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2018年04月10日

FBのアルゴリズム変更後、フェイクニュースや偏ったコンテンツが減ったのか

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 フェイスブック(FB)への批判は高まる一方である。フェイクニュースの発信・拡散だけではなくて個人情報の不正流用問題も大っぴらになり、メディアや規制当局からのFBたたきが一段と激しくなっている。

 特にニュースパブリッシャーは、彼らのプラットフォーマーでもあるFBに対して、自らのメディアを通して、1年少し前から厳しく糾弾し続けていた。それに合わせてニュースパブリッシャーのFB離れが進んだせいなのか、この1年間、FBからパブリッシャーサイトへのトラフィックが減り始めている。

 ただ、トラフィックが減り続けている要因としては、どうもニュースパブリッシャーのFB離れが進んだというよりも、FBが繰り返すニュースフィードのアルゴリズム変更が効いたようだ。でも昨年までのアルゴリズム変更などの対策でニューストラフィックを絞り込んできているのに、フェイクニュースなどの信憑性の無いコンテンツが相変わらず蔓延させているとの非難の声は収まらなかった。

 そこで、FBのマーク・ザッカーバーグCEOは新年早々に、ニュースフィードでは友達のコンテンツを優先し、メディアコンテンツの表示頻度を減らしていくことを示唆していた。実際に今年1月中旬からアルゴリズムを大幅に改変し、メディアのニュースコンテンツは信頼できるパブリッシャーの優れた記事に絞ってニュースフィードに表示していくことにした。そのアルゴリズムの変更で、米国の代表的なニュースパブリッシャーがどのような影響を受けていくのかが注目されていた。

FBをたたく一方で、FBへの依存から抜け出せないメディア

 まず、米国のパブリッシャーの記事への外部からの参照トラフィックのシェア推移を見てみよう。米トラフィック解析会社Parse.lyが毎日公表している測定結果の過去1年間の推移を図1に示す。FBからニュースパブリッシャーへのトラフィックシェアが、1月中旬のアルゴリズム更新までは明らかに減り続けていた。ところが、アルゴリズム更新以降は、意外にもFBのシェアがわずかだが回復しているのだ。

ParselyReferral201804.png
(ソース:Parse.ly)
図1 パブリッシャーへの参照トラフィックの流入元シェア。

 米国のニュースパブリッシャーは、FB批判を一段と過熱化させているにも拘わらず、実際には相変わらずFBへのニュースコンテンツの投稿に注力していることが垣間見れる。ミレニアル世代に代表される若い人にリーチするソーシャルプラットフォームとなれば、米国ではやはり嫌でも圧倒的な普及と拡散性の高いFBに頼らざるを得ないからである。

 Parse.lyの解析では主要なニュースパブリッシャーが対象となっているので、FBのアルゴリズム改変で大きな打撃を被ったサイトは少ない。残念ながらこの解析からでは、フェイクニュースの状況は読み取れない。そこでトラフィック(ページビュー)シェアではなくて、特定のパブリッシャー別にエンゲージメントの観点でどう変わってきているかを探ってみたい。

本流のニュースパブリッシャーが優遇され、バイラルパブリッシャーが冷遇されている

 その点で、メディア分析会社NewsWhipから毎月公表される調査結果は参考になる。同社は、各ニュースパブリッシャーからFBへ投稿した毎月のニュース記事が獲得したエンゲージメント(いいね!数+コメント数+シェア数)の総計をはじき出している。図2では、nytimes.com、cnn.com、foxnews.comの有力ニュースサイトに極右ニュースサイトのbreitbart.comを加えた4サイトにおける、エンゲージメント総数(total engagements)と月間記事数の推移を、2017年11月から2018年3月に渡って示している。図3はその棒グラフである。

 FBEngagement201804gg.png
(データソース:NewsWhip)
図2 代表的なニュースパブリッシャーのエンゲージメント総数と月間記事数

FBEngagement201804hh.png
(データソース:NewsWhip)
図3 エンゲージメント総数と月間記事数の推移を棒グラフで表示

 nytimes.comなどの有力パブリッシャーが、直近の3月に大幅にエンゲージメント総数を増やしているのが目立つ。中でもcnn.comの急伸ぶりはすさまじい。3月に投稿した5597本の記事が、3600万件以上のエンゲージメント総計を得ている。記事1本あたり7010件ものエンゲージメント(いいね!+コメント+シェア)を獲得したことになる。1カ月前の2月には、記事1本あたりのエンゲージメントが4982件であったので、3月に入ってユーザーの反応が一段とアップしたのだ。3月にはエンゲージメントが10万件を超えたcnn.comの記事が66本も数えたというから、FBユーザーに非常に受け入れられたのは間違いない。さらにFBのアルゴリズム変更が、このようなcnn.comの躍進を後押したとも言えそう。

 次の図4に、エンゲージメント総数の多かったニュースパブリッシャーのトップ25を掲げる。今年3月のランキングである。ここでは英語のニュースサイトが対象になっている。上位には、nytimes.com、bbc.co.uk、washingtonpost.com、theguardian.comのような本流のニュースパブリッシャーが顔を連ねている。少し前までのランキングで上位を占めていたエンターテイメントパブリッシャーやバイラルパブリッシャーの影は薄くなり、トップ25の下位に少し残っているだけである。FBのアルゴリズム変更で、本流のニュースパブリッシャーが優遇され、バイラルパブリッシャーが冷遇されてきていると見てよさそうだ。

 また、偏った記事を連発していた右派ニュースパブリッシャーのbreitbart.comは、1年前まではランキングの10位前後まで上り詰めていたが、この3月には21位に落下していた。一方で、FBは今回のアルゴリズム改変でローカルニュースの優遇もうたっていたが、それに応えるかのように3月にnypost.comがbreitbart.comを追い抜いて20位に初登場したのも興味深い。

NewsWhipFB201803.png
(ソース:NewsWhip)
図4 FBでエンゲージメント総数の多いニュースパブリッシャーのトップ25(2018年3月のランキング)


信憑性のないコンテンツが相変わらずはびこるのか
 
 このようにFBのアルゴリズム変更で、主流のニュースパブリッシャーが優遇されてきているようである。だからと言って、フェイクニュースや偏ったコンテンツが減ってきているとは言い切れない。主流に乗れていないニュースパブリッシャーは多く存在しており、その中には論理的に欠陥のある信憑性のないコンテンツを垂れ流しているパブリッシャーも少なくない。特に、一昨年の大統領選の時から急増している党派色の強い「ハイパーパルチザン・サイト」が、FBのアルゴリズム変更でどのように扱われているかが気になる。
 
 「ハイパーパルチザン・サイト」では極端に偏ったコンテンツが目立ち、ファクトチェッカーからたびたび"fake"と判定されている記事を発信しているところも少なくない。NewsWhipは、ハイパーパルチザン的な傾向のある右寄り(保守的)ニュースパブリッシャーと左寄り(リベラル的)ニュースパブリッシャーにおいて、FBのアルゴリズム変更によりエンゲージメント総数がどのような変化したかを公表している。図5で右寄りニュースパブリッシャーが、図6で左寄りニュースパブリッシャーが、FBのアルゴリズム変更前後でエンゲージメントがどう変わってきたかを示している。

FBEngagement201804bb.png
(ソース:NewsWhip)
図5 右寄りニュースパブリッシャーのエンゲージメント。ここでは、Daily Wire, Daily Caller, Breitbart, Gateway Pundit, Western Journal, The Blazeを取り上げている。2017年10月末から2018年2月末までの、週間のエンゲージメント総数の推移を示している。

FBEngagement201804cc.png
(ソース:NewsWhip)
図6 左寄りニュースパブリッシャーのエンゲージメント。ここでは、Daily Kos, Raw Story, Opposition Report, Think Progress, Talking Points Memo,Truth Examiner を取り上げている。2017年10月末から2018年2月末までの、週間のエンゲージメント総数の推移を示している。

 ここで選ばれているサイトは、わりと名が知られていることもあって、FBのアルゴリズム変更後も浮き沈みがあっても大きく落ち込むことはないようだ。どちらかといえば、左寄りニュースパブリッシャーのほうがエンゲージメントを増やしていている傾向が見られる。

 ただしY軸の目盛りを見ると、図5(右寄り)が図6(左寄り)より3倍近く大きくなっている。つまり右寄りニュースパブリッシャーのエンゲージメントが、左寄りサイトよりもぐんと多いエンゲージメントを得ているのだ。でも主流のニュースパブリッシャーとなると、米国ではリベラル派(左寄り傾向)の幅を利かせており、FBのアルゴリズム変更後もその状況は変わっていない。

  FBが1月中旬に実施し始めたアルゴリズム改変は、信頼できるニュースソースの記事を優先し、信頼できないソースの記事を少なくしていきたいという狙いがあった。確かに主流のニュースパブリッシャーのコンテンツは優遇されているようだ。でも、減らしていきたいハイパーパルチザン・サイトのニュースは、アルゴリズム変更以降も以前とほとんど変わらないエンゲージメントを維持しており、FB上での拡散の勢いは衰えていない。

 またNewsWhipは、フェイクっぽいニュースを多く流しているサイトとして、Your NewswireやNeon Nettleも調べている。図7に示すようにアルゴリズム変更後も突発的に高いエンゲージメントを得ていた。先ほど両サイトのFBアカウントをチェックしたのだが、Your Newswireは2万8000人超、Neon Nettleは55万人超のフォロワーを抱えていた。言論の自由もあって、こうしたニュースパブリッシャーのアカウントを削除できないのだろう。

FBEngagement201804dd.png
(ソース:NewsWhip)
図7 フェイクニュースを流しているニュースパブリッシャーのエンゲージメント。ここではYour Newswire と Neon Nettleを取り上げている。

 NewsWhipは、多くのエンゲージメントを獲得しているニュース記者のランキングも発表した。2018年2月の1か月間に、多くのエンゲージメントを獲得したトップ25の記者の顔ぶれを見て驚いたのだが、上位はほとんどが右寄りのハイパーパルチザン・サイトの記者であった。ファクトチェッカーで"Fake"と烙印を押された記事を投稿している記者も選ばれている。一方で主流メディアや左寄りメディアの記者は影が薄く、ほとんど選ばれていなかった。

 直感的に面白そうなフェイクニュースのほうが真実のニュースよりもソーシャルメディアでは持てはやされる、と結論付ける研究論文をよく見かける。どうも今回のアルゴリズムの改変レベルでは、フェイクニュースの蔓延を大きく減らすことは厳しそう。プラットフォーマーに期待を寄せるよりも、ニュース消費者のメディアリテラシーを高めるほうに力を注ぐべきか。

