of Global Ad Spend Goes to Google or Facebook(statista)
・Mobile is the world's second-largest ad medium(WARC)
・Adspend Database(WARC)
・GroupM: Global Ad Investment Will Grow 4.3% in 2018; Six Countries to Drive 68% of Incremental Investment(GroupM)
・Google and Facebook now control 20% of global adspend(ZenithMedia)

訂正:、WARCは、World Advertising Research Centerの略称で、世界無線通信主管庁会議ではありません。2017年12月15日付け
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posted by 田中善一郎 at 22:59 | Comment(0) | マーケティング 広告
2017年09月28日

「グーグル」と「FB」が支配するデジタル広告市場、驚くべき寡占化の勢いをグラフで追ってみる

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 GoogleとFacebookの2巨人が、デジタル広告市場を寡占している。よく知られている話である。でも、両社による寡占化がどう展開するかをグラフで追ってみると、複占( duopoly)が思っていた以上に異常なレベルに向かっていることに、驚いてしまう。

 米デジタル広告市場のトップ10社の各広告費をeMarketerが予測していたので、それをグラフ表示したのが図1である。2016年から2019年までの、年間広告費の推移を示している。トップ2のGoogleとFacebookが、他の8社を大きく引き離して突っ走っている。トップ2社の勢いだけが特出し、今後もその他グループとの差をドンドン引き離そうとしているのだ。

FBGoogleAdeMmarketer1.png
(データソース:eMarketer)
図1 米デジタル広告費の推移。2016年〜2019年の年間売上高を会社別に示している。図ではトップ10のみプロットしている。Googleの広告費にはYouTubeも、Facebook広告費にはInstagramも含む。

 2017年(今年)の予測でも、トップ2のGoogleとFacebookの好調ぶりが際立つ。eMarketerの予測では、Googleが前年比18.9%増の350億ドルに、Facebookが前年比40.4%増の174億ドルに跳ね上がる。米国の合計デジタル広告費が15.9%増の830億ドルとなっている。成長率で平均を上回るGoogleとFacebookが、その他グループとの差を拡大しているのだ。来年以降も、トップ2の成長率がその他グループを上回り続けると見られており、GoogleとFacebookによるデジタル広告市場複占のレベルが高まる一方である。

 この異常事態に待ったをかける動きは出てきている。例えば、AOLと米Yahooを傘下に収めたVerizonが抵抗勢力として注目されている。統合により浮上し同社グループの今年の広告売上高は36億ドルと急増しそうだが、それでもGoogleの350億ドルやFacebookの174億ドルに比べると桁違いに少ない。さらに今後の成長予測は非常に厳しく、2019年の売上高は微増の38億ドルに留まると見られている。高度成長を続けるGoogleとFacebookは、それぞれ2019年の売上高が467億ドルと256億ドルと跳ね上がり、停滞気味のVerizonのはるか先を走り続けることになりそう。

 トップ10の売上高推移を棒グラフで示したのが図2である。GoogleおよびFacebookのそれぞれの広告売上高が、米国の全デジタル広告売上に占める割合も示している。トップ2による複占のレベルが、2017年の63.11%(Google42.17%+Facebook20.92%)から2019年の67.57%(Googel43.33%+Facebook24.24%)へと高まると、予測されているのだ。

FBGoogleAdeMmarketer2.png
(データソース:eMarketer)
図2 トップ10の売上高推移。トップ10以外の売上高は積み上げていない。ただし、GoogleおよびFacebookで示している百分率は、米国の全デジタル広告費に対するシェアである。

 参考までに、eMarketerの公表したデータを図3に掲げておく。

FBGoogleAdeMmarketer3.png
(ソース:eMarketer)
図3 eMarketerが2017年9月に公表したデータ

 このような2巨人によるデジタル広告市場支配は、中国やロシアなどを除けば、グローバルに同時展開している。これまで以上に、今後もさらに両社による市場支配力が拡大していくと予測されているのはなぜだろうか。まず第一にモバイル広告の取り組みに成功したことがある。それに加え、今後とも爆発的成長が見込める動画広告にも先手を打っている点があげられる。

  IAB(the Interactive Advertising Bureau)によると、2016年に初めてモバイル広告がデジタル広告売上の半分以上を占めた。今後は明らかに、そのモバイル広告を中心にデジタル広告市場が展開することになる。comScoreの今年6月調査によると、モバイルユーザーは、モバイル端末接触時間の87%をモバイルアプリを利用しているという。

 そのモバイルアプリのユーザーランキングをcomScoreが発表しているが、2017年6月の調査結果を図4に示す。18歳以上の米国ユーザーを対象にした調査で、利用割合の多いトップ10アプリを掲げている。その中でGoogleアプリが5つ、Facebookアプリが3つも占めているのだ。こうしたアプリを通じてかき集めた個人の行動履歴などのデータが、言うまでもなく広告ビジネスの強力な武器となっている。図4でも明らかに、GoogleとFacebookのトップ2が圧倒的に大量の個人データを収集していることになる。 

MobileAppTop10201706.png
(ソース:comScore)
図4 モバイルアプリのユーザーランキング。2017年6月調査。

 世代別のモバイルアプリ・ランキングを図5に示す。確かにGoogle検索やFacebookSNSは最近、若年層(Age18-24)への浸透が鈍ってきているようだが、それを補う形でGoogleFacebook傘下のYouTubeやFacebook傘下のInstagramが上位に食い込んでいる。図34に示すように、YouTubeの広告売上高は2017年の39億ドルから2019年に50億ドルへ、Instagramは2017年の31億ドルから2019年に69億ドルへと増え、トップ2の新たなけん引役を果たそうとしている。それぞれ単体の広告売上だけでも、2019年の3番手候補であるMicrosoftやVerizonを上回ると予測されている。

Top8AppAge201706.png
(ソース:comScore)
図5 モバイルアプリの世代別ユーザーランキング。2017年6月調査。

 Google検索離れとかFacebook離れが進んでいると頻繁に伝えられているが、comScoreの調査結果を見る限りにおいては、モバイル全盛時代に入った現在、そのような動きが顕著に現れていない。図6に示すように、2016年の1年間でも、GoogleやFacebookの主要アプリのユニークユーザー数は、2ケタ台の成長を示している。モバイルシフトでGoogle Search離れが懸念されていたが、昨年末のGoogle Searchアプリのユニークユーザー数は前年比で40%も増えている。

MobileAppcomScore2016Dec.png
(ソース:comScore)
図6 トップ10モバイルアプリの成長率。2016年12月のユニークユーザー数と前年同月比成長率を示している。

 このようにGoogleとFacebookはモバイルアプリで圧倒的に集客しているうえに、ユーザー1人当たりの広告売上高も他社を圧倒している。メディア調査会社Ampere Analysisではグローバルを対象に、四半期単位のMAU(月間アクティブユーザー)当たり広告売上高を会社別に明らかにしている。それによるとGoogleは2015年第1四半期の5ドルから2016年第4四半期の約7ドルへ、Facebookは2.3ドルから5ドルへと、ー1人当たりの広告売上高をアップさせている。 

Ad per MAU Ampere.png
(ソース:Ampere Analysis)
図7 2016年第4四半期におけるMAU(月間アクティブユーザー)当たりの広告売上高。ここではグローバル市場が対象に。

◇参考
・Google and Facebook Tighten Grip on US Digital Ad Market(eMarketer)
・米ネット広告売上が22%増と急成長なのに、グーグルとフェイスブック以外のメディア会社がゼロ成長なのはなぜ(メディア・パブ)
・Facebook closes the gap on Google(Ampere Analysis)

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posted by 田中善一郎 at 12:59 | Comment(1) | マーケティング 広告
2017年04月28日

米ネット広告売上が22%増と急成長なのに、グーグルとフェイスブック以外のメディア会社がゼロ成長なのはなぜ

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 米国のインターネット広告は相変わらず絶好調だ。 IAB(the Interactive Advertising Bureau)とPwC(Pricewaterhouse Coopers)から公表された恒例の“IAB internet advertising revenue report”によると、昨年(2016年)のネット広告売上が725憶ドルとなり、前年比で21.8%も増えた。今年にも、TV広告を追い抜く勢いである。

 このネット広告で最大の課題は、グーグルとフェイスブックの2巨人による寡占があまりにも進んでいることである。Digital Content NextのJason Kint氏がはじいたデータによると、図1に示すように、グーグルとフェイスブックによるネット広告売上の合計が、2016年に517憶ドル(=376憶ドル+141憶ドル)に達した。これは米国のネット広告売上高(725憶ドル)の71.3%も占めることになる。両巨人による市場占有率が、一昨年(2015年)の67.4%から昨年の71.3%へと、一段と寡占化が進んでいると予測している。

AdGoogleFacebook2016a.png
単位:10憶ドル
(データソース:Digital Content NextのJason Kint氏、IAB+PwC)
図1 米インターネット広告の売上高(単位は10憶ドル)。2巨人(グーグル+フェイスブック)だけの売上高合計が、その他大勢の売上高総計を大幅に上回る。2巨人による市場占有率が、最近の1年間でも拡大している

 図1で示したグーグルとフェイスブックの米市場におけるネット広告売上高は、それぞれの公表決算書をベースに推定した値である。その他の売上高は、IABが発表した全米のインターネット広告売上高から2巨人の売上高を差し引いた値を用いている。精度はあまり高くないかもしれないが、大きなトレンドは読み取れるであろう。

 この1年間(2016年の1年間)で米国のインターネット広告売上は129憶ドル(725憶ドル-596憶ドル)も増えたが、その同じ期間にグーグルは63憶ドル、フェイスブックは51憶ドルも増えている。両巨人の売上増は計114憶ドルとなり、全米増加分(129憶ドル)のうちの89%も占めることになる。驚くことに、グーグルとフェイスブックの2社以外の全メディア(広告媒体社)の増加分はわずか14憶ドルで、全体の11%しか占めていないのだ。

 さらに、FortuneやBusiness Insiderでも紹介されていたが、Pivotal Researchのアナリスト Brian Wieser氏は、もっと厳しく見ている。2016年の米国のインターネット広告売上の増加分の全てが2巨人によるものだという。ということは、その他のメディア社の売上はゼロ成長であったということになる。同氏によると、2巨人による市場占有率は、一昨年の72%から昨年は77%へと跳ね上がったと予測している。

  IABとPwCのレポートによると、2016年第4四半期のインターネット広告売上の73%が上位10社に占められていると報告している。先に紹介したKint氏やWieser氏の予測ほど、グーグルとフェイスブックによる寡占度は高くないようだが、それでも広告売上が両巨人に過度に集中しているのは間違いない。

 両巨人が寡占化を進めて来れたのは、モバイル広告の取り組みがうまく行ったことがある。また今後とも急成長が見込める動画広告にも先手を打っており、寡占状態は当分続きそう。そこで、IABとPwCのレポートによる、モバイル広告と動画広告の動向を付け加えておく。

 米国における、モバイル広告売上と非モバイル(デスクトップ)広告売上の推移を、図2と図3に示す。2016年のトピックスは、インターネット広告売上の半分以上をモバイル広告が初めて占めたことだ。

IAB2016Mobile.png
(単位:10憶ドル)
(ソース:IAB、PwC)
図2 モバイル広告売上と非モバイル(デスクトップ)広告売上の推移
 
IABMobile2016.png
(ソース:IAB、PwC)
図3 2016年のモバイル広告売上は前年比77%増の366憶ドルに。インターネット広告売上725憶ドルの半分以上を占めた。

 特にフェイスブックのモバイルシフトは凄まじく、今では同社の広告売上高の84%をモバイル広告が占めるようになった。また、2016年の米国のモバイル検索広告売上は前年比91%増の172憶ドルに達し、グーグルもモバイルの追い風を受けている。
 
