Glam.com, the world’s No 1 website for women - possibly.
これは最近の英Times Onlineの
記事の文章である。控えめだが,Glamを世界トップの女性サイトと紹介している。Glamを女性サイト・ナンバーワンと認める声が大きくなっているのは確かである。
だが一方で,一部の人からはGlamに対して疑惑の目が向けられている。1年前にcomScoreのデータを振りかざして,Glam自ら女性サイト・ナンバーワンを宣言したときからだ。たとえばTechcrunchは
“Is Glam A Sham?”(
「Glamは詐欺師なのか?」)と噛みついた。
疑惑の矛先は,ナンバーワンの根拠として取り上げているcomScoreのデータに向けられた。Glamのトラフィックに,パートナーである外部パブリッシャーのトラフィックも含んでいるからだ。2年前まで,ユニークビジター数がiVillageの20分の1程度のマイナーサイトが,1年前に一気に王者を抜き去りトップに躍り出たのも,そのような仕掛けがあったのである。

Glamの戦略は,ある意味で巧妙である。後で述べるが,パートナーのパブリッシャーにとって非常に旨みのある好条件を,Glamが提示してきた。そこで,次々と外部パブリッシャーが加入してきた。その結果Glamネットワークのトラフィックが驚異的に膨らんでいき,comScoreが発表したユニークビジター数で,ちょうど1年前にiVilleageを抜いたのである。
iVilleageの陣営でなくても,これは詐欺だと言いたくなる。だが,一概に詐欺だと断定できない点もある。その前に,Glamのビジネスモデルを見ておいたほうがよさそうだ。Glamは下図に示すように,Glam.comを核にして外部のパブリッシャーをパートナーとして加えたGlam Networksがベースとなっている。女性向けのサイトだけを対象にした垂直型のネットワークである。メディアネットワークでもあるが、やはりアドネットワークとしての役割が大きい。

Glamの大きな仕事は,営業で集めた広告をパートナーのパブリッシャーサイトに配信し掲載することになる。その掲載広告の売上は,パブリッシャーとGlamで山分けする。Glamとしては,女性分野を対象にファッションやヘルスなどのカテゴリー別に有力なブログやパブリッシャーを集めることにより,ターゲット化した単価の高い広告をパブリッシャーサイトに配信していきたいのだ。
米国には,小粒だがニッチな分野に絞った優れたオンラインパブリッシャーが多い。特に最近では特徴あるブログが目だって増えてきた。これらはターゲット化されているため,広告サイトとしての価値が高い。だが大半の中小パブリッシャーにとっては、専門スタッフを抱えて広告営業する余裕がない。広告会社に丸投げすることになる。だが,どうしてもGoogleのAdWords/AdSenseのような単価の安い広告が中心になってしまう。そのような状況において,単価の高い広告を配信するとの売り文句でGlamに働きかけられると,パブリッシャーも関心を示すことになろう。
広告枠をGlamに提供して試そうとするパブリッシャーが増えるのもうなずける。パブリッシャーとしては,手持ちの広告枠から一部をGlam向けに用意し,他はこれまでどおり別の広告会社に頼んでおいてもよい。Glamから好条件を持ち込まれれば,特等席の広告枠をGlam向けに確保するパブリッシャーも出てくるはず。こうして参加した各パブリッシャーのトラフィックが,Glamのトラフィックとしてどんどんと積み上げられていった。
そして昨年6月に,comScore調査のユニークビジター数でiVillegeを追い抜いたのを受けて,Glamが大々的な勝利宣言キャンペーンに打って出たのだ。New York Times(NYT)やWSJなどの主要新聞に,iVillageに対する勝利宣言を誇示した全面広告を掲載した。Glam.comのトップページの目立つ位置には,GlamとiVillageのトラフィック比較グラフを載せるようになった。New York Postも,Glam嬢がiVillege嬢をKOする
写真を掲げ,12年の歴史を誇る女性向け定番サイトiVillageの牙城が崩れたことを強く印象付けた。
だが、Glam Media(Glamネットワーク)の内訳データ(
Glam Comscore June 2007 )によると,ユニークビジター数1900万のうちGlamドメイン(Glam.com)に訪問した人の割合は数%となっている。iVillage.comの2007年6月のユニークビジター数が1550万人であることから,iVillage.comがGlam.comよりまだ優位にあると見るのが妥当だったかもしれない。またこの当時,他のトラフィック調査会社は必ずしもGlamを女性サイト・ナンバーワンと見ていなかった。
でも,NYTのフルカラー全面広告などでナンバーワン宣言のキャンペーンを放つと,やはり風向きが変わってくる。新たに多くの広告主やパブリッシャーが関心を寄せるようになり,さらにベンチャーキャピタルも関心を示すことになった。実際に資金調達が順調に進んだ。追い風に乗ってパブリッシャーが増えていき,新たにユニークビジター数が加算されていくことになった。
こうしてうまく軌道に乗ったかに見えた。ところが,Glamにはもう一つ難しい問題点が明らかになってきた。パブリッシャーを呼び込み,また逃げないようにするために,かなり大盤振る舞いをしていたようだ。人気ブログだと月1万ドルくらいの支払いを,Glamはパブリッシャーに保障していた。その額に相当する広告の配信を保証していたことになる。有力パブリッシャーを惹きつけるには,これくらいの約束は必要かもしれない。さらにもっと注目すべきは,売れ残り枠に対して有償の自社広告(Glamの広告)で穴埋めしていたことである。これは,特に中小のブログにとってはありがたい。最小限の保証金だけではなくて,売れ残り枠があるとCPMが3-5ドル程度の自社広告も配信してくれていたのだ。
このため,iVillageを抜いた後も,
「パブリッシャーの増加→ユニークビジター数の増加」
が順調に進んでいった。現在のパブリッシャー数は550サイトを超えているという。この勢いが評価されたのであろう,資金調達はこれまで1億1000万ドル以上も確保できたのだ。
ところが,女性サイト・ナンバーワンと名乗って1年以上も経つのに,同社の収支は赤字から抜け出せない。2007年は2100万ドルの売上に対し,370万ドルの損失となっている。この背景には,パブリッシャーが増えるに伴い多くの広告枠を抱えたのは良かったのだが,売れ残り枠も増加したようだ。そのため自社広告の配信が多くなり,Glamの持ち出し分が増えてしまったのだ。つまりパブリッシャー対策として行ってきた大盤振る舞いが足を引っ張ったのだろう。
でもいつまでもこの状況が許されるわけではない。1億ドル超の資金調達が実現する中で,投資家に対し2008年には1億5000万ドルの売上と4000万ドルの利益を約束しているようだ(この数値はTechcrunchの記事より。WSJの記事では売上は1億ドル)。もうパブリッシャーに対し気前の良い行動をとり続けられない。2008年3月末にGlamはついに,パブリッシャーの売れ残り枠への有償自社広告の配信を止めるとの通達を出したのだ。この措置は一部パブリッシャーにとっては,かなりの収入減になるはず。パブリッシャーのGlam離れが起きるかもしれない。アンチGlam派は,これでGlamの成長神話が終わると言い始めるのだが・・・。
さてどうだろうか。1年前のGlamのナンバーワン宣言はフライング気味であったが,ともかくパブリッシャーへの大盤振る舞いの効果もあって,それ以降,Glamの求心力がぐんと増してきたのは間違いない。ネットワークは拡大し,資金も集まってきた。そして,その調達資金で次々と手を打っている。Glam Network内のサイトを対象にした垂直型検索エンジンを開発したり,ビデオサイト(YouTube,Sony Music,Brightcoveなど16サイト)の女性向けビデオをワンストップで視聴できる
GlamTVを開設したり,多くの外部ブログを獲得したり,またファッション専門のSNSであるStyleMobを買収したりと,ハブ的存在のGlam.comを強化している。前のエントリーでも紹介したように英国の広告会社Monetiseを買収し,海外進出も開始した。
1年前には,水増しユニークビジター数を看板にした詐欺会社だと一部から揶揄されていてGlamも,かなり地盤を固めてきたのではなかろうか。今では,comScore以外のトラフィック調査会社もGlamをナンバーワンと認め始めている。早速,Glam.comのトップページに,次のようなスライドを掲載していた。