◇参考
・These were the most engaged sites on Facebook in March(NewsWhip)
・The 2018 guide to navigating the Facebook algorithm changes(NewsWhip)
・Has Facebook’s algorithm change hurt hyperpartisan sites? According to this data, nope(NiemanLab)
・Two months post-News Feed tweak: real news is not drowning, comments are growing, and videos are still winning, NewsWhip says(NiemanLab)
・CONSERVATIVE PUBLISHERS HIT HARDEST BY FACEBOOK NEWS FEED CHANGE(The Outline)
・Conservative outlets take on Facebook(Politoco)



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posted by 田中善一郎 at 16:40 | Comment(0) | 出版 雑誌
2018年03月14日

紙の「雑誌ブランド」はまだ死んでいない、米国で雑誌購読者が増える異変が

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 雑誌や新聞のプリント(紙)メディアは読者も広告も減り続けている。雑誌および新聞が提供するコンテンツのニーズは決して減ってはいないのだが、オンラインで提供するようになるにつれ、紙の雑誌や新聞のニーズが萎んでいくのは仕方がないのだろう。

 ところが米国では昨年あたりから異変が。紙の雑誌が元気を取り戻しているのだ。3月1日に発行されたThe Hollywood Reporterの最新号も、勢いがはじけていた。エンターテイメント業界紙として評価の高い同誌は、毎年この時期に発行するオスカー特集号を目玉にしている。これまでオスカー特集号の総ページ数は160ページ前後だったのが、昨年が188ページに、そして今年がさらに増ページが進み200ページとなった。総ページの半分が広告ページで埋まり、Gucci, Armani 、Rolexなどの有名ブランドが競って広告を出稿している。編集内容も同誌らしい企画で、オスカーに絡ませて#MeToo(セクハラ告発)や Envelopegate(昨年の作品賞誤発表事件)に焦点を当てて、切り込んでいる。

 同誌のサイトTHR.comも元気が良い。米国でのユニークビジター数が2017年には前年比で43%増と急上昇。昨年9月には2350万人に達し、トップクラスのエンターテイメント・ニュースサイトとして雑誌ブランドをバックアップしている。同誌編集ディレクターのBelloni氏も、ブランドを高めることに最も注力していると強調する。

HollywoodReporter2018Oscars.png

図1 The Hollywood Reporterのオスカー2018特集号の表紙


紙の雑誌からの脱皮、ネット版を加えたオーディエンス増を喧伝しているが・・・

 このThe Hollywood Reporterのように、米国の有力雑誌の多くが昨年あたりから、ブランドを武器に勢いづいているのだ。でも少し前まで、ひどい状況から抜け出せそうもなかった。

 確かに、雑誌の購読者数や広告売上が落下する一方であった。雑誌社のレイオフは日常茶飯事だし、時には発行部数が100万部を超える雑誌までが広告売上減を理由に突然休刊したり(例えば昨年も、Condé Nast社の女性誌Selfが約150万部を誇っていたプリント版をいきなり休刊させた)、さらにトップ雑誌社のTIMEが身売りされたりと、暗いニュースのオンパレードが続いた。

 米雑誌協会(MPA:The Association of Magazine Media)は、加盟雑誌社の各雑誌タイトル別に、販売部数(定期購読数と店頭販売数)や広告ページ数/広告売上高の速報値を定期的に公表していた。だが、リーマンショック以降は雑誌事業の低落する姿を見せつけるだけとなり、弱体化する広告メディアであることを浮き彫りにする結果となっていた。

 そこで何とか雑誌産業に明るさをもたらす広報活動をしなければということで、MPAは2014年後半に新たな指標となる「Magazine Media 360°」を導入した(このブログでも紹介)。プリント(紙)版だけではなく雑誌サイトの利用状況も集計し、毎月公表することにした。雑誌メディアの多くがデジタル(ネット)シフトに活路を見出そうしているので、プリント版の利用者@に加えて、次のようにA〜Cのそれぞれの利用者も個別に発表することにした。また利用者をリーダーと呼ばないでオーディエンスと称するようになった。

@プリント版(デジタルレプリカ版も含む):Print+Digital Editions
Aウェブ(デスクトップ/ラップトップ):Web(Desktop/Laptop)
Bモバイルウェブ:Mobile Web
Cビデオ:Video

 そこで、雑誌ごとにオーディエンス総計(Total 360°=@+A+B+C)を発表し、プリント版のオーディエンスを超える多くの人が雑誌メディアに接していることを訴えた。つまり雑誌メディアが幅広くリーチする有効な広告メディアであることを主張したかったのだろう。また各雑誌名を雑誌タイトルと言わないで、雑誌ブランドと呼ぶようにしたのも興味深い。ただ非常に残念だったのは、雑誌タイトルごとに提示していたプリント版の月間広告ページ数や売上高を一般公開しなくなったことだ。

 2014年後半から始まった「Magazine Media 360°」の対象となる雑誌ブランドには、米国の伝統的な有力雑誌の大半が含まれている。最近の2017年12月の集計では、32雑誌社の135雑誌ブランドが参加していた。図2に示すように、2017年12月には135雑誌ブランドのオーディエンス総計(Total)が18億1100万人に達し、年々順調に増え続けている。特にAのMobile Webのオーディエンス、つまりスマホユーザーのオーディエンス増がTotalの底上げに貢献するようになっている。

米雑誌2017Dec.png 
(ソース:MPA、単位:100万人)
図2 雑誌ブランドのチャンネル別のオーディエンスの推移。オーディエンスの総計(Total)は増え続けている。この1年間でも、2016年12月の17億8600万人から、2017年12月の18億1100万人へとリーチを拡大している。注目すべきは、長期にわたって減り続けていたプリント版オーディエンス数が、2016年12月の9億200万人から2017年12月の9億3200万人へと、久々にプラスに転じたことだ

 その総オーディエンス数の雑誌ブランド・ランキング(上位25)を、図3で示す。124誌の雑誌ブランドの中で64誌ブランドが、月間1000万人以上の総オーディエンスを抱えている。また2017年の1年間で、75誌ブランドが総オーディエンス数を増やしてきている。

MPATotal360Top 2017.png
(ソース:MPA、単位:1000人)
図3 総オーディエンス(Total)数のランキング。Totalでトップ25の雑誌ブランド(左)と、前年比成長率でトップ25の雑誌ブランド(右)

 このように総オーディエンスが増えているのだから、雑誌メディアは衰退しているのではなくて、発展しているのだ。米雑誌協会としては、外部に向かってそのように主張しておきたかったのだろう。

 ただ総オーディエンスが増えたということだけで、雑誌メディアが復活しているとは言い切れない。かつてのコンシューマ向け雑誌メディア(プリント版)のオーディエンスは、ほとんどが有料読者であったし、接触時間も比較的長く売上に貢献してくれる優良読者であったとも言える。でも新しい指標の総オーディエンス(Total)には、滞留時間が短い無料のネットユーザーが多く加わってきている。1人当たりの売上貢献の低いネットオーディエンスが増えても、雑誌の収益性がなかなか向上しないのが常である。雑誌のプリント広告売上は長期的に低落しており、そのプリント広告売上の減った分を、ネットオーディエンス向けのデジタル広告で穴埋めできていないのが現状である。

 実際、図2でも明らかのように米国の雑誌全体の総オーディエンス(Total)は年々上昇し続けていたのだが、雑誌ブランドからは収益悪化を伝える話が相変わらず多い。雑誌ブランドの収益の柱である広告売上についてMPAが全く公開しなくなったことが、雑誌産業に対する心配を膨らませることにもなった。そこで外部の調査会社のデータを見ることになる。PwCの調査によると、多くの雑誌ブランドはやはり未だにプリント版(紙の雑誌)に大きく依存せざるえないようだ。米国の雑誌メディアの広告売上高は2016年度に166億ドルとなったが、そのうちの62%がプリント広告に頼っていた。また販売売上の紙依存はもっと大きく、売上の87%がプリント版からであった。

 若者を中心に紙の雑誌離れが進んでいるにもかかわらず、雑誌ブランドは収益面でプリント版にまだまだ頼ざる得ないのだ。急落していたプリント版のオーディエンス(図2のPrint+Digital Editions)数も2016年ころには下げ止まりの傾向が見られていても、プリント版雑誌への広告離れが相変わらず進んでいた。ところが驚いたことに、昨年(2017年)あたりから、そのプリント版雑誌に追い風が吹き始めたのだ。


大半の雑誌ブランド、プリント版読者を増やしている

 1年少し前から、伝統の新聞や雑誌のコンテンツが急に見直されている。トランプ大統領の出現などで、フェイクニュースなどの信用できない情報が、ソーシャルサイトなどを介して氾濫し始めたからだ。信頼できる情報に飢えた人たちが、どうも伝統の新聞や雑誌コンテンツに飛びつき始めているようだ。

 有力な伝統的な雑誌メディアや新聞メディアは、社会面や文化面で大きな影響力を米国民に及ぼしてきており、長く培ってきた伝統メディアのブランドへの信頼はまだ根強く残っている。

 新聞コンテンツの場合、速報性が要求されるフロー情報が主となるので、プリントよりもデジタル(ネット)版がサービスの中心となる。NTタイムズに代表される高級新聞の有料デジタル版オーディエンスがトランプ大統領就任前後から爆発的に急増している。一方雑誌コンテンツの場合、月刊や週刊で提供する比較的賞味期間の長い情報が主であるため、かならずしもネット版である必要はない。また米国の伝統的な雑誌(紙)は、宅配の定期購読者が多いのが特徴である。時間をかけて企画し熟成されコンテンツを読みやすくレイアウトした紙の雑誌メディアに対し、信頼を寄せる人はもともと多かったが、ここにきて新たに見直されてきているのだ。

 図2に示した、雑誌メディアのチャンネル別オーディエンス数の推移でも、プリント版(Print+Digital Editions)オーディエンス数が2016年12月の9億200万人から2017年12月の9億3200万人へと、久々にプラスに転じている。MPAの調査によると、昨年は124誌のうち91誌もの多くの雑誌ブランドで、プリント版のオーディエンス数が増えたというから凄い。プリント版のオーディエンス数にはデジタルのレプリカ版(PDF版など)のオーディエンスも含まれるが、重要なのはいずれも紙向けに制作された雑誌コンテンツの読者ということだ。