 グーグルとフェイスブックがインターネット広告事業で最も力を入れているのが動画広告である。その動画広告売上高は、図4に示すように、2015年の59憶ドルから2016年には前年比53%増の91憶ドルへと急増。特に目立つのは、モバイル動画広告の急伸だ。2015年の16.9憶ドルから2016年の41.6憶ドルへと成長。前年比145%増の驚異的な伸びを示した。

IAB2016Video.png
(単位:10憶ドル)
(ソース:IAB、PwC)
図4 米国の動画広告売上。モバイル動画広告売上の急成長が際立つ

 両巨人の地位は揺るぎそうもない。ただ最近、両社のインターネット広告事業に関して、不正請求や問題サイトへの広告掲載などの不祥事が相次いでおり、逆風も吹き荒れている。また広告媒体社が自社メディアで、両巨人に対するプラットフォームの在り方を厳しく追及する記事が目立って増えてきたのも興味深い。
 

◇参考
・IAB internet advertising revenue report:2016 full year results
(IAB)
・Jason Kint氏のツイート
・Google and Facebook Account For Nearly All Growth in Digital Ads(Fortune)
・Facebook and Google completely dominate the digital ad industry(Business Insider)
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posted by 田中善一郎 at 16:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2016年11月03日

月間モバイル・オンリー・ユーザーが10億人突破したフェイスブック、 全広告売上の84%をモバイル広告が占める

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 フェイスブックのモバイルシフトがすさまじい。

 第3四半期の決算発表で示されたデータを見てみよう。モバイル端末からフェイスブックを利用している月間のアクティブユーザー数(MAU)が世界で16億5800万人に達した。9月30日時点のフェイスブックのMAUが17億8800人となっているので、ほとんどのユーザーがモバイル端末からもフェイスブックにアクセスしているのだ。

FB2016Q3MobileMAU.png
図1 モバイルMAU。 単位:100万人

 注目したいのは、モバイル端末からしか利用しないユーザー、つまりモバイル・オンリー・ユーザーが急増していることである。そして、ついに月間のモバイルMAUが10億550万人と10億の大台に乗せた。これは新興国/開発途上国で、パソコンを使わないでインターネットに初めて接するモバイルユーザーが増えていることにもよる。またフェイスブックが、開発途上国で安い月額固定料金サービスを提供していることも大きい。

FB2016Q3MobileOnlyMAU.png
図2 モバイルオンリーMAU。単位:100万人

 こうしたグローバルにほぼ同時に展開しているモバイルシフトは、GlobalStatsが発表したStatCounterでも見られる。最近、モバイル端末からのインターネット利用が、デスクトップからの利用を追い抜いたばかりであった。さらにここでもモバイルシフトが加速化しそう。

FB2016InternetUsageStatCounter.png
図3 モバイル端末からのインターネット利用が、デスクトップからの利用を追い抜く

 フェイスブックのモバイルシフトが高く評価されているのは、同社の売上に大きく貢献しているからだ。売上高のほとんどを占める広告売上高は、第3四半期に前年同期比59%増の68億2000万ドルと急成長を遂げたが、そのうちの84%がモバイル広告であった。前年同期のモバイル広告比率が78%であったので、広告売上でのモバイルシフトも順調に進んできたといえる。

 米国のインターネット広告売上を示す"Internet Advertising Revenue Report"が、IABとPwCから先日公表された。それによると今年上期(1月〜6月)の米国のモバイル広告売上高が155億ドルと、前年同期比89%の爆発的な伸びを示している。そのインターネット広告の約半分(47%)をモバイル広告が占めるようになっている。

FB2016IABAdFormat.png
図4 主なアドフォーマット別の広告売上高シェア。モバイル広告売上高のシェアが、昨年上期の30%から今年上期の47%と急拡大している

 米国のインターネット広告売上高の半分近くをモバイル広告が占めるようになったことに目を見張るが、一方でフェイスブックが同社のネット広告売上高の84%も占めているということは、いかにフェイスブックがモバイルシフトで先行していたかを物語っている。

 モバイル広告事業で先行できたお陰で、フェイスブックは最近の四半期決算毎に、アナリストの予測を上回る売上高を誇示してこれた。今回の第3四半期の決算でも予想を上回る好業績を示した。にもかかわらず、発表後の株価は低迷気味となる。モバイル広告で先行したということは、いち早くピークを迎え、減速することになると懸念されていた。同社CFOも広告売上高は2017年半ばから減速すると説明会で語っている。これから本格化するInstagramやMessenger、WhatsApp、動画などの広告売上だけでは、これまでのような予想を上回る成績を出し続けることは難しいということか。法人向けのWorkplaceやAI&AR/VR技術を活用した事業にも期待したいところだがも、収益に貢献できるには時間がかかりそう。


◇参考
・Facebook Reports Third Quarter 2016 Results
(Facebook)
・Facebook Q3 2016 Results(Facebook)
・Mobile and tablet internet usage exceeds desktop for first time worldwide(StatCounter)
・One billion people now use Facebook on a mobile device − and only a mobile device − for the first time(recode)
・ 2016 Internet Advertising Revenue Half-Year Report
(IAB)
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posted by 田中善一郎 at 20:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2016年03月23日

「広告であることを明かさないで消費者をだました」と、米連邦取引委員会が老舗デパートを罰する

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 米連邦取引委員会(FTC)は、広告であることを明示しなかったかどで、老舗デパートのロード&テイラー(Lord & Taylor)をこのほど罰した。これを公にしたリリースを以下に示す。

FTCLoadTaylor201603.png

 ソーシャルメディアの浸透に伴ってインフルエンサーを活用したPR活動が盛んになっている。投稿行為などの、いわゆるエンドースメントを正しく実施しないと問題が起こりやすい。またモバイルシフトの流れに乗ってさらなる高成長が見込まれているネイティブ広告も、編集記事との境界があいまいになりやすいこともあって、問題が生じやすい。

 そのためFTCは、人を欺くような広告を出さないようにと、ことあるごとにオンライン広告関係者に向けて警鐘を鳴らし続けていた。公式なガイドラインも、エンドースメントに関しては改訂版を昨年5月に、ネイティブ広告に関しては昨年12月に、以下のように発行している。

・エンドースメント(2015年5月)
The FTC’s Endorsement Guides: What People Are Asking
・ネイティブ広告(2015年12月)
Native Advertising: A Guide for Businesses

 ロード&テイラーは、広告であることを表示しなかった件でFTCから勧告されていたが、2016年3月16日にFTCに従う形でFTCとの和解に至った。FTCはこれから、上のガイドラインに沿ってエンドースメントや広告に関して厳しく対応していくことを、世に見せつけたことになる。今回は最初ということで罰金を免除したが、これからは1万6000ドルまでの罰金を科していく構えである。


 そこで今回のロード&テイラー問題の経緯を具体的に見ていこう。ロード&テイラーは全米でファッション衣料などを販売している老舗の小売店(デパートメントストア)である。同社は2015年3月後半に、Design Lab 衣料コレクションの一連のソーシャルメディア・キャンペーンを実施した。18歳から35歳までの女性が主ターゲットである。

 そのキャンペーンの一つに、インスタグラム(Instagram)の活用があった。その時、トップクラスのオンラインのファッション・インフルエンサー50人を利用することになった。同社は各インフルエンサーに今回のコレクションの衣料(ペイズリー・ドレス)を贈呈し、そのドレスを着た写真をインスタグラムに一斉に投稿させた。

 ファッション分野のトップクラスのインフルエンサーともなると、ファン数(フォロワー数)が50万人以上抱える人気者も珍しくない。最新のドレスを着飾った写真などを数多く投稿し、その投稿写真には1万件前後のLike数(いいね数)を集めることもある。そのインフルエンサーの一人であるWendy Ngyyenさんの投稿画面を覗いてみよう。下図左に示すように、肩書がファッションブロガーとYouTubeコンテンツクリエイターとなっており、もちろんファッションモデルでもある。94万人近いファンを擁している。下図右は、彼女が昨年3月末にインスタグラムに投稿した写真で、ロード&テイラーから与えられたドレスを着ている。その写真を気に入った1万2700人近くがいいよ!と反応していた。

FTCLoadTaylorInfluenser1.png

 ロード&テイラーのコレクションのキャンペーンでは、こうしたインフルエンサー50人に昨年3月後半の特定期間(時間帯)に一斉に投稿させていたのである。そのインフルエンサーの投稿は、総計で1140万人ものインスタグラムユーザーに届いたという。その結果、投稿写真に写っていたドレスはすぐに完売したというから、大きな成果を上げたわけだ。

 ところが、大きな問題が浮上した。インフルエンサーが着ていたドレスはロード&テイラーから無料で与えられており、さらに各人は一人当たり1000ドルから4000ドルの報酬も受けていた。また投稿写真のキャプションには、Lord & Taylorのインスタグラムアカウント(@Lord & Taylor)を示し、ハッシュタグ#DesignLabを付けることを指示されていたのだ。下図の2人のインフルエンサーが投稿した写真でも、同社の指示に従っているのが分かる(赤線の部分)。彼女たちがきっちりと指示に従ったのは、対価を受け取っているからである。でも対価をもらているのなら、#Adとかを付けて広告であることをユーザーに知らせるべきである。

FTCLordandtaylorSample.png

 ユーザーからすれば広告などのラベル明示がなければ、写真のドレスをインフルエンサーが自発的に推奨している価値ある商品と信じることになる。でも実際は、自ら選んのではなくて企業から贈られたドレスを推奨し、対価をもらって指示通りに投稿していたのである。この行為は、消費者を欺いていると見られても仕方がない。


 またFTCは、同キャンペーンのネイティブ広告についても広告表示がされていないと同社を警告した。ファッション誌「NYLON」は、Design Lab 衣料コレクションの写真をNYLONのインスタグラムアカウントに投稿していたが、そのキャプションをロード&テイラーが編集していたペイドパブリシティであった。ネイティブ広告にもかかわらず、広告であることを明示していなかったのだ。

 このニュースは早速、ABC Newsでも4分余りの動画で報道されていたので、以下にエンベッドしておく。今回の写真投稿に関わったファッションインフルエンサー2人もインタビューに答え、経緯を語っている。FTCの広告業務のアソシエイト・ディレクター(消費者保護局)であるMary K. Engle氏も登場していた。彼女は「FTCはネイティブ広告のコンテンツについてあまり気にしていなくて、それよりもサイト上でどのように広告であることを明示しているかについて、つまりラベル表示に注目している」と以前にも語っていた。米国ではアドブロックの普及に見られるように、インターネット広告に対する不満が相変わらず高い。多くの調査で、広告と編集が紛らわしいとの声も多い。FTCはそうした消費者の声を背景に、彼らが発行したガイドラインを厳しく順守させていこうとしている。





◇参考
・Lord & Taylor Reaches Settlement with FTC Over Native Ad Disclosures(WSJ)
・Lord & Taylor Paid Fashion Bloggers $4K Each To Advertise On Instagram(Inquisitr)
・FTC Announces Settlement With Lord & Taylor After Accusing Retailer of Deceptive Advertising(ABC News)
・あいまいなネイティブ広告に米FTCは苛立ち、ニュースユーザーは落胆を(メディア・パブ)
・Native Advertising: A Guide for Businesses
(FTC)
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posted by 田中善一郎 at 23:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2016年03月11日

モバイル広告費がテレビ広告費を追い抜く、中国や英国に続いて4年後には米国でも

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 年間のモバイル広告費がテレビ広告費を、米国では4年後の2020年にも追いつきそうだ。一足先に中国や英国では今年にも追い抜いてしまう。eMarketerが発表した予測である。

