曲がり角を迎えているNYタイムズに異変が二つ。
ひとつは,平日版の発行部数が100万部の大台を割ったこと。ABC(Audit Bureau of Circulations)の調査で,09年4月〜9月のNYT紙(平日版)の平均発行部数が前年同期比7.3%減の92万7851部と,大幅に減少した。THE AVLが過去20年間の発行部数を,以下のようにプロットしている。無料のNYTimes.comがあれだけ充実しておれば,もうNYT紙の部数が100万台に復帰することはありえないのでは。
*NYT紙(平日版)の発行部数の推移(ソース:THE AVL)
もう一つは,NYT社の第3四半期決算で明らかになったのだが,NYタイムズ(新聞などのメディアグループ)の販売売上が広告売上を上回ったことである。これまでの米新聞社の売上比率は,広告が8割で販売が2割くらいであった。広告売上に大きく依存していたのだ。ところが新聞紙広告売上の激減に伴い,ついに広告売上が販売売上より下回ることになってきた。
*New York Times Media Groupの売上の内訳(単位:1000ドル)
この二つの異変は,新聞紙広告収入に頼ったこれまでの米新聞社のビジネスモデルが崩壊していく動きを象徴している。
ついでなので,先週公表されたNYT社の第3四半期決算から,NYTの現状を見ておこう。
*NYT(The New York Times Company) の2009年7-9月期決算(単位:1000ドル)
NYT社全体の売上では,まだ広告売上が販売売上より多いが,来年あたりに逆転しそう。販売売上がプラスになっているのは,新聞紙購読料を値上げしたため。
*NYT社の広告売上,販売売上,その他売上の推移(09年は第3四半期まで)。単位:1000ドル
*NYT社の四半期別総売上と広告売上の伸び率(前年同期比)
*NYT社の四半期別インターネット売上と伸び率(前年同期比):
インターネット売上には新聞サイト以外にAbout.comも含まれている。
2008年に入って以降,四半期単位の各売上の伸び率が連続してマイナス成長に陥り,そのマイナス幅が拡大していた。まさに底なしの状況であったが,09年の第3四半期では,上のグラフのように,マイナス幅の拡大は止まった。底打ち感が出てきたのだが,まだまだマイナス幅の絶対値が大きく危険水域から脱していない。
新聞紙の展望が開けそうもないのでオンラインシフトを進めているのだが,悩ましいのは期待のインターネット広告売上高がなかなかリバウンドしてこないことだ。
09年第3四半期のインターネット広告売上は前年同期比8.2%減の6830万ドルであった。ただしこれには,プラス成長のAbout.comの売上が含まれている。NYtimes.comが中心の新聞サイトの広告売上は3900万ドルに落ち込み,前年同期比で18.5%減と依然厳しい状況が続いている。NYTimes.comがけん引役になるのはいつのことやら。
◇参考
・
The New York Times Company Reports 2009 Third-Quarter Results(NYT,プレスリリース)
・
Times Co. Shows Loss but Beats Forecast(NYTimes.com)
・底なしの広告収入にあえぐアメリカの新聞社の今後,Journalism,no.232,
2009年9月号・
A Graphic History of Newspaper Circulation Over the Last Two Decades(THE AVL)
posted by 田中善一郎 at 14:49
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