 そこで、日本でも良く知られている6誌の雑誌ブランドについて、プリント版オーディエンス数の推移を見てみよう。図4に示すように、Sports Illustratedを除く5ブランドで、この1年間(2017年)で増えている。有力誌ともなると、Cosmopolitanが178万人、Peopleが416万人、Timeが186万人のように未だに多くの読者を抱えている上に、昨年は読者を減らさないで増やしている。プリント版コンテンツが廃れていくという動きを吹っ飛ばす出来事である。他にも、The New Yorkerが前年比17.5%増、The Atlanticが同11.3%増のように、プリント版オーディエンス数が2桁台の高成長を示した雑誌ブランドが相次いだ。優良顧客であるプリント版オーディエンス数が増えることにより、多くの雑誌ブランドが久々に活気づいてきた。

MPAPrintAudience20162017.png
(ソース:MPA、単位:1000人)
図4 有力雑誌ブランドのプリント版オーディエンス数

ソーシャルプラットフォームを活用、プリント版コンテンツを補完して雑誌ブランド力を高める

 プリント版コンテンツが見直されてきたからと言っても、プリント版に特化した雑誌メディアに戻ろうとはしていない。雑誌ブランドの紙(プリント版)コンテンツに惹きつけるためにも、オンライン(ネット)での展開がより重要になってきているからだ。速報性やマルチメディア性(動画など)、対話性など、プリント版では提供できなかった類のコンテンツを中心にネットで補完することにより、若い人にもプリント版ブランドの存在を知らしめている。

  そこで雑誌ブランドはソーシャルメディアなどを活用して、ネットオーディエンスの確保に競って動いている。幾つかのソーシャルメディアに公式ページや公式アカウントを設け、いいね!数/フォロワー数の獲得に注力してきている。そこで雑誌ブランドのネット上での取り組みを後押しするために、MPAは雑誌ブランド別に代表的なソーシャルメディアにおけるアクティビティー(いいね!数/フォロワー数)を計数し、毎月ランキングを公表している。

 以下の図5に、2017年12月のランキングを示す"Social Media Report"の一部を掲げておく。図の左の表で、Facebook、Twitter、 Google+、Instagram、それにPinterestの5サイトにおけるアクティビティー(いいね!数/フォロワー数)総数による雑誌ブランド・ランキング(トップ25)が、右の表でFacebook、Twitter、 Google+、Instagramのそれぞれの雑誌ブランド・ランキング(トップ10)が示されている。

 MPAMagazineFollowers291712a.png
(ソース:ソース:MPA)
図5 ソーシャルメディアのフォロワー数の多い雑誌ブランド(トップ25)。特定SNS(Facebook、Twitter、Instagram)のフォロワー数の多い雑誌ブランド(トップ10)
 
 MPAに入っている雑誌ブランドはもともとプリント版が中核であり、そのプリント版で培ったブランド力を前面にオンライン版にも拡大展開している。オンライン版オーディエンスは、以前はPC Web版が多かったが、いまやモバイルWeb版が主流となり、さらにビデオ版が急増し始めている。オンライン版コンテンツも、紙の雑誌ブランド力を高めるものが多く、結果としてプリント版オーディエンスの新規獲得に貢献している。

 伝統雑誌社のほうが伝統新聞社よりも生き延びる?

 伝統的な雑誌メディアも新聞メディアも、見直されているといっても厳しい状況は変わらないだろう。明るい展望を開くには、収益の柱となっていた広告売上高の落下を食い止めなければならない。そのためには、プリント版広告で減った分をデジタル広告で補う必要がある。幸い雑誌メディアでは一時的にしろ、プリント版オーディエンス数が上向いたので、プリント版広告売上の落ち込みが少しは鈍りそう。その間にオンラインオーディエンスに向けてのデジタル広告売上を増やしていきたいところだ。

 PwCのレポート「Entertainment & Media Outlook」によると、コンシューマ雑誌の広告売上高は2017年の166億ドルから2021年の167億ドルへと、ほぼ同じ売上規模を維持できると予測している。年平均成長率マイナス9.7%で減り続けるプリント広告売上を、同16.7%で増え続けるデジタル広告売上で補っていけると見ているわけだ。2021年における雑誌のデジタル広告売上は99億ドルに達し、プリント広告売上(68億ドル)を大きく上回ると予測している。

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(グラフ作成:MarketinCharts.com、データソース:PwC、単位:10億ドル)
図6 米国における広告メディア別の広告市場規模。2017年と2021年(予測)のメディア別に市場規模を示している。2021年の雑誌広告売上は167億ドル(デジタル広告は99億ドル)、同年の新聞広告売上は122億ドル(デジタル広告は54億ドル)と予測されている。

 PwCのレポートでは、図6のように米国における広告メディア別の広告市場規模を予測していたが、興味深かったのは雑誌と新聞との比較である。2017年における広告売上高は、コンシューマ雑誌も新聞も167億ドル前後と同じ規模であった。ところが2021年の予測では、雑誌の167億ドルに対し新聞は122億ドルと大きく落ち込んでいる。新聞広告が雑誌広告に大きく差を付けられたのは、新聞のデジタル広告の伸びが雑誌に比べ低いからである。雑誌ブランドはオンラインでも、広告に向いた特定分野をカバーするターゲッティングメディアとして成り立つため、ニュース主体の新聞ブランドに比べデジタル広告を獲得しやすいのだろう。

 こう見ていくと、米国の雑誌ブランドのほうが新聞ブランドよりも、しぶとく生き延びるのかもしれない。雑誌メディアについてはレイオフや休刊といった暗いニュースが多かったが、信頼の高い雑誌ブランドに対する期待が高待ってきたこともあって、明るい話も増えてきた。2月末に入ってきたThe Atlanticに関するニュースもそうだ。レイオフが日常化している雑誌業界において、同誌は全従業員の30%増に相当する100人を今後12カ月以内に採用すると発表した。The Atlanticはこの1年間で購読者数を13%も増やし、さらにサイトのビジター数を25%も増やしたという。ワシントン、ハリウッド、ヨーロッパ、それにテクノロジー分野の編集カバーを強化していく方針である。

 今年は、信頼できる情報提供がカギとなりそう。

◇参考
・'The Hollywood Reporter' Publishes Biggest Oscars Issue, Focuses On #MeToo, Envelopegate(MediaPost)
・SocialMediaEngagementFactors、2017Qtr4(MPA,magazine.org)
・US Online and Traditional Media Advertising Outlook, 2017-2021(MarketingCharts)
・The Atlantic Plans a Hiring Spree)(NYTimes)
・Print Is Still Big Business in Magazine Media(Folio)
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posted by 田中善一郎 at 13:56 | Comment(0) | 出版 雑誌
2016年12月29日

「トランプ現象」の追い風で、米国の有力新聞サイトが絶好調

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 米国の有力新聞サイトが、トランプ氏のお陰で勢いづいている。米大統領選挙線後半から投票日にかけて、ユニークユーザー数が増え続けた。さらに驚かせたのは、選挙終了から一段と有料購読者数が急増していることである。

 米国の4大新聞である、NYタイムズ、ワシントンポスト、 USAトゥデイ、ウォール・ストリート・ジャーナルの各サイトの月間ユニークユーザー数は、図1のように推移している。NYタイムズとワシントンポストの急伸が際立つ。NYタイムズは今年11月に、1億人を大きくクリアした。

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図1 米国の有力新聞サイトの月間ユニークユーザー数の推移。comScoreが米国内のユーザーを対象に実施している調査結果より。

 大統領選挙期間中は、ニュースメディアのニーズは高まるはずである。でも、ソーシャル化とモバイル化が進むに従い、バズフィードやハフィントンポストなどの新興ニュースサイトへのトラフィックが増えても、新聞社系ニュースサイトへの訪問数はあまり増えないのではと懸念されていた。だが、図1と図2からも分かるように、伝統新聞サイトでも、ユニークユーザー数はこの1年間でかなり増えた。

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図2 2015年10月、16年9月、16年10月、16年11月における各新聞サイトの月間ユニークユーザー数。

 やはりトランプ氏の存在が効いた。彼の破天荒な発言や過去のスキャンダルなど、トランプ氏に関わる記事に多くのアクセスが集まった。またソーシャルメディアで偽ニュースやデマ情報が蔓延したこともあって、信頼性の高い伝統新聞サイトに頼る人も増えていった。

 その伝統新聞のほとんどが、選挙戦後半からトランプ氏に対する批判記事を多く発信し、クリントン氏優勢と報道してきた。にかかわらずトランプ氏が勝利したため、選挙後は新聞サイトが逆風に立たされることになった。読者離れが進むのではとの懸念も出てきた。ところが、NYタイムズ、ワシントンポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルの有料サイトで、選挙の直後から購読申し込みが殺到した。

 リベラル系の多い既存マスメディアを非常に毛嫌いしていたトランプ氏が、選挙後もマスメディアをバイパスして、ツイッターを通して独断的な発言を続けている。マスメディアを無視して、一方的に政策などを伝える姿勢に、危機感を抱く人が増えるのは当然である。またソーシャルメディアには選挙後も、トランプ氏のツイートも含めて、偽ニュースやデマ情報が少なくない。

 真実の情報をもっと知りたいし、独裁的に走りそうなトランプ政権を監視してもらいたい。そうした願いを込めて、信頼できそうな伝統メディアに頑張ってもらうために、有料サイトの購読申し込みが増えたのだろう。NYタイムズでは、図3のように、今年最後の四半期(2016年10月〜12月)にデジタル版の有料購読数(純増数)が20万部を超える見込みだ。選挙戦後半の第3四半期(2016年7月〜9月)も11万6000部も増えている。トランプ氏がNYタイムズの救世主になるのかもしれない。

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図3 NYTの有料購読数の純増数(四半期別)。有料サービス開始直後の四半期(2011年第2四半期)は28万1000部と特別に多かったが、それ以降は5万部前後で推移していた。トランプ効果で、今年後半に有料購読数が急増し、年末にはデジタル版オンリーの有料購読数総計は、150万部を突破する見込み(パズルの有料購読は除く)。

 有料購読数が増えていけば、業績にも反映するはず。最近まで、有力新聞社でも、経営危機を乗り越えるために、ニュース編集のスタッフ削減を強いられてきた。業績回復に伴い、ニュース編集のスタッフ増強を実施する新聞が現れてきた。ワシントンポストが60人以上のジャーナリストを近く採用し始めるということだ。久々の朗報である。調査報道チームの専門スタッフ、ビデオジャーナリスト、 ブレーキングニュース・スタッフなどを集めるという。

◇参考
・'Profitable' Washington Post adding more than five dozen journalists(POLITICO)
・After Trump’s win, news organizations see a bump in subscriptions and donations(NiemanLab)
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posted by 田中善一郎 at 00:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2014年11月24日

