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2015年10月29日

爆発的人気を博したバイラルメディアに陰り、一方で伝統メディアは記事のバイラル化に拍車

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 オンラインのニュースメディア市場は変革の嵐が吹き荒れている。バイラル重視で台頭してきた新興メディアの攻勢に、伝統メディアが守勢に回されているのだが・・・。

検索からソーシャルへの流れに乗って、新興ニュースメディアが飛躍

 ほんの数年前までは、米国では新聞や雑誌、テレビ(ケーブル)の伝統メディアが手がけるニュースサイトが圧倒的に優位に立っていた。デジタル版に特化した新興メディア・サイトも成長し続けていたが、まだまだ伝統メディアのサイトを脅かす存在には至らなかった。

 ところがFacebookなどのソーシャル系サイトが浸透するに伴い風向きが変わり、新興のメディアサイトが勢い付いてきた。comScoreの調査結果でも次第に、新興メディアサイトが伝統メディアサイトを月間訪問者数で抜く場面が目立ってきた。そして4年前についに、新興メディアのHuffingtonPost.comが新聞サイト・トップのNYTimes.comを抜き去るという衝撃的な変曲点を迎えた。伝統メディアも新興メディアを競合相手ととして無視できなくなってきたのだ。

 新興メディアが飛躍できた背景として、ユーザーのニュースメディア接触の流れが変わってきたことが見逃せない。かつては、ブックマークやRSSリーダーを用いて、ユーザーがニュースサイトのホームページに直接訪れてくれていた。それが次第に、ポータル/ニュースアグリゲーターや検索エンジン、それにソーシャル系の外部サイトを介してユーザーが訪れることが増えてきた。中でも検索サイトとソーシャルサイトが、ニュースサイトと接する仲介の場として大きな役割を果たしてきている。

 そして最近では、メディア端末のモバイルシフトが追い風となって、ニュースサイトへの流入トラフィックでソーシャルサイトからの割合が一段と増え続けている。米国の主要なニュース/メディア・サイトへのトラフィックを米トラフィック解析会社Parse.lyが調べているが、その結果を見ても、昨年の夏あたりからFacebookからのトラフィックがGoogleサイトからを追い抜いてきている(図1)。つまり、検索サイトよりもソーシャルサイトからの参照トラフィックが主流になってきているのだ。

FBTrafficvsGoogleTrafffic.png
図1 米国ニュース/メディア・サイトへのトラフィック流入元のトップはどこか。FacebookからのトラフィックがGoogleサイトからのトラフィックを追い抜いてきた。Parse.lyが米国の代表的なメディアサイト(400サイト超)を対象に計数した調査より

 ソーシャルサイトからメディアサイトへの流入トラフィックが増えてきているのだが、米国の場合、そのほとんどがFacebookからとなっている。Shareaholicの調査でも、メディアサイトへのソーシャルサイトからの参照トラフィックのうち8割近くをFacebookが占めている。そこで、新興メディアの多くは、Facebook対策に絞って力を入れ始めた。Facebook内で話題になりそう記事、つまり拡散しそうな記事を多発するようになった。そのうちに、HuffingtonPost.comとBuzzFeed.comの2サイトが抜け出し、有力な伝統メディア・サイトを量的(ユニークビジター数やページビュー数)に凌ぐまでの存在になってきた。特にBuzzFeedは、記事のバイラル重視をシステマティックに徹底して貫き、次々と変革をもたらしニュースメディア市場で台風の眼になっていった。