 前々から米国では、モバイル広告を含んだデジタル広告費がテレビ広告費を2017年前後にも抜き去ると予測されていた。今回のeMarketerの調査で明らかにしたように、来年その予測が実現し、メディア広告のトップの座にデジタル広告が躍り出るであろう。すでにこのトップ交代劇は英国と中国では終演している。英国では広告のない公共放送BBCの存在もあって2010年に、また中国では2014年に それぞれデジタル広告がトップの座についた。

 そのデジタル広告費の中でモバイル広告費の占める割合が急増しており、とうとうモバイル広告費だけでもテレビ広告費を上回る時代が訪れようとしているのだ。先駆けて中国や英国で今年にも達成し、モバイル広告が断トツの独走態勢に入ることになる。

 巨大なテレビ広告王国の米国でもテレビ落日の日が迫っている。図1に示すように、テレビ広告費は2020年まで年率2%前後と低成長時代に入る。一方、今年のデジタル広告費は前年比15.4%増の688.2億ドルに、またモバイル広告費だけを見ると前年比38%増の436億ドルに急上昇する。2017年にデジタル広告費は773.7億ドルに達し、720.1億ドルのテレビ広告費を追い抜くと、eMarketerは見ている。さらに2020年にはモバイル広告費だけでも771億ドルに届き、テレビ広告費と肩を並べる。またテレビ広告費の伸びが減速している背景として、図1にも示されているように、デジタルビデオ広告費に蚕食されていることも見逃せない。

Emarketer201603USAd.png
(ソース:eMarketer)
図1 米国のテレビ広告費とデジタル広告費(モバイル広告費)の予測。単位は10億ドル

 英国のテレビ広告費とデジタル広告費(モバイル広告費)の予測を図2に示す。英国でもモバイル広告費が好調で、今年は前年比35%増の45.8億ポンド(70億ドル相当)に達し、41.8億ポンド(63,9億ドル相当)のテレビ広告費を上回る。2020年には、デジタル広告費はテレビ広告費の約3倍に、モバイル広告費だけでもテレビ広告費の約2倍規模になる。テレビはわき役になってしまう。

Emarketer201603UKAd.png
(ソース:eMarketer)
図2 英国のテレビ広告費とデジタル広告費(モバイル広告費)の予測。単位は100万ポンド


 モバイル広告の寡占では、中国が最も際立っている。図3は中国のテレビ広告費とデジタル広告費(モバイル広告費)の予測である。モバイル広告費の伸びがすさまじく、今年は前年比60%増の273.1億ドルに膨れ上がり、189.2億ドルのテレビ広告費を一気に追い抜くという。モバイル広告費の高成長は今後も継続し、2020年には704.3億ドルに達し、テレビ広告費の3,7倍規模にもなる。

Emarketer201603ChinaAd.png
(ソース:eMarketer)
図3 中国のテレビ広告費とデジタル広告費(モバイル広告費)の予測。単位は10億ドル

 この急成長するモバイル広告費を支えているのが、Alibaba、Baidu、Tencentなどの巨大ネット企業である。代表的な企業のモバイル広告売上高を図4に示す。トップのAlibabaは、今年のモバイル広告売上高が前年比54.8%増の91.6億ドルになると予測されている。トップ3のAlibaba、Baidu、Tencentだけで、中国の2016年のモバイル広告売上高の72.8%も占める。米国ではトップ2のGoogleとFacebookで、2016年のモバイル広告売上高の50.9%も占める(これもeMarketerの予測)。米中とも、数少ない勝組の巨大企業によって、これからの核となるモバイル広告市場が寡占されることになる。

AdChinaBig5AdRevenue.png
(ソース:SCMP、データ:eMarketer)
図4 中国の代表的なネット企業のモバイル広告売上高。単位は10億ドル
 
 そこで米中において、2020年に向けてモバイル広告費とテレビ広告費がどう変化するかを、eMarketerのデータをもとに、図5と図6のようにグラフ化してみた。見比べても分かるように、中国のモバイル広告費の伸びはすさまじい。

AdUS20152020.png
(データ:eMarketer)
図5 米国のモバイル広告費とテレビ広告費

AdChina20152020.png
(データ:eMarketer)
図6 中国のモバイル広告費とテレビ広告費

 
 米国と中国に続いて、広告市場規模で世界第3位の日本がどう推移していくかが気になる。先月、電通から日本のメディア別広告費が出ていたので、2015年の日米中のデジタル広告費とテレビ広告費を比べてみた。日本では、2015年のテレビ広告費が1兆9323億円と、1兆1594億円のデジタル広告費のまだ約2倍近くもあり、テレビ広告が首位の座を譲る時期はかなり先になりそうだ。

AdUSChinaJp2015.png
(データ:eMarketer、電通)
図7 日米中のデジタル広告費とテレビ広告費。単位は億円(1ドル=115円換算)

◇参考
・Digital Ad Spending to Surpass TV Next Year(eMarketer)
・Mobile Is Driving UK Ad Spend Growth(eMarketer)
・Digital Ad Spend Rises in China Despite Economic Slowdown (eMarketer)
・Upwardly mobile: Alibaba to gobble up 50 per cent of mobile internet ad spending in China, again(South China Morning Post )
・「2015年 日本の広告費」解説―インターネット広告費がリードし4年連続でプラス成長を達成(電通報)
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posted by 田中善一郎 at 18:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2016年01月13日

米ネット広告市場でついに主役交代が、「検索からディスプレイへ」と「PCからモバイルへ」

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 モバイル広告費がデスクトップ(PC)広告費を昨年初めて追い抜いた。続いて、ディスプレイ広告費が検索広告費を今年中に初めて追い抜く。このような大きな主役交代劇が米国のインターネット広告市場で演じられていることを、今週公表されたeMarketerの資料が語っている。

 インターネット広告を長く牽引してきた検索広告が、今年中にもディスプレイ広告に首位の座を引き渡す。eMarketerの予測によると、それぞれの広告費の推移は図1のように変わっていく。

eMarketer201601b.png
(データ:eMarketer)
図1 米国の検索広告費とディスプレイ広告費

 ディスプレイ広告には一般のバナー広告だけではなくて、伸び盛りの動画広告やネイティブ広告、リッチメディア広告も含んでいるため、今後とも高い成長率を見込んでいる。2016年には321億7000万ドルに達し、300億ドルに届かない検索広告費を抜き去ると見ている。ただ意外だったのは、検索広告がまだまだ成長を続けると予測されていることだ。後で述べるが、モバイル向けの検索広告費の急成長が支えていくようである。

 もう一つの「PCからモバイルへ」の交代劇は、すでに知られているように昨年の話である。図2に示すように、一気にモバイル広告がデスクトップ(PC)を抜き去った後も、その差をドンドン引き離していく。少し前まで、広告単価の低いモバイル広告の将来を不安視する声もあったが、今やその心配を払しょく、これからはモバイル広告がインターネット広告の主役の座に就くことになる。

eMarketer201601a.png
(データ:eMarketer)
図2 米国のモバイル広告費とデスクトップ広告費

 検索広告費と動画広告のそれぞれについて、モバイルとデスクトップに内訳して広告費を予測していたので、それを図3のようにグラフ化した。目立つのは、モバイル(大半がスマホ)の検索広告費が勢いよく伸び続ていくことで、これならグーグルも安泰と言えるのかもしれない。注目の動画広告費(デスクトップ動画+モバイル動画)は、2015年が74億6000万ドル、2016年が95億9000万ドルになるという。それぞれ、全インターネット(デジタル)広告費の12.8%、14.3%を占めるようになる。皆が動画広告に注力するのもうなずける。デスクトップ広告は頭打ちで低迷しているが、動画広告費だけは図3で示すように伸び続けそうである。やはり、迫力のある動画広告は大きな画面のデスクトップで展開したいためか。

eMarketer201601c.png
(データ:eMarketer)
図3 モバイルおよびデスクトップ別の検索広告費と動画広告費

◇参考
・US Digital Display Ad Spending to Surpass Search Ad Spending in 2016(eMarketer)
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posted by 田中善一郎 at 06:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2015年09月28日

「広告ブロッグ」がネットサービスの生態系を崩壊させてしてしまうのか?

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 「広告ブロック」がネットサービスの生態系を変えてしまうのだろうか。

 これからのネット広告市場の主戦場になるモバイル向けに、広告ブロック・ソフトの本格販売が10日前から始まった。広告収益に頼ってきたネットメディア産業に大転換の波が打ち寄せているのだ。

 アップルのiOS9の立ち上げ(9月16日)に合わせて、モバイル・サファリ上で広告ブロック機能を実現するアプリの出荷が始まった。2か月以上前あたりから、いくつかのサードーパーティが広告ブロック・アプリを開発していることは、頻繁に伝えられてはいた。その開発者の中にはプロットタイプの段階から、主要ニュースサイトを劇的に高速表示できると、しきりに売り込んでいた。さらにプライバシーを守るためにサイトのトラッキング機能を外せることもアピールしていた。

 7月のMIT Technology Reviewの記事でも、複数のアプリ開発者が広告ブロック・アプリを、アップルのアップストアにおいて有料(安価)で販売すると予告していた。わずわらしい広告のために画面表示が遅くなったり、プライバシー行動がむやみに追跡されてたりして、不満を募らせていたモバイルユーザーにとっては、待ち焦がれていたアプリの到来であったのだ。

 予告通りにiOS9の立ち上げ日に合わせて、「Peace」($2.99)、「Crystal」($0.99)、「Purity」($3.99)、「Blockr」($0.99)などのブロック・アプリが一斉に売り出された。販売初日から人気を集め、iTune Chartの有料アプリ・ランキングで図1のように広告ブロック・アプリが上位を占めた。

iTunePaidApp20150919a.png
図1 iTune Chartの有料アプリ・ランキング。iOS9の立ち上げに合わせて販売されたコンテンツ・ブロッカーがすぐにランキング上位を占める。日本時間18日の時点では、1位がPeace、2位がCrystal、5位がPurify、15位がBlockrとなっていた

 発売してすぐにトップに躍り出たのがPeaceである。開発者のMarco Arment氏は、Tumblrの共同創立者として、またInstapaperの設計者として知られており、テクノロジー分野のライターとしても活躍している。広告ブロッキングの熱心な唱道者でもある彼が開発したアプリなら、ということで多くのユーザーが飛びついた。AppAnnieによる日次ランキングで、事実上の初日(17日)から多くの国でPeaceがトップに立った。ただしドイツでは同国市場向けに力を入れているBlockrが1位となり、日本ではCrystalが3位に顔を出していた。

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図2 AppAnnieによる日次ランキング 6か国を例に、iPhone向け有料アプリのトップ2を国別に掲げておく

 
 このように広告ブロック・アプリの滑り出しは順調に進んだのだが、2日目となる18日に思わぬ事件が発生した。トップの座に就いたばかりのPeaceが突如、アップストアの店頭から消え去ったのだ。AppAnnieによる日次ランキングでも、18日からPeaceの姿が見当たらない(時差の関係で豪州では残っている)。2日間弱で3万8000本(調査会社Apptopiaのデータ)も売れた絶好調のPeaceを、売り場から取り払ったのは驚くことに開発者のMarco  Arment氏自身であったのだ。

MacroArmentPeace20150918.png
図3 発売間もないPeaceをアップストアから取り払ったことを、開発者の Arment氏がツイッターで報告