老舗雑誌もソーシャルメディアを読者との接触の場にして、再浮上を図る

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 アメリカの伝統的な雑誌の状況も相変わらず厳しい。新聞と同様、販売部数も広告売上も落ち込む一方である。何とか電子版で活路を見出し、生き残りを図りたいところだ。そこで最近、米雑誌協会(MPA:The Association of Magazine Media)は新しい「Magazine Media 360°」を導入して、プリント(紙)版だけではなくて電子版の利用状況も集計し、毎月公表することより、電子版の取り組みを後押しすることになった。

 ほとんどの雑誌社は、雑誌ブランドごとに有力なソーシャルメディアに公式ページや公式アカウントを設けている。そうした雑誌ブランドの公式ページ/アカウントおけるいいね!数/フォロワー数を集計しとりあえず電子版のアクティビティーを見ていこうとしているのだろう。このほど10月分の最新データが、"Social Media Report"として公表されたので紹介する。代表的なブランドである166誌のそれぞれについて、ソーシャルメディアでのアクティビティーが示されている。ソーシャルメディアには、Facebook、Twitter、 Google+、Instagram、それにPinterestの5サイトを対象とし、いいね!数/フォロワー数などのアクティビティー数が計数されている。

 最初のグラフは、5つの各ソーシャルメディアにおける、いいね!数/フォロワー数(Likes/Followers)の多いトップ10誌のランキング表である。米国の有力老舗雑誌が上位に名を連ねている。 

MagazineSocialMediaTop10bySocial201411.png

 次は5ソーシャルメディアのいいね!数/フォロワー数総計のランキングである。トップ25誌までを掲げている。National GeographicはPinterestを除く有力ソーシャルメディアのすべてでトップとなっていた。Timeは4月の再出発以降トラフィックを急増させており、総合ランキングで2位にランクされた。3位に付けた男性誌PlayboyはFacebookフレンドリーにするために8月にWebサイトを衣替えしたのが功を奏したという。硬い経済誌のEconomistが4位に顔を見せているのも注目したい。

MagazineSocialMediaTop25Likes201411.png

 いいね!数/フォロワー数の166誌総計を、ソーシャルメディア別に計数すると、次のようになる。やはりフェイスブックでのアクティビティーが最も活気があり、1億9800件と全体の約半分を占めていた。

MagazineSocialMediaTotalIndustryLikes201411.png

 次は、いいね!数/フォロワー数の月間伸び率である。9月と10月の伸び率である。写真を売りにしている雑誌が多いのか、Instagramの成長ぶりが際立った。

MagazineSocialMediaLikesGrowth201411.png

 参考までに、いいね!数/フォロワー数がずば抜けて多かったNational GeographicのFacebookページのスナップショットを以下に載せておく。

MagazineSocialMediaNational GeographicFB201411.png

 バイラルメディアなどの新興のネットパブリシャー・サイトでは、トラフィックの主流がソーシャルメディアからの流入トラフィックになりつつある。つまり読者がメディアサイトのコンテンツを見つける場がFacebookなどのソーシャルメディアに移ってきており、また当然のようにコメントなどのやり取りもソーシャルメディアで済ませるようになってきた。追うように伝統的な新聞サイトも今年に入って、ソーシャルメディアからの流入トラフィックを増やす施策に注力し始めている。英Guardianも成功事例である。一方これまでソーシャルメディア対策が今一つ不透明であった雑誌サイトも、米雑誌協会の後押しもあって、読者との接点の場としてソーシャルメディアを重視していこうとしているのだ。ただ、公式ページや公式アカウントのいいね!数/フォロワー数が必ずしもメディアサイトのホームページへの流入トラフィックに連動するわけではない。それでもソーシャルメディアからの流入トラフィックを急増させた雑誌サイトの事例報告が、出始めている。たとえばCosmopolitanやHarper’s Bazaarなどを擁する 大手出版社のHearst Magazinesは、Facebookからの流入トラフィックの割合を1年間で4%から25%に増やした。


◇参考
・Study: Facebook the social platform of choice for magazines(CAPITAL)
・How Hearst learned to play with emotions to drive Facebook traffic(Digiday)
・Publishers introduce new metric for magazines(CAPITAL)

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posted by 田中善一郎 at 23:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2014年07月12日

BuzzFeed風編集で人気急上昇の女性誌「コスモポリタン」サイト、ネイティブ広告で収益アップを

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 Cosmopolitan(コスモポリタン)誌のサイトが、7月8日に大幅に刷新した。米国の大手雑誌社 Hearst Magazinesは、旗艦媒体でもあるCosmopolitan誌を皮切りに、同社の有力雑誌のWebサイトを、モバイル/ソーシャル時代に対応したサイトに衣替えしていく。

図1

CosmopolitanSiteNew20140708.png

 Cosmopolitan誌の新サイト(http://www.cosmopolitan.com/)のホームページ画面を以下に掲げる。記事コンテンツや広告の見出し/イメージをタイムライン(ストリームライン)で流していく今風のデザインになっている。各記事は何時間前に投稿されたかが示され、もちろん代表的なソーシャルメディアでシェアできるようになっている。各カテゴリー別のトップページや各記者のアーカイブでも、同じタイムラインのデザインを採用している。また各ページのナビゲーションバーも分かりやすい。WebデザインはCode and Theory (http://www.codeandtheory.com/)が請け負った。


図2
Cosmopolitan20140710a.png


  また広告枠も、タイムライン内の記事コンテンツ枠と同じ枠を利用する。読者に対して、編集記事と同じように、広告にも目が留まるようにしていく。「MARKETPLACE」のタイトルが付けられた広告枠を適当に配し、そこにはCosmopolitanユーザーが関心を寄せるトピックス名を複数、掲載していく。その中の特定のトピックスをクリックすると、その検索結果としてスポンサードリンクが示される。またCosmopolitanサイト内のそのトピックス関連記事も紹介されていた。これは、今はやりのネイティブ広告である。タイムラインでは頻繁に「MARKETPLACE」が現れるが、掲載するトピックスはローテーションで変えていく。このネイティブ広告「MARKETPLACE」については、loglyブログの記事で詳しく紹介。


図3

Cosmoplolitan20140710b.png



 さらに、スポンサードコンテンツも編集コンテンツ枠と同じデザインやスペースで組み込んでいる。広告主のためにCosmopolitanが制作することもあり、たとえば、以下のタイムラインで現れた“COSMOPOLITAN + Sally Hansen”と明記された記事は、ネイル用品メーカーのSally Hansenがスポンサーの広告記事である。これは署名記事となっており、Cosmopolitan.comの人気編集記者であるCarly Cardellino氏がまとめたネイルアートの記事。彼女は毎日のように編集記事を投稿しているが、時折、こうしたスポンサードコンテンツも執筆しているのだろう。ファッション関係のコンシューマー雑誌ともなると、編集と広告の境界があいまいにならざる得ないのか。Cosmopolitan.comのスポンサードコンテンツの詳細は、こちらの記事を参照。

図4
CosmopolitanNativeAds201407a.png


  ところでCosmopolitanサイトはこの1年間で、目覚ましい成長を遂げてきた。月間ユニークビジター数が今年5月に3000万人を達成、1年前の1000万人から3倍に膨れ上がった。またモバイルデバイスからのアクセスが急増したのも特徴で、ページビューの69%はモバイルユーザーからであった。2012年の約33%に比べて、いかにモバイルシフトが進んだかがわかる。

 このCosmopolitanサイトの急上昇には仕掛人がいた。10か月前にCosmopolitan.com編集に就いたAmy Odell氏である。彼女は、BuzzFeedサイトに727本のバイラル記事を投稿してきた人気ブロガーで(投稿記事のアーカイブはこちら)、BuzzFeed Fashionも立ち上げてきた。バイラルメディアの主流であるリスト記事(listicle=list+article)の執筆/編集を得意としている。彼女はCosmopolitan.com編集の責任者として、またリスト記事のライターとして大車輪で活躍しているのだ。ちなみに図1に加えて図3の一番上の記事も、彼女の投稿記事である。3月に執筆した「18 Signs You’re With the ManYou Should Marry」では45万を超えるシェアを得ている。

 彼女が編集に加わった影響で、Cosmopolitan.comの記事はソーシャルメディア上で一気に拡散するようになり、特にFacebookからの参照トラフィックが急増するようになった。新しいサイトを見ても、BuzzFeed風のリスト記事が満載である。彼女のチームはコンテンツの更新や組み換えのスピードアップを実現するようになり、毎日のコンテンツ投稿数も20%アップし、一日当たり45本の新しい記事を投稿できるようになったと自慢する。

 Cosmopolitan.comの勢いが、Hearstの他雑誌サイトにも乗り移り、Hearstの雑誌サイト(18サイト)の総ユニークビジター数は月間で1億人を突破したという。それを後押したのがソーシャルメディアからの参照トラフィックである。中でも貢献したのは、Facebookからのトラフィックの割合が急増したことで、1年前の4%から25%にも跳ね上がった。

 Cosmopolitanから始めた新しいパブリッシングプットフォームは、Hearstの全雑誌サイトで採用していく。Cosmopolitanの次はElle、その後はEsquireの予定。


◇参考
・米女性誌「コスモポリタン」のサイト、新装デジタルプラットフォームでネイティブ広告にまい進(loglyブログ)
・Hearst Magazines Digital Media Introduces New Publishing Platform(newswire)・
・Welcome to the Sexy New Cosmopolitan.com(Cosmopolitan.com)
・Why Hearst Laid Off 'Cosmo' and 'Elle' Web Editors(Mashable)
・Cosmopolitan.com Gets a Makeover(WWD)
・HEARST DIGITAL'S NEW PUBLISHING PLATFORM AIMS TO BE AN ADVERTISER'S DREAM(Fashionist)



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posted by 田中善一郎 at 11:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2014年02月14日

米国の雑誌、一部売りの落ち込みをデジタル版で補えない

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  アメリカの雑誌市場も、日本ほどひどくはないが、じり貧が続いている。
 

米AAM(The Alliance for Audited Media)がこのほど、昨年(2013年)下半期における主要コンシューマー雑誌の販売部数を公表した。調査対象となった386誌(タイトル)の総購読数は前年同期比1.7%減と、やはりマイナス成長となった。アメリカの雑誌市場の特徴は、定期購読の割合が高いことだが、その定期購読数(paid subscriptions)が同1.2%減と下げ止まらない。さらに、ニューススタンドや書店で売られる一部売り(single-copy sales)総数は同11.1%減と大きく落ち込んだ。一部売り部数は、定期購読数に比べると少ないが、単価が高いため販売売上高の底上げにも欠かせない。特に女性向けファッション誌のように都会派雑誌では、話題のセレブを表紙に登場させたりして一部売り販売に力を入れてきた。