パブリッシャーに対する大盤振る舞いをストップしたことにより,一部パブリッシャーのGlam離れが進むかもしれないが,今の求心力からすればそれ以上の多くのパブリッシャーが参加してくるとGlam自身は見ているようだ。ともかく,投資家に約束した利益を稼ぎ出すには,単価の高い広告をかなり大量にパブリッシャーへ配信していかなければならない。
先ほど有力なパブリッシャーサイトの一つであるSHEFINDSをアクセスして見た。特等席の広告枠に,Glamの自社広告らしきもの(Glamのニューズレターの告知)が掲載されていた。ちょっと,気になったが・・・。

今年Glamは,売上を少なくとも昨年の5倍以上達成しなければならない。かなりハードルの高い挑戦になる。今年が正念場の年になる。またGlamがきっちりとパートナーのパブリッシャーサイトに十分な広告を供給しておれば,広告の視点からはパブリッシャーのトラフィックも重要な指標となる。その場合は,Glamのトラフィックとして,パブリッシャーのトラフィックを加えても納得するのだが・・・。
◇参考
・
Glam Media to Announce Acquisition(WSJ.com)
・
Leading US women's website Glam Media targets UK(guardian.co.uk)
・
奇跡の女性サイト“Glam”,なぜ人気爆発したのか(メディア・パブ)
・
奇跡の女性サイト“Glam”(1),Facebookをしのぐ勢いで日本上陸へ(メディア・パブ)
・
Glam.com Samir Arora boss is in the pink( Times Online)
・
Glam offers new video ad network, gets acquisition offer for $1.3B(VentureBeat)
・
Glam Media To Launch Ad Operations In India(WATBlog.com)
・
Federated Mediaバッテル会長がライバル批判、パブリッシャーへの出資も検討中か(TechCrunch Japanese)
・
Glam、広告掲載者への支払いを大幅減額―「最大80%の収入ダウン」(TechCrunch Japanese )
・
Glamは詐欺師なのか?・
Women’s ad network Glam buys fashion site StyleMob(VentureBeat)
・
Building A Vertical Ad Network Powerhouse : Glam Media CEO Samir Arora (Part 1〜4)(Sramana Mitra on Strategy)
・
Glam Media Hustles to Hip-Hop Consumers(MarketingVOX)