 このBuzzFeedの手法を踏襲して、2〜3年前から数多く出現してきたのが、いわゆるバイラルメディア・サイトである。当初のサイトは、旬の話題を興味深くまとめた記事や、可愛い動物や世界の絶景の写真、お涙ちょうだい話といった、感情的に読みたくなる記事が主流であつた。ほとんどがニュースサイトという代物ではなくて、他愛もないエンターテイメント・サイトであった。ネット上の情報をまとめたリスト記事中心のバイラルメディアだと、少人数でも短期間にサイトを立ち上げることができるため、雨後のタケノコごとく乱立した。中には、20歳の青年が立ち上げたDistractifyのように、わずか1か月間で月間ユニーク数が2000万人を超える離れ業を成し遂げたサイトも現れた。100年以上の歴史を誇る有力新聞のメディアサイトのいくつかを、わずか1カ月間で集客数で上回ったのだから衝撃が走ったのも無理がない。またバイラルメディアのスターとして持てはやされたUpworthy.comでは一時、月間訪問者数が1億人を突破した。

 こうしたバイラルメディアの驚異的な集客効果を見て、ニュースメディアはバイラル化に一段と力を入れだした。新興メディアは当然として、伝統メディアの多くも昨年あたりから本格的にバイラル記事を頻繁に提供し始めていた。そこで、米国におけるバイラルメディア狂騒のピーク時期(2013年後半)から2年近くが経った今、この間に新興ニュースサイトや伝統ニュースサイトのバイラル度がどう変わったきたかを眺めてみた。


バイラルメディアは失速か

 アイルランドのメディア分析会社NewsWhipは、記事のバイラル性の指標としてFacebookのアクティビティーであるInteraction数(=Comment数+Share数+Like数)を用い、各パブリッシャーサイトについて1か月間に投稿した全記事のInteraction総数(図2のTotalFB)をはじき出している。それを基に同社は定期的に、Interaction総数の多いパブリッシャーサイト・ランキングを公表している。図2に、2013年12月版と2015年9月版のそれぞれのランキング表トップ10サイトを掲げた。

FacebookPublisher20132015a.png
図2 Facebookで人気の高い(バイラル性の高い)パブリッシャー。2013年12月と2015年9月のトップ10のパブリッシャー。橙色で囲んだパブリッシャーはバイラルメディアを含む新興メディア。 NewsWhipの調査より

 上の二つのトップ10サイトのInteraction総数(図のTotal Facebook)を比べても明らかに、この2年弱の間に、米パブリッシャーが記事のバイラル化を一段と進めていたことが分かる。平均すればInteraction総数が1.5倍以上に増えた。ところが不思議にも、2013年後半から急浮上していたバイラルメディア・サイトは、逆に勢いを失ってきていたのだ。バイラルメディア・ブームが真っ只中の時(2013年後半以降から2014年前半)には、BuzzFeedやHuffingtonPostを除いても、トップ10内に2〜3サイト前後のバイラルメディア・サイトが常に選ばれていた。それが最近では、トップ10だけではなくてトップ25にも、2年前に大騒ぎしたバイラルメディアの姿が見当たらない。いずれもInteraction総数を大きく減らしているので、Facebookからの参照トラフィックもしぼんでいるに違いない。

 そこでQuantcastのデータをいくつか覗いてみた。やはりバイラルメディアの代表格のUpworthyでも、図3のように月間ユニーク数を激減させていた。

upworthy01510.png
図3 Upworthy.comの月間ユニーク数(グローバル)の推移。Quantcastのデータ

 また、Y世代向けHuffingtonPostとして話題になったElitedailyまでも、この1年間、図4のように月間ユニーク数が減り続けている。 

Elitedaily2015.png
図4 Elitedaily.comの月間ユニーク数(米国)の推移。Quantcastのデータ

 どうもこの1年間で、バイラルメディアのいくつかが失速しているようだ。comScoreが測定したデータでも、多くのバイラルメディアの月間訪問者数が下降線を辿っていた。Upworthy、Viral Nova、Distractify、IJReviewといった有力サイトも揃って今年4月には2000万人台を割っている。