ところが、ネットの影響を大きく受け始めた。アメリカの雑誌の定期購読は年間購読料が非常に安いこともあって、惰性で継続購読する人が多いのか、定期購読数は極端に減ることはなかった。でも一部売り販売は大打撃を被っている。人気雑誌であっても一部売りの販売部数を年間で、10%〜20%も急に減らし始めているのだ。オンライン/デジタル・メディアに浸食されていることは明らかである。そこで、タブレットやスマホの普及に合わせて、自らデジタル雑誌に本格的に乗り出している。300誌(タイトル)以上がプリント版のデジタルレプリカ版を販売しており、昨年下期には前年同期比36.7%増の1080万部を売った。デジタル雑誌が伸びていることは確かだが、総購読部数のうちデジタル版の占める割合はわずか3.5%に過ぎない。紙の雑誌(プリント版)の部数減を補うのは無理にしても、一部売り部数の減った分だけでもデジタル版で補いところである。

AAMが、昨年下期における総販売部数、一部売り総販売部数、それにデジタル版(プリント版のレプリカ版)販売部数のそれぞれについて、トップ25の雑誌を以下のように公表している。最初の表は、総販売部数である。目についた雑誌としては、前年同期比30%増の「American Rifleman」。全米ライフル協会の公式雑誌である。雑誌部数だけではなくて、銃犯罪も増えたりしないのかな。


USMag2013SecondHalf.png


 次は一部売り販売部数の多い雑誌のランキングである。「Cosmopolitan」、「Glamour」、「Vogue」、「Vanity Fair」のような有力女性誌が、ニューススタンドなどでの一部売り部数を前年同期比で20%以上も減らしているのが目立つ。

USMag2013SingleCopy.png

デジタルレプリカ版の販売部数は次の通り。期待されたほどに立ち上がっていないのが現状である。

USMagDigitalReplicaCirculation.png

3年ほど前まで、デジタル雑誌にはプリント版(紙雑誌)を超えたコンテンツが期待されていた。プリント版では表現できない動画やパノラマ写真、CG、アニメ、音声を盛り込んだり、さらに紙面の物理的制約から日の目を見なかった写真や記事を載せたりした、デジタル雑誌である。だが余分な制作・編集コストをかけたくないため、大方のデジタル雑誌はプリントコンテンツをそのまま焼き直したレプリカの域から出ていない。

アメリカの伝統的なコンシューマー雑誌は広告売上高に大きく依存している。このため当面は、広告主に示す販売保証部数を出来る限り減らしたくない。ところが紙離れが進み、読者はモバイル端末でのメディア接触時間を増やしてきている。そこで雑誌社としては、とりあえずプリント版雑誌(レプリカ版)をモバイル端末で読んでもらって、雑誌の販売保証部数の維持に努めている。ただレプリカ版ではデジタル雑誌としての新しい魅力に乏しいだけに、部数をどこまで伸ばしていけるかが課題となる。例えば「Vanity Fair」は、一部売り部数をこの1年前間で6万9500部も減らしているが、同じ時期にデジタルレプリカ版の販売部数を2万8700部しか増やせていない。いまのところ、デジタル版が雑誌の救世主になっていない。


◇参考
・Top 25 U.S. Consumer Magazines for December 2013(Alliance for Audited Media)
・Magazine circulation down(WWLP.com)


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posted by 田中善一郎 at 21:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年12月15日

大英図書館が100万点以上の画像を公開、無料で利用可能に

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 大英図書館(The British Library)は100万点以上の画像をFlickr Commons上に公開した(こちら)。誰もが無料で利用できる。この画像を素材として自由に利用できるのだ。

BritishLibraryflickr1.png

 17世紀、18世紀、19世紀に発行された本の中の画像が今回の公開対象で、これらの本はマイクロソフトによってデジタル化されている。地図やイラスト、風景画、壁画などの画像が多い。スクロールしていくと明治維新前後の日本を描いたイラスト出会ったので、それを掲載している書籍の画像集を見てみた(こちら)。以下はその一部。

BritishLibraqaryFlickrUnbeaten Tracks in Japan.png

 書籍のタイトルなどは次の通り。英国人にとって人跡未踏のニッポンの風俗などをイラストで紹介した、1885年発行の本である。各イラストは高解像度でスキャンされているので、フル画面でもきれいに見ることができるものが多い。
Title: "Unbeaten Tracks in Japan ... New edition, abridged"
Author: BIRD, afterwards BISHOP, Isabella Lucy.
Shelfmark: "British Library HMNTS 10058.bbb.32."
Place of Publishing: London
Date of Publishing: 1885
Publisher: John Murray
Issuance: monographic
Identifier: 000356197
 同図書館の登録会員は、この書籍をPDFでダウンロードして閲覧できる(こちら)

 タグ検索でいろんな画像を見ていくと面白そう。例えば、チャールズ・ディケンズの作品の画像はこちらで。ただし、タグ(http://www.flickr.com/photos/britishlibrary/tags/)を調べようとしたが、現時点ではタイムアウトで使えなかった。

 大英図書館は、昔の書籍などのコンテンツをパブリックドメインとして公開していこうとしている。また同図書館はUK Web Archiveを立ち上げており、2004年にさかのぼってWebページを保存しており、今年末までに10億ページをアーカイブすることになっている。


 ◇参考
・British Library uploads 1 million archival images for free use, wins internet(CBCBooks)
・A million first steps(Digital scholarship blog)
・British Library to archive one billion UK web pages by year's end(The Verge)


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posted by 田中善一郎 at 13:50 | Comment(1) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年11月05日

ナショナルジオグラフィックの忘れられない表紙写真、アフガンガールが125周年記念号で再び登場

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 ツイッターのタイムラインを何気なく見ていると、次のツイートに出くわした。

AfghanGirl19842013.png

 ナショナルジオグラフィックの表紙写真のアイコンにもなっている「アフガンの少女」の写真(左側)である。あまりにも有名な1985年6月号の表紙写真である。この表紙写真を撮影したスティーブ・マッカリー氏が、その掲載号から17年後にようやく彼女を探しあてて再会を果たし、その時に撮ったのが右側の写真である。再会の記事は、2002年4月号に「アフガン難民の少女発見」として掲載され、下の右側の写真のように、再び表紙を飾った。

AfghanGirl19842002.png

 そして、創刊125周年特別号にあたる2013年10月号(日本語版はこちら)が「写真の力」を特集テーマとし、表紙に「アフガンの少女」が三度目の出番となった。

 これに合わせて、「アフガンの少女」のエピソードとして、この世紀の写真が実はボツになりそうだったという話が紹介されている。撮影者の上司に相当するフォト・エディターが「表紙にはキツすぎる」ということで、編集長に見せずにボツにしようとした。でも撮影者のマッカリー氏は食い下がり、強烈過ぎる写真だけだと拒否されそうなので、顔を手で覆ったもう一枚の写真(上の左側の写真)と合わせて、編集長に並べて見せることにこぎ着けた。編集長は、強烈な写真を指差し「次の号の表紙はこれ」と即答したという。もし顔を手で覆った写真が選ばれていたら、後に語られることはなかっただろう。

 個人的にも忘れられない写真である。当時はナショナルジオグラフィックの日本語版はまだ創刊されていなかったが、友人も含め日本にも同誌英語版の購読者がかなり存在していた。またこの写真の背景となる、ソ連軍のアフガニスタン侵攻は1979年末であるが、その速報をアンナプルナ氷河上のテントで短波放送から知ったこともあって、その後のソ連・アフガン戦争は遠い地の出来事には思えなかった。ソ連侵攻に抗議して、米国に同調する形で西側諸国がモスクワオリンピックをボイコットしたように、世界中の多くの目も向けられていった。ソ連軍と共産主義政権に対する抵抗組織に、米国(CIA)が資金支援し、またイスラム諸国からの大量の義勇兵(ビン・ラーディンもその一人)が加わり、複雑な泥沼の戦いに入っていった。

 でも次第に世界の大半の人がアフガン紛争を気にしなくなっていき、たとえ関心があっても激しい戦闘の行方にしか注視していなかったときに、世界に1000万人以上の読者を抱える同誌の表紙に「アフガンの少女」が現れたのだ。国土が破壊されつくされ多くの市民が犠牲になり、数百万規模の難民で溢れている悲惨さを、世界に訴える写真となった。マッカリー氏が「人の無防備な瞬間をとらえ、その人の大事な魂や、顔に刻まれた人生を見つける」と言うように、12歳難民少女の緑の目が読者の心に深く刺さった。

 スティーブ・マッカリー氏の写真力のすごさは、ネット上のギャラリーでも垣間見える。身近なところでは、東日本大震災 の写真も忘れられない。


◇参考
・第27回 実はボツ写真だった史上もっとも有名な「アフガンの少女」(そうだったのか! 『ナショナル ジオグラフィック』)
・Afghan Girl(National Geographic)
・‘Afghan girl’ cameraman tells stories behind pictures(arab news)
・Iconic 'Afghan girl' image was almost cut, photographer reveals(Today News)
・写真の力、(ナショナルジオグラフィック日本版 2013年10月号)
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posted by 田中善一郎 at 20:18 | Comment(4) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年08月29日

米国のデジタル雑誌、立ち上がり鈍いが300万部誇る先鋭も

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 米国のタブレット向けデジタル雑誌がロケット発射しているに違いない・・・・。タブレット端末利用者数が今春時点でも、1年間で84%も増えていただけに、デジタル雑誌への期待は膨らんでいた。ところが出版社の思惑通りには急上昇しなかったようだ。

 米AAM(Alliance for Audited Media)が公表したデジタル版雑誌の購読者数ランキング(トップ25雑誌)は次のようになった。コンシューマ雑誌(プリント版)のデジタルレプリカの販売部数である。米国の主要な390誌を対象にした調査結果である。

DigitalMagazineUS2013.png

 2013年上半期において、デジタル版の総販売部数は平均して1020万部となった。1年前の540万部から倍近くに増えているし、デジタル版だけで10万部を超えた雑誌が10数タイトルも現れ、順調に思える。だが、コンシューマー雑誌の総販売部数のうちデジタル版の占める割合はわずか3.3%に過ぎないのだ。総販売部数が同じ期間に1%ダウンしているだけに、出版社がもっとデジタル版の急成長に期待を寄せるのは当然である。さらに、ニューススタンドなどにおける一部売りの販売部数が最近、急激に落ちてきているだけになおさらである。