 この突然の販売中止は、これからの広告ブロッキング論争の波乱を暗示している。急に販売を取りやめたのは、良質と思われるコンテンツ(広告)までもブロックされていたとの指摘を一部の識者などから受けたためだ。ほとんどのユーザーにとって好評であっても、一部のユーザーから批判の声が出てくるのは仕方がないところがある。それでもその批判の声を受け止めて敢えてPeaceの販売停止に踏み切ったのは、 Arment氏が今の広告ブロッキングの流れに危機感を抱いたためである。

 彼はPeaceの販売中止を発表した後も、広告ブロックの有用性を否定していない。彼が広告ブロック・ソフトを開発してきたのは、質の悪い広告が蔓延し、モバイルサービスのユーザーエクスペリエンスが悪化する一方の状況を変えたかったからである。つまり低質な広告をブロックすることである。

 広告ブロック・ソフトでは、図4のAdblock Plusの例のように、どのサイトの広告をブロックするかを判定するためにフィルタリスト(ブラックリスト/ホワイトリスト)を用いている。

 adblockplusFilterlist.png
図4 Adblock Plusのフィルタリスト。Adblock Plusを作ったEyeoは、許容できる質の広告なら有料でホワイトリストに組み込んむことをビジネスとしている。グーグル、アマゾン、マイクロソフトもEyeoに払っている。これはメディアサイトに対する”ゆすり”との批判も。


 Peaceでは、フィルタリストとして Ghosteryのデータベースを利用していた。でもGhosteryのリスト作りにArment氏がいちいち関わるわけではないので、リストによるフィルタリングで良質な広告がたまたまブロックされても、すぐには対応できない。彼が期待した広告ブロック・ソフトの役割は、悪質な広告を減らすと同時に、良質な広告を拡大させたかっただけに、わずかであろうと良質な広告がブロックされた事実が我慢ならないのだろう。

 ところが、一斉にリリースされたモバイルサファリ対応の広告ブロック・アプリはどれも、Peaceのようなフィルタリングへの戸惑いも見せないで、アプリストアからの撤退を考えもしていない。これらのアプリ提供者のほとんどは家庭工業的で、ブロック・アプリを1人や2人くらいの少人数で2か月少々で作り上げているという。一獲千金を狙った貪欲な姿勢が目立つ。ポップアップや自動動画再生などの押しつけがましい広告にイラついているユーザーの要望に応えることに注力しており、広告ベース依存のメディア業界がどうなるかについてあまり気にかけていない。

 貪欲さを見せつけるのは、サイトコンテンツのロード時間の高速化だ。その手っ取り早い方法は、できる限り広告をブロックしたりトラッキングをさせないことだ。Peaceがアップルのアップストアから撤退した18日に、代わって有料アプリ・ランキングのトップに立ったCrystalや、その後を追うPurifyもやはり貪欲だ。要するに、広告をより多くブロックし、高速表示させ、応じてアプリが沢山売れ、儲かるという流れになっている。

 Crystalは、ひとつ前のブログ記事でも紹介したように、有力なニュース系メディアサイトのページロード時間が大幅に短縮できることをグラフ化して、発売前から大々的にアピールしていた。その売込みが功を奏したのか、最初の10万本の無料キャンペーンが終えて有料化になっても、順調に売り上げを伸ばしているようだ。Apptopiano調査によると、最初の1週間で約12万本のダウンロード数を得て、約8万ドル弱の売上に達したという。ちなみにフィルタリストにはAdblock Plusのものを活用している。

CrystalAppTwitter20150917.png
図5 Cristalは10万本の無料キャンペーンを実施。12時間で10万本を突破したことをツイッターで伝える 

 負けじとPurifyも、NYタイムズやHuffPost、Verge、CNNなどの9ニュースサイトを対象にしたロード時間を17日の夕方に測定し、PurityがCristalやPeaceを使った場合に比べ高速化を達成しているとその当日にツイッターで伝えた(図6)。特にNYタイムズのページのロード時間は、PurifyがCristalよりも半分以下に済んでいると主張。Apptopiano調査によると、1週間で約15万ドル以上の売上に到達している。

PurifyAppTwitter20150917.png
図6 Purifyは、ニュースサイトのページダウンロード時間が競合のPurifyやPeaceに比べ短いことをアピール。

 高速化競争に走る広告ブロッカーは、突き詰めれば良い広告も含めて大半をブロックする方向に進みそう。今のようなネット広告環境が続くと、広告ブロックソフトがすべての広告を表示させない形で使われる機会が増えそうである。広告収益を当てにしているネットサービスの生態系が崩れるとの危機感が出てきたのはそのためである。家内工業的に始めた広告ブロック開発者からすれば、しがらみのない立場で今の生態系を一度リセットすることに抵抗がないのかもしれない。なるべく多くの広告をたたくことに注力する。

 でも、現在のネットサービスの生態系では、ユーザーとメディアサイトとの間に黙示契約があり、無料のコンテンツに接触できる代わりに広告の掲載を容認してきた。広告があるからこそ、グーグルのGメールやフォトとかフェイスブックのSNSなどがタダで利用できる。Peace開発者の Arment氏も、グローバルに成功したTumblrやInstapaperをこれまでのネット生態系で育んできただけに、生態系をリセットして混乱状態になってもらいたくないのだろう。良い広告が拡大することに注力する。

 このように、広告ブロッキングをめぐる論争は波乱含みである。さらに混乱させているのが、iOS9の広告ブロック機能の仕掛人がアップルであることだ。これまで、広告ブロッカーの対象はデスクトップ(PC)広告がほとんどで、地域では米国よりもドイツ、フランスなどの欧州各国で最も普及していた。一方で急成長しているモバイル広告向けの広告ブロック・ソフトについては、今までアップルもグーグルも公式のアップストアで売らせていなかった。それが今回のモバイル・サファリ上で広告ブロック機能を実現するアプリの開発環境が整え、外部のサードパーティが自由に作り、アップルのアップストアで売ることができるようになった。

 アップルが広告ブロックを後押できるのは、広告売上にあまり依存していないからだ。eMarketerの米モバイル広告売上高シェアによると、2015年にはグーグルが32.9%、フェイスブックが19.4%、アップル(iAd)が2.6%と予測されている。売上のほとんどを広告収入に頼っているグーグルは悪影響を受けそうである。でもアップルは広告ブロックを表向きには売り込んでいない。それよりもiPhoneやiPadのモバイルデバイスの売上高を増やしていきたい。アンドロイドとの差別化で、ユーザーエクスペリエンスの向上を強く打ち出している。高速性を実現する広告ブロッカーの役割が大きいわけだ。

 またアップルは、iOS9の広告ブロッカーがブロックできる対象をブラウザー(サファリ)の広告だけに限定しており、アプリ内の広告はブロックできないようになっている。つまり、これからの分散型メディアの大物として注目されているApple NewsやFacebook Instant Newsはアプリで提供されるので、広告ブロッカーによってブロックされることがない。アップルとしては、iOS9の広告ブロッカーによりメディア(パブリッシャー)が窮地に追い込まれないように、広告収入を当てにしたパブリッシャーが生きる道を用意したということか。

 さて、iOS9の広告ブロッカーがネットサービスの生態系を変えてしまうのか。結論から言えば、今のモバイルブラウザを対象にする広告ブロッカーのレベルでは、広告売上に及ぼす影響は心配するほど大きくなさそう。UBSの予測によると、2016年の米国の総デジタル広告費が1900億ドルとなっているが、そのうちサファリ・ブラウザ上の広告費は全体の3%に相当する48億ドルである。その中で今回のようなサファリ上の広告がブロックされて被る損害は約10億ドル規模と見ている。総デジタル広告費の約0.5%が損害を受けるに過ぎない。サファリブラウザのユーザーの2割が広告ブロック・アプリを利用しているという前提での予測であるので、実際の被害はもっと低いのではなかろうか。さらにモバイルトラフィックがアプリ中心になっているだけに、アプリ内広告をブロックさせない限り、しばらくの間大騒ぎするほど被害が膨大にならないようだ。


◇参考
・The most popular paid iPhone app right now is an ad blocker(Quartz)
・Just doesn’t feel good(Macro.org)
・The Allure of an Ad-Free Internet(Atlantic)
・Peace out: Marco Arment pulls iOS ad blocker from App Store after just 2 days(TNW News)
・The most popular ad-blocker in the Apple store is gone because of its creator's guilt(Mashable)
・Apple refunding all purchases of Peace(Macro.org)
・iPhone App Developers Prepare to Offer You a Web without Ads(MIT Technology Review)
・iPhone ad blocking apps will 'only' cost $1 billion in lost advertising revenues(Business Insider)
・Apple Propels an Ad-Blocking Cottage Industry(WSJ)
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posted by 田中善一郎 at 08:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2015年09月08日

「広告ブロック」に危機感募らせる米ネット広告業界、訴訟やユーザー遮断の強硬策までも飛び出る

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 オンライン広告やデジタルパブリッシャー産業が崩壊の危機に。特にこの1か月くらいの間は、NYタイムズやWSJ、BBCなどの高級メディアも加わって、この議論で大騒ぎである。

MondayNote20150831.png
図1 オピニオン系メディアサイトのMondayNoteでも、「広告ブロック」によりメディア産業が崩壊の危機に直面していることを伝えている

 デジタルメディア業界を震えさせている震源元は「広告ブロッカー」である。広告を非表示にする広告ブロック・ソフトは、オンラインメディアに携わっている者にとって、以前から気になる存在であった。それがここにきて一段と業界に危機感を募らせたのが、PageFairとAdobeが8月に発表した衝撃的なレポートであった。広告ブロックソフトの利用者が今年6月に世界で1億9800万人に上り、2015年(今年)にはパブリッシャー(メディア側)に約220億ドルもの損失をもたらすと予測したからだ。さらに不安を増幅させているのは、今週にもアップルがリリースする次世代iOSで、サファリへの広告表示をブロックするアプリがインストールできるようになることだ。ユーザーがiPhoneやiPad上の広告を非表示する機会が増えそうだ。このままではさらに、損失額が今後ぐんと膨らみそうである。オンライン広告事業を収益の柱としているメディア会社にとっては、対応策を練る段階にきている。

 米国のオンライン広告の業界団体IAB(Interactive Advertising Bureau)も、広告ブロッカーに対して具体的な対応策を打つ必要に迫られているのだ。米国内だけでも、広告ブロック・ソフトのアクティブユーザー数が今年6月に前年比45%増の4500万人と急激に増えている。図2に示すように、ネット広告の15.4%もがブロックされており、今年は107億ドルの損失を被ると見られている。

AdBlockPenetration.png
図2 米国における、広告がブロッキングされている割合の推移。今後、さらに割合が高まりそう

 このような状況下でIABは何度も、広告ブロック対応策の議論を重ねてきている。WPPデジタルの社長でIAB Tech Labの取締役会議長を務めるDavid Moore氏は最近、次の二つの対応を提唱している。
@広告ブロック・ソフトをオフにしていないユーザーには、トップ100のメディアサイト(パブリッシャー)のコンテンツを一斉に見させないようにする。
A広告ブロック・ソフト会社を相手取って訴訟を起こす。 

 @では、広告ブロック機能で広告を非表示にしているユーザーに対し編集コンテンツを閲覧できないようにすることを、有力パブリッシャーに打診している。ある特定の日から一斉に実施したいようだが、パブリッシャーの多くが及び腰で、実現はかなり難しいだろう。ソーシャルニュースサイトのRedditでも見られるように、ユーザーからの反発の声が大きいからだ。Aについては、パブリッシャーが提供するページの一部を消し去る行為が、パブリッシャーの権利を侵害しているとして、広告ブロッカーを訴えたいようである。でもページの一部を非表示にするよう指示しているのがユーザーであるだけに、訴訟の実現も厳しそうである。

