セレブ雑誌のナンバーワンと言えば、タイム社の「People」誌。そしてセレブ雑誌が今競って追っている話題が、23日に発表になったタイガー・ウッズの離婚話。早速、別れるエリン夫人の独占インタビュー記事(総計19時間のインタビュー)が、「People」誌の今週末発行号のカバーストーリーに。そして、その号の電子雑誌がiPadでも読むことができるようになった。
「People」のiPad向け電子雑誌が、先週末から発行され始めていたからだ。紙のPeople誌は、発行部数が約360万部で、売上が約15億ドル(広告売上は約10億ドルで、販売売上が約5億ドル)という、とてつもなく巨大な雑誌である(一雑誌だけで日本のトップクラス出版社の総売上高に近い)。世界でもトップの売上高を誇る雑誌Peopleまでが、iPadアプリの電子雑誌としても毎号発行されることになったのだ。
その時に注目されたのが、電子版Peopleの販売価格である。実は、発行元のTime社とiPadのAppleとの間で、電子雑誌の販売を巡って激しい綱引きが始まっていた。Time社だけではなくて、米国の多くの雑誌社にとっても、これからの電子雑誌ビジネスを大きく左右する問題が顕在化していたのである。
米国の雑誌の特徴として、大部数を確保するために予約の定期購読(サブスクリプション)に力を入れていることがある。このため定期購読の場合の一部当たり価格を、ニューススタンドでの一部売りに比べ、大幅に値引する場合が多い。例えば、週刊ニュース誌のTime誌の場合、ニューススタンドでの一部売り価格が4.99ドルに対し、年間購読を予約すると一部あたり0.36ドルと大幅に割り引かれる。大部数を確保して、広告売上を増やすことが米雑誌の基本的なビジネスモデルであるからだ。
ところで、AppStoreでのアプリ販売では一部売りを前提にしている。そのため、電子雑誌の各号にiPadアプリを用意してダウンロード販売を行ってきている。そのiPadアプリの価格を、ニューススタンドにおける紙の雑誌の一部売り価格と同じに設定している場合が多い。Time誌の電子雑誌も4.99ドルである。定期購読で安く雑誌を入手するのに慣れきっている米国人からは、電子雑誌が高価と見られているようだ。ともかく電子雑誌(iPadアプリ)の購読者の評価は厳しく、大半が高すぎると不満を募らせている。
そこでTime社としては、電子雑誌にも定期購読サービスを導入したい。同社は動いた。「Sports Illustrated」のiPadアプリの定期購読版を先々月に立ち上げた。購読者はAppleのiTuneを介して電子雑誌(iPadアプリ)をダウンロードできる。ただし、定期購読料はTime社に直接支払う。ところがApp StoreではApple以外のサードパーティーが課金することを認めていない。課金を中抜きされたAppleは当然のごとく、定期購読できるiPadアプリを認めなかった。そしてTime社に対してiTuneで一部売りだけを許したのである。
米国の多くの雑誌社にとっては、定期購読者の情報は宝である。定期購読者を囲い込み、自分たちのデータベースで管理することにより、安定した売上を継続させていきたい。特に定期購読者の個人情報は、雑誌広告営業の武器にもなっており、外には出せない。
一方でAppleのビジネスモデルでは、電子雑誌(iPadアプリやiPhoneアプリ)の課金を含む販売代理すべてをAppStoreで実施し、その電子雑誌の販売価格の30%を手数料として雑誌社から徴収することになっている。一部売りの場合は雑誌社も従わざるえないかもしれないが、定期購読の場合はAppleのビジネスモデルに従いたくない。定期購読者の貴重な個人情報がAppleに握られてしまうことになるからだ。米国の雑誌社にとっては、定期購読の読者管理を自分たちの手で進めたい。
「Sports Illustrated」の定期購読の件でAppleともめていたこともあって、Timeが「People」 のiPad向け電子雑誌をどう販売していくかが注目されていた。基本的には他の電子雑誌と同じく、号単位のiPadアプリがiTunes AppStoreで売られことになった。ニューススタンドでのPeople誌と同じ価格の3.99ドルで一部売りされる。また今回も、AppStoreでのiPadアプリの定期購読は実現しなかった。だが、既存の紙のPeople誌の定期購読者に対しては、号単位の電子雑誌(iPadアプリ)を無料でダウンロードできるようにした。現行の雑誌定期購読者は、AppStoreで自分の定期購読番号を入力するとTime社のサーバーで確認されて、iPadアプリを無料でダウンロードできるのだ。これまでなら、雑誌の定期購読者が電子雑誌を閲読したい場合、3.99ドルを払うほかなかった。Appleが譲歩した形となっている。このモデルなら、雑誌社が死守したい定期購読者の情報を自分たちで管理できる。
ただし、Peopleのサイトの
Q&Aで、
Q:Can I buy a subscription only for the iPad?
A:At this time the only way you can subscribe to the iPad edition is by being a current subscriber to the print magazine.
となっているように、
iPad向け電子雑誌だけを定期購読したい場合でも、紙の定期購読を申し込まなければならない。紙の資源の無駄使いで、しっくりしない話だが・・・。
この、雑誌定期購読者に電子雑誌(iPadアプリ)を無料提供する販売モデルを、Time社発行の「Sports Illustrated」、「TIME」、「FORTUNE」でも採用していく。
◇参考
・
Figuring out magazine subscriptions in the iPad age(ars technica)
・
PEOPLE magazine iPadR App FAQ( www.people.com)
・
Time Inc. breaks the iPad logjam(Appl2.0)
・
Apple and Time Agree On Free iPad Magazines For Paid Print Customers [Apple Backs Down, Finally Allows Magazine Publishers To Give Free Virtual Copies To 'Real Life' Customers](TFTS)
・
Time Inc.’s iPad Problem Is Trouble for Every Magazine Publisher (MediaMemo)
・
米Time誌のiPad版は号あたり4.99ドル、Kindle版の5倍以上の値付けに(メディア・パブ)
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posted by 田中善一郎 at 23:45
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