 失速気味になった要因は、過当競争のためだったかもしれないが、似たり寄ったりのバイラル記事が氾濫しユーザーに飽きられてきたせいかもしれない。ただバイラルメディア・ブームが完全に終わったかと言えば、かならずしもそうとは言い切れない。今でも驚異的な月間訪問者数を一気に獲得するバイラルメディアが突如生まれたりしているからだ。例えば今年6月にも、LittleThingsという無名のサイトが、NewsWhipのFacebook人気パブリッシャーランキングで突然6位に現れた。このサイトの月間訪問者数は、comScoreの調査によると、今年の3月から4月までの2か月間で1000万人から3500万人に急増したという。

 このように一発屋的なバイラルメディア・サイトは今後も時々現れそうだが、2年前あたりに登場したようなバイラルメディアは総じて影が薄くなってきた。ただ、バイラルメディア・サイトが培ったバイラル記事制作ノウハウは重宝がられている。そのためViralNovaが新興メディアの Zealot Networksに1億ドルで売却されたり、Elitedailyが新聞系のDaily Mailに5000万ドル売却されたりした。ある大手新聞が有力バイラルメディア・サイトを物色中という話も出ている。


伝統ニュースメディアもバイラル重視へ

 2年前に急浮上したバイラルメディアに陰りが見られるのだが、ニュースメディアのバイラル重視の動きはより活発になっている。新興メディアの2強であるHuffingtonPostとBuzzFeedは、もともと記事のバイラル化に力を入れていたが、今では質の高いオリジナルのバイラル記事を充実させている。さらに本格的なニュースサイトとしての体制も整え、一般のバイラルメディアと一線を画する存在になってきた。伝統メディアまでもバイラル記事に傾斜するのは、ソーシャルサイトで若い読者を獲得したいからだ。ユーザーの高齢化が進み、これからの社会の中核を担うミレニアム(1980年代から2000年代初頭に生まれた)世代などの若年層ユーザーをあまり取り込めていないのが、伝統メディアの大きな悩みとなっていた。

 そこで新興および伝統メディアの代表的なニュースサイトを対象に、それぞれのサイトの記事がどれくらいFacebookでシェアされているかを追ってみた。ニュースサイトが提供している全記事のシェア回数総計をNewsWhipが月単位で発表しているので、そのデータの推移を見ていけば、各ニュースサイトの記事がFacebookでどれくらい拡散しているかのレベルが読み取れる。ここでは、今年6月〜9月および昨年6月〜9月の各月のシェア総数(単位はM Share=百万シェア)の推移をグラフ化した。

 取り上げたニュースサイトは、新興メディアのHuffingtonPost.comとBuzzfeed.com(図5)、高級新聞系伝統メディアのNYTimes.comとGuardian.com(図6)、それにTV(ケーブル)系伝統メディアのFoxNews.comとNBC.com(図7)である。

 意外にも、HuffingtonPost.comとBuzzfeed.comが共に、この1年の間にFacebookのシェア回数総計をかなり減らしていた。最近の4か月だけを見ても、低迷ぶりが気になる。逆に、伝統新聞のNYTimesとGuardianはともにシェア回数総計を伸ばしており、高級新聞の記事もFacebookで拡散し始めているようだ。伝統TVのFoxNewsやNBCもシェア回数総計を増やしている。

FBShareHuffPosta.png
図5 新興メディアのニュースサイト。Facebookのシェア数が減り気味なのが気になる。NewsWhipのデータ

FNShareNTa.png
図6 高級新聞系のニュースサイト。狙い撃ちしたバイラル記事も増え、Facebookのシェア数も増えてきている。NewsWhipのデータ

FBShareFoxa.png
図7 TV系伝統メディアのニュースサイト。Facebookのシェア数は増えてきている。今後動画ニュースが強力な武器になりそう。NewsWhipのデータ

 
 やはり気になったのは、HuffingtonPostとBuzzfeedが、記事のシェア数を減らしている流れである。それを反映してか、今年に入ってBuzzfeedの訪問者数も米国では、図8のように下降している。両サイトとも本格的なニュースサイトとして変身しようとしているため、確実に拡散する記事に絞って発信するだけではなくて、あまり拡散しそうもない硬いニュース記事も重要なら提供するようになったためかもしれない。