 そこでIABは技術的手法で広告ブロッカーと対抗することも始めている。8月26日にIAB Tech Labは広告ブロッカー対策をビジネスとしている専門会社4社( PageFair, Secret Media, Sourcepoint, Yavli)と協議した。こうした専門会社は、広告ブロック・ソフトを無効にするツールなどを開発したり、広告ブロック・ソフトのユーザーに使用を止めさせる仕掛けを提供している会社である。IABとしては、パブリッシャーが個別に各広告ブロッカー対策を講じるのではなくて、パブリッシャーが連携して広告ブロッカーと対抗するよう仕向けたいという。

 このように広告メディア・ビジネスに関わっている人たちは広告ブロッカーを目の敵にしているのだが、消費者であるユーザーは必ずしもそうではない。それどころか、広告ブロック・ソフトのユーザーが急増していることからもわかるように、広告ブロッカーを歓迎する人が増えてきている。最近のネット広告やメディアサイトに対するユーザーの不満を解消してくれるからだ。

 押しつけがましい広告、悪意に満ちた広告、ページのダウンロード時間を長引かせる広告、閲覧を邪魔するポップアップや自動再生動画の広告、などなど・・・。こうした広告をあまりにも多く掲載するメディアサイトが、目立ってきているのは確かである。特に表示画面の小さいスマホでは、ユーザーの不満はさらに高まる。目障りな広告を頻繁に掲載するメディアサイトに対して、広告ブロック・ソフトを使いたくなるのはやむを得ない。

 広告会社の社長までが広告ブロック・ソフトを使っているという話も出てきた。米広告会社Media Kitchenの社長がDigidayに投稿していた記事"I work in advertising, but I still block ads"によると、仕事のために Business InsiderやNYタイムズ、WSJのサイトを閲覧するときに広告ブロック・ソフト「AdBlock」を活用していることを白状していた。手際よく仕事をこなしていくには、広告ブロック・ソフトは欠かせないという。

 どれくらいのサクサク感が実現するのだろうか。モバイル・ソフト開発者のDean MurphyがiOS 9のサファリで利用できるコンテンツ・ブロック・ソフトを試作し、それを主要ニュース系メディア・サイトで使用した時のページ・ロード時間を測定している。図3に示すように、ブロック・ソフトを用いない場合に比べて、平均して4倍も高速になったという。スマホでニュースサイトを閲覧するときには、この高速感はたまらないであろう。

LoadTimewithAdBlockerCrystal.png
図3 Dean Murphy氏が試作したサファリ向けコンテンツブロッカーを利用すると、有力なニュース系メディアサイトのページロード時間が平均して約4倍近くも高速になる。製品化して、App Storeで販売する予定。

 このようにブロック・ソフトにより、ページの表示がかなり高速になりそうだ。サイトのカスタマーエクスペリエンスを改善するためにも、表示速度の高速化は欠かせない。広告ブロッカーに人気が集まるのは、裏返せば、広告を掲載したメディアサイトがユーザーの期待に応じきれていないためかもしれない。ユーザーにもっと受け入れられる、広告の在り方やメディアサイトの在り方を追求する必要がありそう。フェイスブックが開発中のインスタント・アーティクルも、各メディアのニュース記事を高速に表示するサービスであり、挑戦の一例とも言える。


◇参考
・IAB Explores Its Options to Fight Ad Blockers, Including Lawsuits(Ad Age)
・Dear ad industry: Suing ad blockers and cutting off readers is not a great strategy(Fortune)
・The 2015 Ad Blocking Report(Page Fair)
・Crystal Benchmarks(MurphyApps)
・Handling App Transport Security in iOS 9(Google)
・Widely Cited Ad Blocking Study Finding $21.8 Billion Loss Is Incorrect(BuzzFeed)
・I work in advertising, but I still block ads(Digiday)
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posted by 田中善一郎 at 23:35 | Comment(1) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2015年06月17日

あいまいなネイティブ広告に米FTCは苛立ち、ニュースユーザーは落胆を

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 てっきり編集記事と思って読んでいると、実はそれは広告であった。そのような時に、騙されたと落胆する消費者が米国で少し目立ってきているようだ。オンラインメディアでネイティブ広告が急成長するに伴い、編集記事との境界が紛らわしいネイティブ広告に対して、不満を漏らす読者が現れるのは仕方がないかもしれない。でもある割合以上に不満を漏らす者が増えてくると、米連邦取引委員会(FTC)も消費者保護の立場で無視できなくなる。

 そこで、FTCのMary K. Engle氏が、6月3日に開かれたClean Ads I/O会議で講演した話に注目が集まった。彼女は広告業務のアソシエイト・ディレクター(消費者保護局)であるからだ。

NAFTC20150603.png
図1 FTCのMary K. Engle氏

 まず彼女は、コンテンツを作るパブリッシャーは、ネイティブ広告を紛らわしくしてはダメと強調した。FTCはネイティブ広告のコンテンツについてあまり気にしていなくて、それよりもサイト上でどのように広告であることを明示しているかについて、つまりラベル表示に注目しているという。ちょっとした “sponsored”といったラベル表示だけでは十分でないのではと。普通の消費者はたいてい見出ししか追わないもので、小さな文字なんかは見ていなかったりする。もし広告がある割合以上の人を惑わせていれば、それは消費者を欺いていることになると彼女は言い放った。ではある割合とは、どれくらいの割合なのか? その問いに、「通常は消費者の15%で、時には10%でも」と明らかにした。FTCの調査では、そのように判定しているようだ。

 ネイティブ広告は本質的に人を欺くものと、私が捉えている。幾人かはそのように私のことを見ているようだが、そんなことはないとEngle氏は反発する。FTCは反ネイティブ広告ではないんだとも。でもネイティブ広告関係者に対し警鐘を鳴らしていることは間違いない。この講演で、ネイティブ広告のパブリッシャー例として、BuzzFeed、 Wired、 Gawkerの3サイトを挙げていた。

 そこで、それら各メディアのネイティブ広告コンテンツ例を以下に載せておく。

NatveAdsBuzzFeedToyota201506b.png
図2 BuzzFeedのネイティブ広告。ラベルは「Brand Publisher」


NativeAdsGawkerBurgerKing201503.png
図3 Gawkerのネイティブ広告。ラベルは「SPONSORED」


NativeAdsWiredIntel201505b.png
図4 Wiredのネイティブ広告。ラベルは「Sponsor Content」

 いずれもネイティブ広告のコンテンツの出だし部分である。デザインやフォーマットが編集記事とほぼ同じなのに、ラベル表示の文字が小さい。そのラベルもBrandとかSponsorとなっているので、編集記事のつもりで閲覧している人も少なくないだろう。でもコンテンツが有益であったり面白ければ、編集とか広告とかを気にしない消費者も多いのかもしれない。

 そのラベル表示の現況を、AdAgeがつい最近調べていたので、それを紹介する。ネイティブ広告を掲載しているメディア23サイトを調べた結果が、次の図5の表である。パブリッシャーであるメディアサイトでは、ネイティブ広告のコンテンツの中で示されているラベルである。SNSのようなメディアでは、フェイスブックのニュースフィードやツイッターのツイートのように、タイムラインの中に流れる誘導枠の中で示されるラベルとなる。
  
NativeAdsLabel.png
図5 ネイティブ広告掲載メディアとラベル表示


 上の表のようにラベル表示は、次の3タイプが主流となっていた。
・"sponsored"
・"promoted"
・"presented by"

 驚くことに、"Ad"とか"Advertising"と表示しているサイトは皆無であった。以前は散見されていたのだが、最近はメディア側が"広告"という言葉を敬遠している。フェイスブックも日本語版では広告と表示しているのに、english(US)版やenglish(UK)版ではSponsoredとなっていた。このように米国ではラベル表示が後退気味になっている動きに、FTCが苛立つのも当然かもしれない。

 なぜ、広告とストレートに明記しないのか。パブリッシャー側の言い分は概ねこうだ。ネイティブ広告は、これまでの広告と違ってクリエイティブなコンテンツであるのだとの主張である。広告とラベル表記すると、押しつけがましいネット広告を連想されて、コンテンツを読んでもらえなくなる。確かにNYタイムズのネイティブ広告では解説風や調査風の質の高いコンテンツを提供しているし、BuzzFeedではリスト記事風の楽しめるコンテンツを数多く提供している。編集記事と比べてもひけを取らないコンテンツだけに、広告と言いたくないのは分からないでもない。でもこれは、メディアやブランド(スポンサー企業)やエイジェントなどの提供者側の言い分である。大事なのは、消費者(オーディエンス)がネイティブ広告に対してどう受けとめているかである。騙されたと見る消費者が増えると、先に述べたようにFTCも規制に動かざる得なくなるのだ。
 
 Reuters Instituteが毎年発行する「Digital News Report」の2015年版が先ほど公表されたのだが、その中でちょうど、米国と英国のそれぞれのオンラインニュース・ユーザーがネイティブ広告(企業/ブランドがスポンサーのコンテンツ)をどのように捉えているかの調査結果が出ていた。これは、ネイティブ広告の提供者を震撼させる結果であった。オンラインニュース・ユーザーが読んだコンテンツがブランドや企業の提供であることが分かった時に、どれくらいのユーザーが落胆し騙されたと思うかの調査結果である。米国では43%、英国では33%であった。米国人の方が高いのは、ネイティブ広告がより普及しているからと見ている。また米国も英国も50%のユーザーは、ネイティブ広告は好きではないが受け入れると答えていた。回答者にネイティブ広告を知っているリテラシーの高いニュースユーザーが多そうなだし、アンケートの質問にもよるが、ネイティブ広告に否定的な結果となっている。

 Reutersも以下のようにラベル表示例を取り上げて、やはり編集と広告の境界があいまいであることを指摘している。特にユーザーが信頼しているブランド力のあるメディアサイトで、そのニュースページ内のコンテンツが後で広告(企業が掲載料を払ったコンテンツ)であることを知った時には、かなり落胆するようだ。

ReuterNativeAdsLabelSample.png
図6 ロイターが参考事例で取り上げたネイティブ広告のラベル表示

 そもそも、歴史の浅いインターネット広告は、伝統的なマスメディアの広告に比べて、どうしても押しつけがましいものが多かった。このため、ネットユーザーの多くはバナー広告などを無視するようななってきた。そして最近では、ネット広告をブロックするソフトの人気が上昇し、英エコノミストの記事によると世界で2億人以上の人が毎月、使うようになっているという。PCだけではなくてモバイルでも急速に利用されてきている。そして気になるのは、ネイティブ広告も標的になリ始めていることである。Adblock Plusを利用して、BuzzFeedのネイティブ広告を表示させない事例(こちら)が紹介されたりしている。

 ラベル表示に必ずしも広告と記さなくても構わないかもしれないが、ネイティブ広告を編集記事と思わせて読ませようとすることを強引に推し進めていると、大きな火傷を負いそうである。


◇参考
・Media Brands Shy Away From the A-Word, When It Comes to Labeling Native Ads(AdAge)
・FTC: Publishers Will Be Held Responsible For Misleading Native Ads( AdExchanger)
・A blow for mobile advertising: The next version of Safari will let users block ads on iPhones and iPads(NiemanLab)
・Report: One-third of readers disappointed or deceived by sponsored content(Poynter)
・グーグルやNYタイムズまでが、「広告」であることをなぜ隠したがるのか(メディア・パブ)
・Attitudes to Sponsored and Branded Content (Native Advertising)(Reuters Institute)
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posted by 田中善一郎 at 07:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2014年11月17日

米国の自動車広告、新聞離れとデジタルシフトが止まらない

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 来年も新聞紙広告は底なしのように減り続け、逆にオンライン広告(デジタル広告)は天井がないかのように増え続ける。これは、米国の自動車広告費のメディア別シェアの予測である。