 参考までに、いくつかの主要雑誌について、総販売部数と一部売り販売部数を掲げておく。

*総販売部数
MagazineUS2013Circulationa1.png

*一部売り販売部数
MagazineUS2013SingleCopy.png

 米国と日本では雑誌環境があまりにも違う。米国の雑誌は宅配の定期購読(たとえば年間購読)が中心で、その定期購読料が安価で、販売部数が100万部を超える大部数雑誌が多いことが特徴である。その結果として広告売上高も日本の雑誌と比べると桁違いに大きい。米国の大部数雑誌を日本のそれと大雑把に比較すると、販売部数が数倍、定期購読料が数分の1、広告売上高が約10倍といったところか。それに米国の雑誌は定期購読が中心のため、一部売りが少ないのも特徴である。ほとんどの雑誌では、一部売り販売部数が総販売部数の10%にも満たない。

 でも一方で、女性誌を中心にいくつかの雑誌では、その一部売り販売を増やして総販売部数の底上げに努めてきた。主に若い読者が、ニューススタンドで気に入った特集号の雑誌を購入してくれていたのだろう。ところが最近になって、上の表(3番目の表)のように、有力雑誌でも一部売りの販売部数を年間で10%〜20%も急に減らし始めているのだ。その結果として総販売部数がマイナス成長に陥った雑誌も増えてきている。この流れを阻止するためにも、デジタル版の販売部数を増やすことが急務となっている。

 そこで、デジタル版販売で際立った動きを示す事例を2つ紹介する。
まず、デジタル版の購読者数ランキング(トップ25)でトップを独走する「Game Informer」を見ておこう。ビデオゲーム誌であるが、そのデジタル版の販売部数が約300万部と、2位と10倍以上の差をつけてダントツのトップを走っている。さらに驚くべきことに、この1年間でデジタル版の販売部数を175万部も一気に積み上げたのだ。

Gameinformer2013.png

 Game Informerはビデオゲームのレビューなどをカバーする雑誌で、総販売部数が約800万部の人気ゲームユーザー誌となっている。この雑誌のオーナーは、ビデオゲーム関連商品を販売しているGameStopである。そこでGameStopは、雑誌の年間購読と特典カード( PowerUp Rewards Pro Card)をバンドルした形のサービスを提供している。年間14.99ドルを支払ったユーザーは、デジタル版かプリント版のどちらかのGame Informerを年間購読できるとともに、特典カードでGameStopが販売する商品を割引きで購入できたり、ボーナスポイントや特別サービスを受けられる。GameStopとしては特典カード保有者を多く確保することが重要で、雑誌はデジタル版でもプリント版でもどっちでも構わない。ただプリント版はコストが余分にかかるので、デジタル版にシフトさせたいだろう。ユーザーも若年層が多いし、新作ゲームのレビューを早く読めるデジタル版を選ぶ人が多くなっている。その雑誌の選択では(プリント版+デジタル版)購読を用意しないで、どちらか一方だけを選ばさせている。この1年間でデジタル版読者が175万人増えたのも当然で、プリント版からデジタル版に移った読者が数多く含まれているはずだ。

 大手出版社のコンデナスト(Condé Nast)がアマゾンと手を組んで、デジタル版を含む雑誌の定期購読サービスを一括してアマゾンサイトで始めており、これも見逃せない動きである。アマゾンがプリント版とデジタル版をまとめて管理できたのも、プリント版雑誌を販売している実績が効いたのだろう。まずコンデナストの主要雑誌7誌(Vanity Fair, Vogue, Wired, Lucky, Glamour, Golf Digest , Bon Appetit)を対象にしており、それらの定期購読サービスの新規申し込みや更改を、読者はアマゾンサイトだけで行える。すでに同サイトでは、各7誌の新規定期購読の割引キャンペーンを実施中である。

 例えばVogueは、初回の新規購読者に対してAll Access(プリント版+デジタル版)の半年間定期購読サービスを6ドルで提供している。プリント版あるいはデジタル版の年間定期購読料が19.99ドルなので、かなりの割引キャンペーンである。

VogueAmazon201308.png

 ところで、米国の伝統雑誌は、まだまだプリント版の広告売上に頼っている。頭打ち傾向を示しているが、米国の新聞や日本の雑誌のプリント広告売上のようには急落していない。コンデナストのいくつかの雑誌の今年9月号の広告ページ数と前年同月比を見ても、
・ Vogue: 665 pages, up 1 percent
・ Vanity Fair: 234 pages, up 5 percent
・ Glamour: 224 pages, up 18 percent 
となっており、踏ん張っている。

 踏ん張れているのも、定期購読者数を減らさないで済んでいるためだ。Vogueと Vanity Fairはそれぞれ、97万7025部と96万4788部と、ともに前年比2%も増やしている。ところが先に述べたように、ニューススタンドなどでの一部売りは大きく減り始めており、落とし穴になりつつある。ニューススタンド売り部数が比較的多いVogue 、 Vanity FairそれにGlamourの一部売り部数が、それぞれ前年に比べてそれぞれ10.4%、11%、28.8%も減らしている。そこでコンデナストとしては、集客力と販売力を誇るアマゾンと組んで、定期購読者数を確保していきたい。ニューススタンドで時々購入していた若い読者を定期購読者に向かせるためにも、またプリント版との組み合わせで割安感を与えるためにも、デジタル版の役割が大きい。今後アマゾンサイトでは、更改時割引や複数雑誌の定期購読割引などのキャンペーンを仕掛けてきそうだ。

◇参考
・Magazine Newsstand Sales Plummet, but Digital Editions Thrive(NYTimes.com)
・The Top 25 U.S. Consumer Magazines for June 2013(Alliance for Audited Media)
・MPA Issues Statement on AAM First Half 2013 Snapshot(MPA)
・Why Magazine iPad Subscription Numbers Are Worse Than You Thought(AdAge)
・People are starting to read fashion magazines online(StyleList)
・'New York' magazine and 'The New Yorker' buck downward newsstand trend with stronger digital sales(Capital)
・Vogue‘s September Issue Will Be Its Biggest Since the Recession(Fashionista)
・Conde Nast Begins Outsourcing Subscriptions to Amazon(Mashable)
・iPad Readers Guaranteed First Access to Hearst Magazines(Mashable)
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2013年08月23日

英エコノミスト誌のデジタル版、グローバル市場で順調に離陸

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 先進国の伝統雑誌は、プリント版の読者離れと広告売上減が進み、苦戦を強いられている。その逆風の中にあって、英エコノミスト(The Economist)が善戦している。

 同雑誌のグローバルでの総販売部数(プリント版+デジタル版)は毎年、下のグラフのように順調に増え続けている(年次レポートから)。

EconomistGlobalCirc2013.png

 一つ前のブログ記事で紹介したように、昨年ころから一斉に英国の雑誌もモバイル端末向けにデジタル版を販売し始めている。事実上ゼロからのスタートなのでデジタル版の販売部数は急成長しているように見えるが、多くの雑誌ではプリント版の落ち込みを補えていないのが現状である。つまり、販売部数(プリント版+デジタル版)をジワジワ減らし続けている。

 ところがエコノミストは、プリント版の販売部数の落ち込み分以上に、デジタル版の販売部数を増やしてきているのだ。英Professional Publishers Association (PPA)が公表したエコノミストの発行部数(プリント版+デジタル版、プリント版、デジタル版)を次に示す。北米市場以外の、4つの地域向け雑誌の実績である。いずれもデジタル版の販売部数を前年に比べ50%前後増やしている。いずれの地域でもプリント版売上部数は減らしているが、部数の多い英国やアジア・パシフィック地域では、デジタル版の立ち上がりのお蔭で総販売部数を減らせないで済んでいる。

UKPrintDigital2013.png

 最大の北米市場でも、プリント版の販売部数が減ったものの、その減った分以上の販売部数をデジタル版で稼ぎ、総販売部数を92万2552部から93万8696部へと2%増やした。ちなみに北米の読者の78%が有料のデジタル版を購入している。読者の54%はプリント版+デジタル版を選び、24%はデジタル版のみを選び、そしてプリント版だけに頼っているのは22%の少数派になっている。デジタルシフトが着実に進んでいる。

  参考までに、米国市場で展開している初回割引キャンペーンを。
EconomistUSPrintDigitalSubscription.png


◇参考
・Digital magazines: how popular are they?(Guardian)
・THE ECONOMIST: THRIVING IN THE AGE OF DIGITAL MEDIA( CKGSB Knowledge)
・Pearson jumps despite mixed bag of results(Interactive Investor)
・The Economist Group reports record profits and record circulation for The Economist boosted by the take-up of digital editions(PRNewswire)
・Annual report 2013 of The Economist Group
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2013年08月22日

英国のデジタル雑誌、販売部数が1万部を突破した雑誌は6タイトル

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 iPadなどのタブレット端末の普及に伴い、デジタル雑誌も本格的な離陸の時期を迎えているのではなかろうか。ちょうど英国や米国で、デジタル雑誌の販売実績が出てきたので追ってみた。

 まず、英国から。先週末に、Professional Publishers Association (PPA) から英国で販売されている主要雑誌の発行部数(プリント版+デジタル版、プリント版、デジタル版)が公表された(ABC Combined Circulation Chart - PPA)。2013年1月から2013年6月までの期間のABC考査データである。

 英国は英語圏なので、米国の多くの雑誌が進出しているのが特徴である。逆に、The Economistのように米国市場を中心にグローバル展開している雑誌も目立つ。BBCから多くの雑誌が発行されているのも特徴と言える。

 総販売部数(プリント版+デジタル版)、デジタル版販売部数、デジタル版販売比率のそれぞれについて、Guardianがトップ15雑誌を以下のようにグラフ表示していた。また同サイトからembedできるようになっていたので、それも張り付けておく。拡大したグラフはそちらで。

MagazineDigitalUK2013.png



 デジタル版の販売部数が1万部を超えた雑誌は6タイトルだけであった。Conde Nast社のGQが1万2331部、Hearst-Rodale社のMen's Healthが1万2018部と、米国出版社の雑誌が目についた。総販売部数のうちデジタル版の占める割合が10%を超える雑誌はわずか4タイトルだけであった。ほとんどの雑誌はデジタル版割合が数%以下である。まだまだプリント(紙)版が中心である。米英では定期購読すれば安価に雑誌を送ってもらえるため、惰性で紙雑誌を購入し続けている読者が多いようだが、やはり紙離れが目立ってきた。プリント版雑誌の販売部数を1年前に比べ5%以上減らしている雑誌が目白押しである。デジタル版を販売しているかどうかに関係なしに、プリント版が長期低落する流れを止めるのは厳しい。総販売部数を維持していくためには、プリント版の減る分以上にデジタル版で補わなければならないのだ。