Buzzfeed201510a.png
図8 BuzzFeed.comの月間ユニーク数(米国)の推移。Quantcastのデータ


  伝統メディアの有力ニュースサイトはシェア数が増えたことにより、今まで接点の少なかった若年層にリーチできるようになってきたといえる。NYタイムズはさらに”go viral"を加速化させるために、このほど編集室に “Express Team”を新設し、記事がネット上でもっと拡散するように、投稿前のブレイキング・ニュースのリライトを手掛けている。FacebookにポストされたNYタイムズの記事のバイラル度推移をPriceonomicsがまとめていたので、そのグラフを図9に掲げておく。ここでは年度別に投稿された全記事のバイラル度(Share数+Like数)の中央値の推移を示している。2015年にこれまで投稿された記事の中央値が約1000件で平均値が約3000件となっており、記事のバイラル度が昨年に比べ約2倍になっている。

NYTFacebookPost.png
図9 Facebookに投稿されたNYタイムズ記事の(Share数+Like数)の中央値。Priceonomicsより 


分散型メディアの浸透でトラフィックの流れが変わる

 このように米国のニュースメディアは、自前のニュースサイトへのトラフィックを増やすために、Facebookで記事が拡散することに努めてきているのだが、それ一辺倒の施策に見直しが必要となりそうだ。昨年あたりから話題になっている分散型メディアが立ち上がってきたからだ。ニュースサイトへのトラフィックだけではなくて、外部プラットフォームに置いたニュース記事へのトラフィックも勘案しなけらばならなってきた。

 その分散型メディアの本命と目されているFacebookの「Instant Articles(インスタント・アーティクルズ)」が先週から、参加パブリッシャーを増やして離陸し始めている。これまでのFacebookでユーザーが目にするニュース記事はあくまでリンク情報で、その記事本文を読むためにはニュースサイトに飛ばなければならなかった。でもInstant Articlesでは記事本文がFacebook内にホストされるため、サクサクとニュース記事が読めるようになる。このため、リンク情報の記事よりも、Instant Articlesの記事のほうが、より多く閲覧されるようになる可能性が高い。さらにInstant Articlesの記事のほうがシェア数なども多くなると、Facebookは主張する。つまり同じ記事でも、リンク情報記事よりもInstant Articlesの記事のほうが、Facebookで拡散しやすいということだ。Instant Articlesはバイラル記事を後押しするというわけだ。実は動画コンテンツの配信では、分散型メディがすでに浸透している。ニュースメディアもFacebookやYouTubeに動画ニュースを置くようになってきているが、それらの外部プラットフォームに置いた動画ニュースでも多くのシェア数を得ていることは実証されている。

 そこでメディア分析会社NewsWhipは、リンク情報記事のシェア数とかInteraction数(=Comment数+Share数+Like数)を計数するだけではなくて、これからは分散型メディアでプラットフォームに置いた記事のシェア数なども計数しようとしている。すでにFacebook内に置いた動画ニュースについては公表し始めている。近いうちに、Instant Articlesの記事のシェア数も報告されそうである。

 先行して分散型メディアを活用して飛躍したのがBuzzFeedである。同社CEOのJonah Peretti氏はブログで、3年前に自前のWebサイトとアプリで発信していた時には、月間コンテンツビュー数が1億件であったのが、今や30以上の外部プラットフォームで分散発信させることにより50億件に達したと、分散型メディアの有効性を語る。ともかく分散型メディア時代に突入しても、バイラル記事の重要性は変わらないだろう。

 
過度のバイラル重視に批判も

 このようにオンラインのニュースメディアは、バイラルな記事をテコにページビュー数や訪問者数を増やすそうと、躍起になってきた。ただページビュー/訪問者数至上主義に走りがちな状況に対して批判の声も少なくない。ページ数を稼げるバイラル性の高い記事がもてはやされる一方で、質の高い記事が埋没しがちなためだ。ソーシャルサイトでは、共感や感動が得られるような記事とかエンターテイメント性の高い記事だと拡散しやすいが、政治や経済分野の硬い記事となると質が高くても拡散しにくい。FacebookにポストされたNYタイムズの記事も、クッキングやスタイル、ヘルスのようなライフスタイル関連の身近な話となるとシェア数が多いが、政治や経済、海外の最新ニュースはシェア数が少なくなる。