 米国の新車(軽トラック含む)の販売台数は今年、1,630万台に達すると予測され、景気後退前の水準に復活する見込みだ。産業別で2番目に広告売上規模が大きい自動車広告費も当然のように増えており、来年も更なる大幅アップが期待されている。その中で見逃せないのが、自動車ディーラーが出稿する広告である。ローカルのメディアにとって、最も力を入れて取り込みたい広告であるのだが・・・。

 自動車ディーラーの広告はこれまで、ローカルの新聞やラジオ、それにTVといった伝統的マスメディアを支えてきた。自動車ディーラー広告費のメディア別シェアを振り返ってみると、2000年ころには新聞が50%を超え、それにラジオとTVを加えると80%も占めていたのだ。その当時、オンラインに代表されるデジタル広告のシェアがわずか5%しかなかた。それがデジタル広告が伝統的マスメディアのシェアをジワジワと蚕食していき、昨年(2013年)にはついに50%も占めるようになった。さらに今年は57%、来年は67%と、自動車広告のデジタルシフトは止まりそうもない。

 これらのデータは、Borrellが発行した「2014 to 2015 Automotive Advertising Outlook」によるものである。そのグラフ化した図を以下に掲げる。

図 米国の自動車ディーラー広告費のメディア別シェア
AdSpendingCar2014MediaShare.png
(図のソース:NEWSOSAUR)

 Borrellは、米国のディーラーが来年、広告費に前年比7%増の277億ドルをつぎ込むと見ている。そこで注力するのはオンライン広告費で、前年比27%増の151億ドルに膨らむと予測している。このようにディーラーが広告予算を増やすにもかかわらず、一方で新聞紙離れを一段と進め、2015年の新聞紙広告費を21.4億ドルに縮小させると見られている。これは前年に比べ27%減で、8億ドル分が減ってしまうことになる。メディア別シェアでも初めて10%を切る。

 デジタルシフトの勢いは、自動車ディーラーのTV広告予算にも及びそうだ。同じようにBorrellの予測でも、来年のTV広告費は今年に比べ11%減って、13億ドルになってしまう。メディア別シェアも新聞と同じく10%を切る。

◇参考
・Digital clinches control of local auto ads(NEWSOSAUR)
・Half Of Automotive Advertising To Shift To Digital(MediaPost)
・Dealerships' newspaper ad spending forecast to dive(Automotive News)
・自動車販売台数速報 米国 2014年(MARKLINES)
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posted by 田中善一郎 at 00:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2014年10月27日

グーグルやNYタイムズまでが、「広告」であることをなぜ隠したがるのか

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  米国のネットメディアはどうも、広告であることを明示したくないようだ。広告掲載ネットメディアの覇者であるグーグルや、メディアブランドの頂点に立つNYタイムスまでが、こっそりと時間をかけて広告であることを分からないようにしている。広告と編集の境界があいまいなネイティブ広告の台頭に伴い、メディアサイト側で広告であることを隠そうとする動きがいつのまにか広がってきているのである。

 米国では今年の夏以降、ネイティブ広告における編集と広告の分離論争が、再び燃え盛っている。論争の火付け役になったのが、ケーブルテレビ局HBOのトークショー「Last Week Tonight With John Oliver」であった。8月3日付け番組のテーマにネイティブ広告が取り上げられ、多くの米国の一般消費者にもネイティブ広告の存在が知られるようになったからだ。毎週日曜日に放送されるこの番組は、その後すぐにYouTubeなどにもアップされるのだが、ネイティブ広告特集の番組はYouTubeだけで約260万回も再生され、約1950件のコメントや約2万5000件のI like this が寄せられるほど注目された。ところが番組では、編集コンテンツと見せかける広告手法が消費者をだましていると、ネイティブ広告を厳しく批判。こうなると業界としても無視できなくなった。

NYTHBONativeAds201410.png


 ネイティブ広告は、広告主やメディア社などの提供者側のニーズよって生まれた広告形態である。消費者(ユーザー)側から要望があったからではない。それだけに業界としても、消費者から不信を抱かれないように対応すべきことは認識していた。昨年末もFTC(米連邦取引委員会)だけではなくて業界団体の米IAB(The Interactive Advertising Bureau)からも、消費者にとって編集と広告が明確に見分けられるよう、ネイティブ広告の明示性が強く推奨されていた。大手メディア社はこぞって、広告であることを明示するラベリングを実施していると、型通り主張してきた。ところが消費者の視点からは、編集コンテンツと広告コンテンツがあいまいになってきているようだ。特に、HBOの番組以降、あいまいになってきているとの指摘が増えてきた。

グーグルのペイドリンク

 つい最近も、消費者団体からの苦情に応えて、FTCが再び警鐘を鳴らさざる得なかった。ウォール・ストリート・ジャーナルに記事によると、グーグル、ヤフー、マイクロソフトの検索サービスに対して、検索連動広告について広告であることをはっきりと消費者に示すように、FTCが強く警告を発したのだ。

 検索サービスでは、オーガニックな検索結果(編集コンテンツに相当)に合わせてペイドリンク/スポンサードリンク(広告コンテンツに相当)を表示する場合が多い。いわゆる検索連動広告である。IABが昨年12月に発行した“THE NATIVE ADVERTISING PLAYBOOK”では、この検索連動広告をネイティブ広告の一つのタイプとして付け加えている。それだけにFTCとしては、ペイドリンク(ペイドサーチ)を掲載するネイティブ広告枠に対して、広告であることをより明確に表示するように警告したことになる。

 検索広告市場は、全インターネット広告売上高の半分近くを占めるほど、巨大である。一般に、ペイドリンクを消費者がクリックするたびに、広告料が検索サービス会社に支払われる。そこでクリック率を高めるためには、ペイドリンクを"広告"とあからさまに表示したくない。広告と分かると、それだけでクリックしない人がいるからだ。オーガニックな検索結果の流れの中でペイドリンクに接してもらえれば、クリック率が高まるというわけだ。つまり、オーガニックな検索結果とペイドリンクとの識別をあいまいにした方が、検索広告売上高が跳ね上がることになる。

 検索広告メディアのトップランナーであるグーグルが、検索広告の透明性にどう対処してきたかが気になるところである。2000年代の早い時期には、ペイドリンク枠の背景に緑色か紫色のシェーディングを施しており、はっきりと識別させていた。ただラベリングについては、"Ad"を避けて"Sponsored"を使う場合も少なくなかった。その後、グーグルは毎年少しずつペイドリンク枠の背景色を薄めていき、とうとう今年、オーガニックな検索結果と同じ白色にしてしまったと指摘されている(グーグルが12年かけて、背景色をなくしていったプロセスを、Benjamin Edelman氏が「Google's Advertisement Labeling in 2014」で詳しく紹介している)。

  Google Search(英語版)の例として、 先ほど"nyc hotel"で検索してみたので、その検索結果ページを以下に示す。中央欄に掲げられている上三つは、ペイドリンクである。上二つには黄色のAdでペイドリンクであることが示されている。三つめはSponsoredと小さくラベルが付いていた。右サイドにペイドリンクが並んでいたが、最初に黄色のAdsが付いているだけであった。 中央欄の四つ目以降がオーガニックな検索結果である。

GoogleSearchPaid20141024.png

 ペイドリンクの背景色が無くなっているので、直感的に広告っぽくなっていない。今年第3四半期の同社売上高の伸びが市場予想を下回ったが、その原因としてペイドリンクのクリック数の伸びが鈍化していることを挙げられている。それだけに広告色を薄めたいのであろう。

 FTCの警鐘に対しても、まともに受け入れるかどうか疑わしい。ただ、HBOの番組の影響もあって消費者からの反発が大きくなる心配もあるので、どこまで検索広告の明示性を高めていくべきか微妙なかじ取りが必要であろう。

 ところで今ブームになっているネイティブ広告で注目が集まるのは、既に巨大市場が成り立っている検索サイトではなくて、これから市場を形成していこうとするパブリッシャーサイトやソーシャル系サイトにおいてである。そこで新聞や雑誌のような伝統メディアも含むパブリッシャーサイトでは、同じようにネイティブ広告と編集の識別問題が持ち上がる。特に編集の独立性を看板にしてきた伝統メディアサイトで、ネイティブ広告の透明性をどの程度果たせるかが課題となる。

NYタイムズのネイティブ広告

 HBOのネイティブ広告番組が放送された2日後に、それに応じた形で、広告関連ニュースサイトのAdvertisingAgeがニューヨークタイムズ(NYT)サイトのネイティブ広告の透明性を検証していたので、それを紹介する。NYTは今年の1月初旬から、Webサイトでネイティブ広告を正式に導入した。クオリティーパペーパーであることを売りにしているNYTとしは、当然のようにネイティブ広告の明確なラベリングの重要性を繰り返し強調していた。最初に投稿したNYTのネイティブ広告事例を見ていこう。Dellが広告主である。

NYTNativeAds201401Dell.png

 NYTのような大手パブリッシャーサイトでは通常、広告主のためのコンテンツをメディア内のコンテンツスタジオが制作し、それをメディアのドメイン内に配する。つまり投稿する。そのネイティブ広告コンテンツへのアクセスを、メディアドメイン内あるいは外部から誘導するように仕向けていく。問題は、NYTサイト内で、ネイティブ広告コンテンツや誘導リンクが、広告主のペイドポストであることを消費者が認識できるようになっているかである。上のスナップショットからも分かるように、ペイドポストであることを厳格に知らせていると言える。まず枠の四方を淡い青色のボーダーで囲み、頭に"Paid For And Posted By Dell."と示し、その下の濃紺色の帯上にDellのロゴを配している。さらにポストコンテンツの筆者名の近くにも、Dellのロゴを置く。ここまで徹底すれば、ペイドポストであることは明白だ。

 さすがにNYTであると、感心したのだが。でもやっぱりというか、広告主などのマーケッター側から、ペイドポストを強調したラベリングに対して苛立つ声が湧き出てきた。せっかく多くの費用をかけて、編集記事を凌ぐほどの優れたコンテンツを提供しようとしているのに、あからさまに広告主によるコンテンツだと知らされると、そのコンテンツの良し悪しを判断しないで、消費者がペイドポストをパスしてしまうと懸念しているからだ。

 そこでNYTは、ChevronやNetflixが広告主である最近のネイティブ広告では、ペイドポストであることを示すラベリングを一気にトーンダウンさせてきている。以下は、Chevronのペイドポストである。頭には"Paid For And Posted By Chevron."でなくて、単に"Paid Post," で済ませている。企業ロゴも、半年前のDellの場合のような濃紺色の帯を外してしまい、目立たないように配していた。さらに筆者名と企業ロゴの組み合わせ表示も消えていた。

NYTNativeAds201408Chevron.png

 ペイドポストであることを目立たないようにしたのだ。こうすることにより、ペイドポストを読んでもらえる割合が増えると見込んでいるのである。グーグルやNYTのようにメディアのブランドを最も重視しているトップランナーですら、ペイドポストになるべく広告の印象を与えたくないのである。

ネイティブ広告のエコシステムが定着するのは2年先か

 なるべく広告であることを隠そうとするのは、伝統メディアの広告に比べて、インターネット広告がまだ消費者から十分に受け入られていないからである。これまでネットメディアでは押しつけがましい広告や怪しげな広告が散見されていたため、消費者から敬遠されがちで、実際にディスプレイ広告のクリック率が年々下がってきていた。つまりインターネット広告に拒絶反応を示す消費者が多いのである。