 これまで新しモノ好きの男性読者が主にデジタル雑誌に手を出していたが、女性読者も増え始めている。Vanity Fairはデジタル版を前年比+33.1%の8308部と増やした。しかしプリント版が同9.58%減と大きく落ち込んだため、総販売部数が9万6685部と同9.58減になってしまった。またVogueはデジタル版を同463%増の7601部と急伸させたが、プリント版が同5.57%減となったため、総販売部数は約20万部と前年より2.8%減らした。さらに英国でも人気のCosmopolitanにいたっては、デジタル版が9894部と同25.6%減のブレーキがかかり、プリント版も同15.4%減と不振であったため、総販売部数が同15.4%減の約31万部に急落した。

 デジタル版が伝統雑誌の救世主になるかどうか、前途は厳しそう。

◇参考
・Digital magazines: how popular are they?(Guardian)
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posted by 田中善一郎 at 15:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年07月20日

米国の雑誌広告もマイナス成長が続く、それでも2ケタ成長の元気な雑誌も健在

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  米国の雑誌広告が減り続けている。米雑誌協会(MPA:The Association of Magazine Media)の発表データによると、今年上半期のコンシューマー雑誌の総広告ページ数は約700万ページで、前年同期比で4.9%減となった。また第2四半期では前年同期比で4.5%減であった。

 USMagAdRevPage.png

 広告ページ数の成長率(前年同期比)の推移を四半期単位で見ると次のようになる。米国の新聞紙広告ほどひどくはないが、雑誌広告もマイナス成長から抜け出せない。広告状況を主に広告ページ数で比較するのは、客観データが集めやすいこともあるが、雑誌の勢いが広告量の増減で感じとれるからか。分厚い雑誌のほうが読者の受けもよい。

AdPageUSMag.png


 雑誌全体で見れば広告ページ数が減り続けているのだが、雑誌タイトル別にみると2ケタ成長を達成している元気な雑誌も見かける。雑誌は新聞と違って編集企画の自由度が高い。それだけに編集長や編集スタッフの企画力によって雑誌の勢いが短期間によみがえったり、それを反映して広告が増える雑誌が現れても不思議ではない。以下に示すように、ヘルス/ウエルネス分野やフード分野のいくつかの雑誌は,今年上期の広告ページ数が前年同期に比で20%を超える成長率を示していた。

◇Health and Wellness
Men's Fitness (36.1%), Women's Health (26.9%), Men's Health (24.8%)
◇Food
Eating Well (46.5%), Bon Appetit (25.0%), Food Network Magazine (15.4%)

 これ以外にも成長雑誌として次の3誌が目についた。
Details (18.9%),
Harper's Bazaar (19.3%),
Prevention (14.3%)

DETAILSBAZAARPREVENTION2013.png

 この上の3誌と広告売上トップ3誌について、上期(2013年と2012年)の広告売上高と広告ページ数を掲げておく。

USMagAd2013H1.png

 参考までに、注目3誌の概要を。 DETAISはCondé Nastが発行する月刊の男性誌。ファッションやライフスタイルの記事が中心でるが、社会問題や政治問題も取り上げる。発行部数は約45万部。雑誌(プリント版)の年間定期購読料は9.99ドル。5ドル追加すると、タブレット版も年間購読できる。

 Harper’s Bazaar はHearst社が発行する女性ファッション誌(月刊誌)。146年の歴史を誇る老舗雑誌である。世界26カ国で発行している。日本語版は休刊したが、ハースト婦人画報社から2013年9月にも復活創刊される予定。発行部数は約1年前で73万部くらい。米国での年間定期購読料は10ドルで、3年間契約となると20ドルで済む。

 Preventionは、Rodale社が発行するヘルス/ウエルネス誌。カバー分野はHealth、Weight Loss、Fitness、Sex、Mind-Body、Food、Beautyなど。Rodale社は、広告ページ数が前年同期比で25%前後も増えたWomen's HealthとMen's Healthも発行している。

 トップ3誌の広告ページ数は頭打ち傾向にある。それでもPeopleは広告売上高で数%の伸びを示しており、年間で10億ドル、つまり1000億円も稼いでいる.



◇参考
・Magazine Media Brands See Advertising, Readership Growth During the First Half of 2013 (MPA)
・Ad Pages Fall 4.9 Percent in the First Half(Folio)
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posted by 田中善一郎 at 23:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年07月03日

日本人は本をあまり読まない国民になっているのか

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 1週間当たり読書に費やする平均時間。インド人が10時間42分、タイ人が9時間24分、中国人が8時間、フィリピン人が7時間36分、エジプト人が7時間30分・・・。それに比べ日本人は4時間6分と少い。これは、NOP Worldが世界3万人(31か国)を対象に調査した「World Culture Score Index」の結果である。

ReadersaroundtheWorld2013.png
(図のソース: Russia Beyond The Headlines)


 日本には刺激っぽいメディアサービスに溢れているから、本なんか読んでいられないのかな。本屋に行けば、目立つ場所には自己啓発書とかコミックが平積みされており、さっと読める本が幅を利かしている。電車の中でも、数年前までは本を読む乗客を見かけたが、いまではスマホでゲームを興じたり、メールやチャットでやり取りする人がほとんどだ。本の世界でも、日本は特異なメディア環境にあるのかな。

 今年のWorld Culture Score Indexでも31か国を対象に、テレビ、ラジオ、コンピューター/インターネットの週間接触時間を調べた。コンピューター/インターネットの利用時間には仕事用途を省いているが、それにしても日本人の利用時間が少なすぎるのは、接触端末としてスマホなどのケータイを含んでいないためか。

ReadersaroundtheWorld2013a.png
(ソース:World Culture Score Index)

◇参考
・NOP World Culture Score(TM) Index Examines Global Media Habits... Uncovers Who's Tuning In, Logging On and Hitting the Books(プレスリリース)
・Hours spent reading books around the world(LATimes)
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2013年04月24日

自己出版の電子書籍がベストセラー書籍のトップへ

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 先ほど、NYタイムズのベストセラー・ページを覗くと、以下のようにフィクション部門(プリント+電子)のトップに「The Bet」が選ばれていた。注目すべきは、自己出版の電子書籍であることだ。6位にランクされていた「Damaged」も自己出版の電子書籍である。電子書籍(E-Book Fiction)だけのランキングでは、それぞれ1位と3位になっている。

EbookNYT20130421a.png


 アマゾンのKindle Store(電子書籍)のランキングでは、「Damaged」が1位で「The Bet」が2位に輝いていた。

EbookKindle201304.png

 Digital Book Worldが毎週、公表しているベストセラー・トップ25でも、同じく「Damaged」が1位に「The Bet」が2位にランキングされている。電子書籍市場では、出版社に頼らない自己出版書籍が勢いを増しているのだ。


Ebookdbw20130421.png
(ソース:Digital Book World)

 また、こうした自己出版の電子書籍の特徴は、価格が非常に安価であることだ。「Damaged」も「The Bet」も現在の価格が0.99ドルになっている。自己出版の台頭は、電子書籍全体の価格競争をますます激しくしそう。さらに昨年、電子書籍の価格設定で独禁法に抵触させないようにとの米司法省からの動きもあって、電子書店側が価格を自由に設定できるようになってきていた。アマゾンはじわじわと電子書籍の価格を戦略的に下げていこうとしているようだ。週次のベストセラー電子書籍の平均価格の推移を、昨年8月から今年4月までをプロットしたのが次のグラフである。

EbookPricedbw201304.png
(ソース:Digital Book World)

 電子書籍分野で自己出版が台風の目になっている。電子書籍のベストセラーの上位に、自己出版書籍が顔を出すのは当たり前になってきている。一部作家の中には自己出版に切り替える動きもあり、さらに出版社と自己出版をうまく使い分けようとする作家も出てきている。

 自己出版の場合は、価格設定にも自由度が高い。たとえば上の「Damaged」の作家である H.M. Ward氏は、4月2日から同書籍を3.99ドルで販売し、Kindle Storeのベストセラーランキングでも姿を現すようになっきた。それからランキングのトップに立ちたいとタイミングを見計らって価格を0.99ドルに値下げすると、思惑通りたくさん売れて現在、トップに躍り出た。これまで15万部以上を売ったという。


◇参考
・Self-Published Ebooks Are Nos. 1 and 2 Best-Sellers, Average Price Drops to All-Time Low(dbw)
・The Ebook Pricing Sweet Spot(dbw)
・Analyst: Amazon Will Lower Kindle E-Book Prices Slowly, Strategically(dbw)
・Thrifty Thursday - Bargain Books April 10, 2013(A Love Affair With Books )
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posted by 田中善一郎 at 15:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年04月08日

米国の電子書籍が激しい価格競争に、値下げが続いた後に反発も

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 米国の電子書籍市場は激しい価格競争が繰り広げられている。ベストセラーの電子書籍の平均売価は、昨年10月に12ドル近いピークに登りつめた後、下降線を辿り続け2週前には7.40ドルまで下落した。それが先週には7.84ドル、今週には8.26ドルと、2週連続して価格上昇に転じている。

 週次のベストセラー電子書籍の平均価格の推移を、昨年8月から今年3月までをプロットしたのが次のグラフである。Digital Book Worldが毎週、公表しているベストセラー・トップ25の電子書籍の平均売価を示している。

EbookUSPrice2013a.jpg

 大ざっぱなトレンドとしては、昨年の秋ごろから、米国の電子書籍の価格が大きく下落してきていると言えそう。でも幾つかの高額のベストセラー電子書籍が昨年の夏に登場したこともあって、秋にかけて平均売価が一時押し上げられ、昨年10月には12ドル近くまで跳ね上がった。だがその後、年末のホリデーシーズンに向けて激しい価格競争に突入し、逆に一本調子で値下がった。年末商戦後には落ち着きを戻し、電子書籍の価格はほぼフラットになってきていた。ところがこの2週間、久々に連続して上昇したのだが、価格の反転が本物かどうかが、気になる。

 大手出版社は電子書籍の価格戦略について、電子書店との綱引きもあって、必ずしも確定しているわけではない。欧米の大手出版社は米アップルとエージェントモデルで契約し、30%の手数料を払う代わりに電子書籍の価格決定権を得ることで進めようとしていた。これは、安値攻勢を仕掛けようとするアマゾンへの抵抗でもあった。ところが昨年の春先に、米司法省がアップルと欧米大手出版社に対し、独禁法の疑いがあるとして提訴した。出版社が電子書籍の販売価格をつり上げて、アマゾンの安値販売を妨害していると見られたのだ。そして、大手出版社は司法省と和解し、アマゾンなどの電子書店が価格を自由に設定できるようになってきた。

 以下のグラフに示した矢印のように、
@ HarperCollins がアマゾンとの契約で、価格値下げを実施
A Hachetteと Simon & Schusterが同じく価格値下げを実施
B Macmillan も価格値下げを実施