 ネイティブ広告が生まれてきた背景も、インターネット広告が消費者からもっと受け入れられる存在にしていきたいという願いがある。そこで広告を編集と同じような体裁(フォーマット)で見せることにより、なるべく広告を読み飛ばされないようにし、さらに広告コンテンツも編集コンテンツと同じように消費者にとって役に立ったり楽しめるものにして、消費者に受け入れられようとしているのだ。

 実際に、ネイティブ広告を編集と同じような体裁で見せることにより、読み飛ばされることの多かったこれまでのディスプレイ広告に比べ多くの消費者の目に留まり、読まれるようになった。このため、軌道に乗ってきた米国のネイティブ広告では、これまでのネット広告に比べて広告単価を高く設定できるようになっている。メディアにとっても有望な広告商品となってきたのだ。

 ただこの時期に広告であることをあまりにもはっきりと明示することは、せっかく急成長し始めたネイティブ広告ビジネスにブレーキをかけることになりかけないと、メディア会社は心配しているのである。先に触れたように、広告と分かっただけで敬遠する消費者がまだ多いからだ。NYタイムズの例からも分かるように、今はメディア会社が編集コンテンツを上回るくらい優れたネイティブ広告コンテンツを提供しようと努めている段階である。ともかく消費者にネイティブ広告コンテンツに接してもらって、これまでの押しつけがましいインターネット広告と違って、ネイティブ広告が消費者に役に立つ情報を提供していることを認めてもらいたい時期なのだ。多くの人に認めてもらえるようになれば、たとえ"広告"とはっきりと明示しても、飛ばさずに読んでもらえるというわけだ。ネイティブ広告のエコシステムが定着するには、2~3年くらいかかると言われるのは、そのためである。

 またHBOの番組などで発せられる批判にも、対応していく必要がある。米国では今、ネイティブ広告がバズワードに乗って急成長し競争も激化している最中にある。メディアサイトとしては、今なら広告単価を高く設定できるとあって、さらにアクセルを踏みたい。そこで手っ取り早く、より多くの消費者を呼び込むために、広告であることを一段とあいまいにし始めているメディアサイトが増えているのが気になるところ。さらに、一部のメディアサイトでは、そのメディアにふさわしくない広告や、相変わらず押しつけがましい広告が、ネイティブ広告として紛れ込んでいる場合も見かける。ネイティブ広告の狙いの一つは、これまでのインタネット広告の押しつけがましい負のイメージを払拭することであっただけに、提供者側からのみの議論ではなくて、消費者の視点からの取り組みがより求められている。ともかく消費者をだましていると思わせる行動は、ネイティブ広告の成長を鈍らせることになる。

◇参考
・New York Times Tones Down Labeling on Its Sponsored Posts(AdAge)
・Ads Tied to Web Searches Criticized as Deceptive(WSJ)
・Google’s Results Disappoint on Slowdown in Paid Clicks(WSJ)
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posted by 田中善一郎 at 08:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2014年09月30日

NYタイムズのネイティブ広告が好発進、 大手32ブランドのコンテンツを配信

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 NYタイムズのネイティブ広告事業が好発進しているようだ。

 今年1月8日に正式にネイティブ広告を導入して以来、半年近くで32ブランドからネイティブ広告の注文を受け、各ブランドのためのコンテンツを配信してきた。NYタイムズのネイティブ広告では、NYタイムズ内部のコンテンツスタジオ「T Brand Studio」でコンテンツを制作している。32ブランドのコンテンツ制作費は2万5000ドルから上は20万ドルまで(広告掲載料はこれとは別に徴収)。これまで最も人気の高かったネイティブ広告記事では10万ページビューを達成しているという。T Brand Studioには6月時点で16人の専任スタッフを抱えている。

 32ブランドには、Netflix, Chevron, Dell , MetLife,Thomson Reutersといった有力広告主がズラリと名を連ねている。その中から、NetflixとThomson Reutersのネイティブ広告向けのコンテンツを以下に掲げておく。

図. Netflixのネイティブ広告
NYTNativeAds01Netflix.png

図. Thomson Reutersのネイティブ広告
NYTNativeAds02Reuters.png

  当ブログでは年初に、NYタイムズがネイティブ広告に乗り出した背景を次のように紹介した。
「ネイティブ広告は、フォーブスやアトランティックなどの有力雑誌とか、ワシントンポストやウォール・ストリート・ジャーナルなどの有力新聞のWebサイトで、相次いで採用されてきている。ところがNYタイムズは昨年の前半ころまで、広告枠の外で(つまり編集枠で)広告主からのコンテンツを提供していく「ネイティブ広告」に否定的な立場をとっていた。編集と広告の境界線があいまいな形での情報提供を、高級新聞たるNYタイムズは避けるべきだという立場である。でも今の米国の新聞は、そんな綺麗ごとを貫ける余裕はない。NYタイムズも昨年中ごろには、iPhoneアプリでネイティブ広告の予行演習を実施していた。」

 そして禁断の果実であるネイティブ広告に、NYタイムズがついに1月8日から着手したのだが、まずは順調に滑り出したと見てよさそうだ。CAPITAL(CAPITAL magazineのサイト)が現況を紹介しているが、このCAPITALの記事には、NYTの広告部門の陣頭指揮を執るMeredith Kopit Levien氏(43)についても語られていて興味深い。彼女は、伝統マスメディアで最も早くネイティブ広告を手掛けたフォーブスにおいてBrandVoice(フォーブスのネイティブ広告)を担当してきたが、その経験を生かして昨年(2013年)7月にNYタイムズの広告担当副社長(executive vice president for advertising)に就任した。彼女はまず、外部のデジタルスキルの高い専門スタッフをリストアップし、かなり多くの専門スタッフを獲得したが、一方でその入れ替えのために多くの内部スタッフが辞めていったという。NYタイムズもプリント広告の売上が急減している。まだ広告売上に占めるプリント広告の割合が高いが、これからはデジタル広告の売上増に頼らざる得ない。その牽引役となるのが、ネイティブ広告とビデオ広告である。


◇参考
・Native advertising is growing at The New York Times(NiemanLab)
・Going native at the Times(Capital)
・You can expect more multimedia-rich native advertising from The New York Times(NiemanLab)
・用心深くネイティブ広告導入、NYタイムズも禁断の果実に触手を(メディア・パブ)
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posted by 田中善一郎 at 20:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2014年09月03日

米国の若年層と高齢者、意外にも似通ったメディア接触を

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 米国の10代(15~24歳)と高齢者(55歳以上)は共に、毎日平均して今でも5時間以上もテレビを視聴している。社会活動多忙な25歳から55歳までの年齢層では毎日のテレビ視聴時間が平均して5時間を大きく割っているのに対し、高齢者だけでなくて若年層もテレビ離れが意外と進んでいないようだ。

 アメリカ労働統計局(the US Bureau of Labor Statistics)は毎年、米国人がどのように日常生活を過ごしているかを調査している。年齢層によって、性別によって、あるいは就業状況によって、米国人が一日中どのような行動をとっているかを秒刻みで追っている。テレビ視聴も調査対象になっており、平均のテレビ視聴時間は10代(15~19歳)が5時間37分、20代前半(20~24歳)が5時間13分で、高齢者(55~64歳)の5時間42分とほぼ同じであった。一方、25~34歳は4時間18分、35~44歳は4時間7分、45~54歳は4時間39分と視聴時間が短くなっていた。他にやるべきことが多くテレビなんか視聴してられないのかもしれないが、一方で若年層はなぜテレビをよく見ているのだろうか。所得が少ないので、タダで視聴できるテレビを楽しんでいるということかな。

 この労働統計局の調査データは、マーケッターにとって貴重な情報を提供している。このデータを使って可視化したグラフを、retale.comが公開してくれているが、対話形式でとても便利である。指定したデモグラフィック属性の米国人が、どの時間帯でどのような行動を取っているかが一目瞭然に把握できる対話型グラフである。8種類の年齢層、就業状況(従業員/フルタイム従業員/非従業員)、性別(男/女)、日(平日/週末・祝日)から属性を一つ選べば、その属性の米国人の何割が何時どのような行動をとっているかが分かるのだ。行動としては、睡眠中、飲食中、買い物中、家事中、就業中、学習中、ソーシャル活動中、テレビ視聴中などが示されている。

 例えば10代(15~19歳)の若年層を選ぶと、次のようなグラフが表示された。昼間はさすがに学習時間が多く占めているが、カーソルで指示すれば夜のプライムタイムに20%以上の人がテレビを視聴していることが分かる。
RetaleBusyStateofAmerica201808b1.png

 高齢者(55~64歳)を選ぶと、昼間は就業したり家事を行っている人が多いが、夜になるとやはりテレビ視聴で時間を過ごす人がかなり増えてくる。
RetaleBusyStateofAmerica201808b2.png

 retale.comはまた、8種類の行動のそれぞれを、どのくらいの人数の米国人が現在実施しているかを、リアルタイムで示すグラフも以下のように提供している。
RetaleBusyStateofAmerica201808a.png

 おそらく地域別(州別)のデータもあるはずなので、マーケティング活動には役に立ちそうだ。

◇参考
・Busy States of America(retale.com)
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posted by 田中善一郎 at 18:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2014年06月19日

世界のデジタル広告のメガトレンドとは

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   広告ビジネスの大きなトレンドは明白である。伝統的な4媒体広告からオンライン(デジタル)広告へ。そのオンライン広告もデスクトップ広告からモバイル広告へ。グローバル時代においては、このトレンドは先進国だけではなくて新興国でも同時進行している。先進国ではステップを踏んで進行していくが、新興国では中抜きして先行してしまうことも起こっている。

 でも、主流であった4媒体広告や、オンラインのデスクトップ広告も、成長率が鈍化したり微減しているが、グローバルな広告費のシェアで見れば、今でも主流の座を降りたわけではない。一方のデジタル広告やその中でのモバイル広告は急成長の真っ只中にあり、広告ビジネスの牽引役を演じているのは間違いないのであるが、世界の広告市場のシェアからするとまだ主流と言えない。

 今年のグローバル広告費は、Magna Globalによると5160億ドルとなる。別の調査会社のZenithOptimediaがはじいた予測では5240億ドルと、前年比5.4%増の高成長を期待している。その中でデジタル広告の躍進が目立ち、今年は200億ドル増えて1400億ドルに達すると、Magna Globalは見ている。全広告の1/3近くが、デジタル広告が占めることになる

 このような広告産業のトレンドを俯瞰できるグラフを、DIGIDAYがまとめてくれていたので、紹介する。時間的な推移と定量的な規模感がつかめる。

*広告のデスクトップ広告とモバイル広告のシェア推移

DigitalAdsTrend2014a.png


 爆発的なモバイル広告に比べ、デスクトップ広告はシュリンクしているように見える。シェアは確かに縮小しているが、今年のデスクトップ広告費は前年比9%増と、成長を続けているとMagna Globalは見ている。そのデスクトップ広告を、サーチ、ビデオ、ディスプレイ、ソーシャルに分類して、それぞれの広告費の成長率の推移を示したのが、次のグラフである。デスクトップのビデオ広告やソーシャル広告は20%前後の高成長率を示し、来年にかけてさらに成長率をアップする勢いである。

*デスクトップ広告の成長率
DigitalAdsTrend2014b.png
 ただし、デスクトップのディスプレイは、マイナス成長に落ち込んでいる。プラス成長に戻る気配はない。このディスプレイ広告の代替となる広告として、またモバイル広告に適した広告として、登場してきたのがネイティブ広告である。デジタル広告の新風として期待されているのである。

 新風と言えば、この2〜3年のプログラマティック広告取引の成長もすさまじい。Magna Globalによると、グローバルなプログラマティック費は今年は前年比37%増の1840億ドルにも達する。特に米国が先行しており、米国ではデジタル広告の33%はリアルタイムビッディング(RTB)による。グローバルのプログラマティック費の予測は次の通り。

*プログラマティックの推移
DigitalAdsTrend2014c.png

 最後に、メディア別のグローバル広告費のシェアを、ZenithOptimediaのデータでグラフ化したのが次の図である。2013年と2016年(予測)を示している。TV広告のシェアは微減しているが、まだまだ広告の王様の地位を譲りそうもない。

*メディア別広告費
DigitalAdsTrend2014d.png

◇参考
・The surprising state of digital ad spending in 5 charts(DIGIDAY)


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posted by 田中善一郎 at 14:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2014年04月14日

米国のTV広告は健在、急成長のネット広告でもまだ追いつけず

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 米国の広告売上高でインターネットがテレビを追い抜く。つい最近の予想よりも3年近くも前倒しで実現したのかと驚いたのだが・・。

 実は先日、IAB(the Interactive Advertising Bureau)とPWC(Pricewaterhouse Coopers)から恒例の"IAB internet advertising revenue report"(2013年下半期版)が公表されたのだが、見出しが「Internet advertising surpassed Broadcast Television」 となっていた。ネットメディア業界の者にとってはTVメディアを凌駕するのが大きな目標でもあっただけに、そのレポートに応えて一部ネット業界ニュースサイトが"テレビを超えた"と喜び勇んだ見出しを付けたのだ。

 IABのレポートで示された2013年のメディア別広告売上高(単位10億ドル)は次のようになる。

*メディア別広告売上高
IAB2013MediaContact.png


 インターネット広告売上高は428億ドルとなり、401億ドルのブロードキャストTVを抜いて、トップに躍り出た。ただし、レポートの本見出しの下に、次のような説明が付いている。

Internet advertising revenue now represents 57% of all Television (Broadcast and Cable) advertising.

 インターネット広告売上高は、ケーブルも含めた全TV広告の57%になったということだ。つまり、IABではTV広告をブロードキャストとケーブルとに分けて計数しているのである。そこで、ワシントンポストの記事でも次のような図を掲載していたし、WSJも「Digital Ad Revenue Skyrockets, But Still Lags TV」との見出し記事でネットはTVとまだ差を付けられていると指摘した。

*全テレビ広告売上高とインターネット広告売上高
IAB2013TVInternet.png


 ただ、広告売上高で急成長するインターネットがTVを追い抜くのは時間の問題である。米国でも3〜4年以内にネットがメディア広告のトップに立つのは間違いないだろう。一方でTV広告は踏ん張っている。新聞のように広告売上高が急降下し続けているではなくて、メディア全体の広告売上高の成長に何とか付いて伸びてきている。その背景として、メディア接触時間を見てもTVの人気が根強いことがある。ニールセンの調査によると、一人当たりの月間TV視聴時間は185時間で、インターネット(オンライン+モバイル)の約3倍もある。eMarketerの調査ではTVとインターネットの接触時間は拮抗していたことからも分かるように、一般にTV視聴時間の調査は広告料金に影響するためバイアスがかかりやすい。それでも、日本に比べ米国のTV番組のほうが面白いせいか、米国人のほうがTVを長く視聴しているようだ。

*月間メディア接触時間。TV接触とオンライン接触とモバイル接触

MediaContact2013a.png


 そのせいか、各調査会社によるTV広告費の予測でも、2017年まで平均して5.2%の年成長率で伸び続けるという。それでもモバイル広告で勢いづくインターネット広告が、TV広告に追いつくのは遠くないと言えそう。 

*米国のTV広告売上高の予測。各調査会社別の予測データをプロットしている
USTVAdSpendingGrowthRate.png


◇参考
・IAB internet advertising revenue report (IAB)
・TVコマーシャル、リーチは頭打ちだが売上増続き「広告の王座」を堅守(メディア・パブ)
・Don’t buy the hype: The Internet hasn’t killed TV advertising(washingtonpost.com)
・HOW SMARTPHONES ARE CHANGING CONSUMERS’ DAILY ROUTINES AROUND THE GLOBE(Nielsen)
・博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所「メディア定点調査2013」(博報堂DYメディアパートナーズ)
・広告キャンペーンの到達と効果測定(AD STUDIES vol.45,2013)
・「2013年 日本の広告費」は5兆9,762億円、前年比101.4%― 総広告費は2年連続で増加、成長軌道へ(電通)
・Data Dive: US TV Ad Spend and Influence (Updated – Q3 2013 Data)(Marketing Charts)
・Digital Set to Surpass TV in Time Spent with US Media(eMarketer)


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posted by 田中善一郎 at 22:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2013年12月17日

ネット広告、PC向け売上が頭打ち、4年後にモバイル向け売上が追い抜く

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 米国でも、モバイル広告費が急成長しているのに対し、PC(デスクトップ)広告費が頭打ちになってきた。eMarketerの予測によると、今年のデジタル広告費のうちモバイル向けは1/4弱であるが、3年後には約半分になり、4年後にはPC向けを一気に引き離す。

 今年の米国のモバイル広告費は96億ドルで、前年比120%増と急増する。一方、デスクトップ/ラップトップ向けの広告費は324億ドルで、前年比1.69%増の微増に終わる見込み。来年以降も、以下のグラフで示すように、モバイル広告費は毎年伸び続けるのに対し、PC広告費は峠を迎え2年後からは減り続けるとeMarekterは見ている。

MobileAdEmarketer.png
◇参考

・Mobile-Ad Revenue Explodes, Finally(AdAge)
・eMarketer report shows mobile is gobbling up digital ad growth at the expense of the desktop(Talking New Media)


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posted by 田中善一郎 at 01:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2013年10月11日

ピンタレストが収益化に乗り出す、慎重に始めるpin画像広告が成功するか

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  ピンタレスト(Pinterest)は、広告主提供の画像をボード上に貼り付ける”Promoted Pin”サービスを試験的に実施することになった。

  ピンタレスト・サイトでは、Web上で気に入った画像をユーザーが投稿する形で貼り付ける(pinする)ことによって、皆で画像を共有する。ボード上ではユーザーお気に入りの画像で埋め尽くされていくのだが、その中にユーザー画像と同じフォーマットの広告主画像が紛れ込む形で掲載されることになる。ユーザーの反感を恐れて慎重に進めていたが、いよいよゴーサインを出したのだ。広告主画像には、広告であることを示すために小さく”Promoted Pin”と記されている。(以下のスナップショットを参照)

PinterestPromoted.png

 ピンタレストは、そろそろ収益化を示すべき段階に入っている。そこでやはり広告収入に期待したい。幸いなことに今年に入って、ピンタレスト経由で訪れた顧客による小売店サイトの売上が大きく伸びているという調査結果が出始めている。たとえばAddShoppersは、1万店を超える小売サイトで、ソーシャルメディア経由の顧客がどのような商品をどれくらい購入しているかをきめ細かく追っている(測定結果はこちらで)。以下のグラフは、観測対象の小売サイトの全ソーシャル売上のうち、経由元の各ソーシャルメディア顧客による売上がどれくらい占めているかを示している。

AppShopperSocialECSales.png

 四半期単位のシェア推移を示しているが、ピンタレストのシェア拡大が際立っている。今年の第2四半期では、ソーシャル売上のシェアがピンタレストが23%、ツイッターが22%、フェイスブックが28%となっている。1年前には、フェイスブックが55%であったのに対してピンタレストがわずか2%しかなかった。この1年間で、多くのピンタレストユーザーがpinされた商品画像を見て、小売サイトで商品を購入するようになってきているのである。参考までに、最新の8月のシェア結果を掲げておく。

Addshoppers2013Aug.png

 この結果からも分かるように、小売サイトにとってピンタレストユーザー向けの販促は重要になってきた。そこで、小売サイトを運用するeコマースやブランドを広告主とする”Promoted Pin”を、ピンタレストが立ち上げたのは当然の流れかもしれない。ただ、ピンタレストのボードには、ユーザー(消費者)お気に入りの画像が並んでおり、ユーザーのコミュニティーの場にもなっている。そこにこっそりと広告主の画像が入り込むことに対して、ユーザーから反発を受けるかもしれないし、また広告主がpinした画像はあまりクリックされないかもしれない。

 ところで、フェイスブックやツイッターでも同じような懸念を抱いたことがあった。フェイスブックのニュースフィードやツイッターのツイートなどのストリームに、ブランドコンテンツを挿入する広告が、今では順調に離陸している。さてピンタレストの”Promoted Pin”もうまく飛び立つことができるかどうか、である。

◇参考
・Planning for the future(Pinterestの公式Blog)
・CHART: Pinterest Has Exploded As An E-Commerce Player, Driving Nearly One-Fourth Of Social Commerce(Business Insider)
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posted by 田中善一郎 at 20:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
2013年07月23日

ハイネケンのキャンペーン広告がおもしろい、出発ルーレットで驚きの旅先を

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 オランダのビール会社ハイネケン(Heineken)が仕掛けた広告企画が話題になっている。

 ニューヨークJFK国際空港の8番ターミナル近くで出発待ちをしている旅行者が、「ハイネケンのスポンサーで、海外の見知らぬ土地に行ってみませんか」とのトンデモナイ誘いの声をかけられた。7月初旬の5日間の出来事であった。その誘いに応えた冒険心旺盛な人が、8番ターミナルに設置されている"Departure Roulette"(出発ルーレット)のボタンを押すと、ランダムに選んだ旅先が指定され、その目的地に飛び立つことになる。その旅人は、航空券と旅先の宿泊料、それに2000ドルを、スポンサーのハイネケンから受け取る。

 でも旅行者は海外の特定の国に出かけるために国際空港に来ているわけだから、こんな誘いに乗る人なんかいないと思われるかもしれない。ところが実際にこのプロジェクトに参加し、行先を予定地から急きょ変更して、新しい目的地に飛び立った人がかなり現れたようだ。その様子は、張り付けた下のユーチューブのビデオで視聴できる。 

 ルーレットのボタンを押す前に、参加者はルーレットが指定した旅先に必ず行くことを約束させられる。そして、予定していた旅行のキャンセルについてはスポンサーは補償しない。それでも、キプロス、ラオス、ポルトガル、タイなどのおそらく未知の土地に無料で行け、さらに宿泊費や2000ドルのお小遣いまでも貰えるのだから、気ままな旅行者で好奇心が旺盛な人なら、飛びつくかも。

 世界中でビールを販売しているハイネケンとしては、飛び先を含めた世界のどこでも親しめるブランドにしていこうとする狙いなのだろう。同社はすでにHenineken's "Dropped" と称するキャンペーンを進めており、そこでは目隠しされて世界の未知の場所に降り立たされた(時にはヘリコプターで下す)4人の男性が冒険する様子をビデオカメラで追い、それをオンラインシリーズとして流している。世界の未知の場所に旅行者を送り込む"Departure Roulette"も "Dropped"を後押しする役割もある。それにしても、これから海外に出かけようとしている人が、次々とルーレットに身を任せるとは。さくらの人も交じっているのかな。

 空港内で"Departure Roulette"を実施している様子を伝えるビデオ(・Heineken | Departure Roulette)がユーチューブに7月18日から公開されている。4日間だけで140万回も視聴されているのだから,この企画は成功したと言えそう。さらに昨日あたりから主流メディアでも数多く伝えられ始めているので、大成功かも。




◇参考
・‘Departure Roulette’ Sends Travelers to Surprise Destinations(Time)
・In a Marketing Stunt, the Destinations Are Unknown(NYTimes.com)
・Heineken | Departure Roulette(YouTube)
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posted by 田中善一郎 at 10:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング 広告
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