EbookUSPrice2013b.jpg

  電子書店の間の競争も厳しくなっており、客寄せのために、タダ同然の激安商品を並べたりしている。また、ランダムハウスとペンギングループの合併も、司法省や欧州委員会から承認され、世界最大の出版社が誕生することになった。おそらく世界最大の電子出版社にもなるはずで、電子書籍の値下げに圧力がかかりそう。 

◇参考
・Ebook Prices on the Rise Again?(dbw)
・Discounting Begins for Macmillan Ebooks(dbw)
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posted by 田中善一郎 at 01:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2013年01月18日

米大手雑誌のハースト、「コスモポリタン」などの有力誌のiPad版を紙版よりも先行発売へ

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 米国のメディア・コングロマリットであるハースト・コーポレーション (Hearst Corporation) は、同社発行の有力誌のiPad版(電子雑誌)を紙雑誌より先立って発売することになった。

  Cosmopolitan, Food Network Magazine, Car & Driver, Popular Mechanics, Road & Track, Esquire ,Good Housekeepingなどの雑誌のiPad版を、紙の雑誌よりも一足先に読者が閲覧できるようになる。

HearstiPadMazine.jpg

 同社発行雑誌の電子(デジタル)版の定期購読者数は 2012年末で約80万人に達したという。でも雑誌のデジタル化シフトは遅れている。米国雑誌のデジタル版購読の割合は2%程度と見られており、書籍に比べて雑誌のデジタル化は鈍い。デジタル化を推し進めるために、アップルはハーストのようにデジタル版の先行発売を他の雑誌社にも勧めているようだ。

◇参考
・Hearst begins shipping magazines on Apple's Newsstand before anywhere else (The Next Web)
・Magazines Sell More Digital Copies But Tumble Again at Newsstands(AdAge)
・Hearst's Carey on Missing its Prediction for 1 Million Digital Subscriptions(AdAge)
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posted by 田中善一郎 at 22:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2012年12月03日

中国のベストセラー本、海外作家部門で村上、東野、黒柳、稲盛がベスト10に

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  中国でも村上春樹氏や東野圭吾氏などの日本人作家の人気は高い。2012年の中国国内でのベストセラー本(印税ランキング)が発表されたが、海外作家部門のトップ10に4人が選ばれた。 

  トップ15の作家(印税、書籍)は次のようになった。
The 2012 Foreign Writers Rich List, ranked according to royalties earned in China.
BestsellerBookChina2012.jpg
(ソース:ChinaDaily)

 トップ10に、村上春樹氏の『1Q84』、東野圭吾氏の『白夜行』、黒柳徹子氏の『窓ぎわのトットちゃん』、稲盛和夫氏の『生き方』が入っている。これらの作品は日本ではかなり昔の作品であるが、中国でも数年前から販売されているものが少なくない。中国市場ではベストセラー作品が上位に選ばれ続ける期間も比較的長いようだ。5位の『1Q84』は昨年度は4位、6位の『白夜行』は同5位、8位の『窓ぎわのトットちゃん』は同7位であった。それぞれランクを一つ落としたのは、今年9月の反日運動で北京市当局によって、日本関連の書籍が書店から撤去させられたのが響いたのかもしれない。また12位にはたかぎなおこ(中国では高木直子)氏が選ばれている。今年度の印税額は、『1Q84』が約300万元(約3960円)、『生き方』が約150万元(約1980円)となる。

 発行部数は累積ではいずれも100万部を超えているはず。中国語版『1Q84』が発行された2010年でも100万部を突破したと言われている。ピークを超えたかもしれないが、今年も日本人作家の作品ではトップになっている。また稲盛氏やたかぎ氏の作品はシリーズで中国語版が出ており、いずれも100万部を超えているようだ。稲盛氏の公式サイトでも、『生き方』(中国語タイトルは活法)が100万部突破したと公表している。ちなみに同氏の公式サイトは中国語版も用意されている。中国の多くの経営者の間で、松下幸之助氏や稲盛氏の書籍の人気が高いことを聞いたことがあるが、本当なんだ。たかぎなおこ氏のエッセイシリーズも人気が高く、100万部突破の帯が付いているから、来年にはトップ10入りかも。

 中国のアマゾンにおける稲盛氏とたかぎ氏のそれぞれの作品掲載例を以下に。

ChinaBookInamori.jpg

ChinaBookTakagi.jpg

◇参考
・Top 10 most popular foreign writers in China(People's Daily Online)
・2012.6.7 書籍『生き方』中国語版の発行部数が100万部を突破(京セラ)
・Most popular foreign writers in China revealed(China Daily)
・Murakami’s 1Q84 simplified Chinese version to be published in May(Global Times)
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2012年11月08日

ペンギンとランダム・ハウスの合併、抜きんでた巨大電子書籍出版社が誕生

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 英ペンギン(Penguin)と米ランダム・ハウス(Random House)が来年後半に合併し、世界最大クラスの出版社が生まれることになっている。狙いとして、急拡大する電子書籍事業を強化することがある。

 ペンギンとランダム・ハウスの両出版大手は、すでに電子書籍市場で大きく先行している。Digital Book World(dbw)から毎週公表される電子書籍ベストセラー・リストを見れば明らかだ。上位にランクされる電子書籍の多くがペンギンとランダムハウスから発行されている。

 電子書籍の週間ベストセラー・ランキング(トップ25)が今年8月中旬からdbwより発表されている。これまでの11週のベストセラー・リストに登場した電子書籍数を、出版社別に示したのが次の表である。ランダム・ハウスの電子書籍は85回も選ばれていた。そのうち5回はトップ1になっている。ペンギンの電子書籍は62回選ばれ、トップベストセラーに6回も輝いている。電子書籍市場で抜きんでた2社が合併するのだ。 

*Ebook Publisher Power Rankings
BestSellingEbook201209.jpg
(ソース: F+W Media, Inc. Digital Book World)

 次は、11週間の電子書籍タイトルの総合ランキングである。毎週のランキングで1位の書籍タイトルに25ポイント、2位に24ポイント、・・25位に1ポイントを付与していき、11週に渡ってポイント数の多い順にランキングした電子書籍タイトルである。上位に、ランダムハウスとペンギンの電子書籍が占めている。

*Best of the Best-Selling Ebooks: Aug. – Oct.
BestSellingEbook201208to10.jpg
(ソース: F+W Media, Inc. Digital Book World)

 電子書籍出版でトップを競っていた大手出版2社のペアが、電子書籍流通を支配しようとするアマゾンなどと、どのような綱引きを展開していくかが興味深い。 

◇参考
・Ebook Publisher Power Rankings: Random and Penguin on Top(dbw)
・Children’s Digital Continues to Surge as Overall E-Book Growth Slows in May(dbw)
・E-Books and Fifty Shades Drive Random House to Record Profits(dbw)
・Best of the Best-Selling Ebooks: Aug. – Oct.(dbw)
・Penguin and Random House Combine to Form World’s Largest Book Publisher(dbw)
・Penguin, Random House Merge to Focus on Digital Publishing(Small Business Trends)
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posted by 田中善一郎 at 00:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2012年10月19日

約80年続いた老舗雑誌「Newsweek」が紙の雑誌を廃止、来年からはデジタル版だけで

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 Newsweekの紙の雑誌が今年末に消えることになった。ニュース週刊誌として79年の歴史を誇るNewsweekが、プリント版の発行を止めることになった。米国では今年12月31日号がプリント版(紙の雑誌)の最後になる予定。来年からはタブレットなど向けのデジタル版だけとなる。

NewsweekStopPrint.jpg

 休刊することになった紙のNewsweek誌は、2001年に3,158,480人の定期購読者数を誇っていたのが、今年6月には約半分の 1,527,157人へと激減、年間4000万ドルの赤字を垂れ流している。 

 来年(2013年)からはデジタルだけのNewsweek Globalを世界共通編集版として発行する予定。主にタブレットなどのモバイル端末向けをターゲットとし、有料の定期購読サービスになりそう。

 英国の有力新聞Guardianも、紙の新聞を止めてデジタル版だけにすべきかどうかの検討に入っている。来年はプリント版を廃止し、デジタルオンリーにシフトする雑誌や新聞が増えそう。

 爆発的に増えているタブレットやスマートフォンのモバイルユーザーも、デジタル版の新聞や雑誌を手持ちのモバイル端末で読み始めつつある。以下のcomScoreの調査でも、タブレットユーザーの4割近くもが既に、所有タブレットで新聞や雑誌を1ヶ月の間に読んだことがあるという。

NewspaperMagazineTabletcomScore.jpg


◇参考
・Newsweek Owner Says Magazine Will Eventually Shift Online(Bloomberg)
・Newsweek to Cease Print Publication at End of Year(Media Decorder)
・Tablets Reinvent Americans’ Relationship with Print(comScore)
・Guardian 'seriously discussing' end to print edition(The Telegraph)
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posted by 田中善一郎 at 01:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
2012年09月19日

英国でも電子書籍の価格競争、アマゾンやソニーが97%割引の激安書籍で客寄せを

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 客寄せのために、タダ同然の激安商品を並べる。

 電子書籍もそのようになってきたのか。デジタルなので増刷してもタダ同然であるのだが・・・。1週間ほど前のブログ記事で、「アマゾン対アップル、電子書籍の値下げ競争に突入」と価格競争に入ったことを紹介していたが、英国にも飛び火したようだ。

 英国のアマゾン書店における電子書籍のベストセラーは次の通り。97%前後も割り引いた、20ペンスの激安の電子書籍がズラリと並ぶ。激安だからベストセラーになったのだが。

EbookEnglandAmazon201209a.jpg


 ソニーの電子書店も負けじと、0.2ポンド(20ペンス)の激安書籍が並んでいた。
EbookEnglandSony20120918.jpg


 アマゾン書店でベストセラーとなっていた「Ash」(James Herbert著)は20ペンス(0.2ポンド)で売られていたが、ソニー書店でも以下のように同じく20ペンスに割り引かれていた。

AshSonyEbook20120918.jpg


 ところが、アップルのiTunesでは9.49ポンドと、リスト価格(11.99ポンド)と変わらない値付けのままになっていた。50倍近くも高いことになる。これはあくまで現時点の価格で、アップルも追随せざるえないのではなかろうか。

AshApple20120918.jpg

 客寄せのためといっても、荒っぽい売り方だが。でも、紙の時代にほとんど売れなくて見捨てられていた作家の書籍も、激安にしたお陰で多くの人に読まれてベストセラー作家になる道が開かれるかもしれない。ちなみに「Ash」は2012年8月30日発行の新刊書である。

◇参考
・Ebook price war sees discounts reach 97%(Guardian)
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posted by 田中善一郎 at 01:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
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