 伝統新聞のGuardianは、Facebookでバズること狙い撃ちしたような記事を制作していた。今年の夏の観光シーズンが始まる7月初旬に、Want To Help Greece? Go There On Holidayという見出しの記事を発信した。ギリシャ観光案内の記事だがギリシャ救済の見出しが効いたのか、この記事1本だけでシェア数を38万件も獲得した。政治記事でもエンターテイメント性が高かったりすると、大いに拡散する場合がある。最近では、共和党大統領候補の人気投票でトップを走っていた不動産王ドナルド・トランプ氏が、参加した討論会の記事はどれも、Facebookでものすごく拡散していた。図10の動画ニュースもそうだ。シェア数が23万件を超え、再生回数も1290万回以上なのだが、質の高いニュースとはとても思えない。

Trump at the Roxbury

WHAT IS LOVE? Presenting Trump at the Roxbury!

Posted by The Huffington Post on 2015年8月7日

図10 ネットで拡散するバイラル記事の例

 若い世代に無視されがちなマスメディアとしては、このようなバイラル記事を用いてでも若者に目を向けさせたいようだ。

◇参考
・The Biggest Facebook Publishers Of August 2015(NewsWhip)
・Facebook v Google: Is Facebook Winning The Content Discovery War?(Buzzsumo)
・Notes from the Platform's Edge(The AWL)
・Get me rewrite: How The New York Times is building out the Express Team, its new breaking news desk(NiemanLab)
・How an entrepreneur turned his pet food startup into a viral website with more than a million visitors a day(Business Insider)
・A Cross-Platform, Global Network(BF BLOG)
・Instant Articles get shared more than old-fashioned links, plus more details from Facebook’s news push(NiemanLab)
・What New York Times Content Is Popular on Facebook?(Priceonomics)



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posted by 田中善一郎 at 19:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2015年08月30日

NYタイムズの「ニュースレター」が快調、開封率70%超えのレターが続々と

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 NYタイムズのニュースレター・マーケティングが快調だ。この半年間で総ユーザー数(無料の購読者数)が14%も増え、またいくつかのニュースレターでは開封率が70%を超えている。企業ニュースレターの開封率が、MailChimpの調査によると20%前後といわれているだけに、NYタイムズのメールサービスの人気の高さが際立っている。

 メディアサイトは以前から、新しいニュースが投稿されたことを知らせるために、ニュースレターを定期的に送るメールサービスを実施してきていた。ただ読者は次第に、検索や最近ではソーシャルメディアを介して新たなニュース記事と頻繁に接するようになってきている。このため、ニュースメディア・サイトも検索エンジンやソーシャルメディア対策により注力するようになっていた。

 そのせいか歴史の長いメールサービスが、今のソーシャルメディア時代においてはやや目立たない存在になっている。ニュースレターがこれまで通り、機械的に手軽に済ませ工夫を凝らすことが少なかったせいかもしれない。新聞サイトの発信するニュースレターのメニューも、たとえば新聞のニュースセクション対応に用意し、各セクションの主だったニュース記事をRSSフィード・スタイルでシステム的に送ることで済ませていたりしていた。 

 そこで、NYタイムズはマンネリ化していたメールサービスのテコ入れを行った。同サイトのニュースレターのメニュはEmail Subscriptionsで示されているように、現在42タイトルが用意されている。その中のいくつかのタイトルを以下に示す。

NYTimesNewsletter201508.png
図1 NYタイムズのニュースレター。現在、42タイトルが用意されている。いずれも無料でレター内コンテンツを定期購読できるが、レターからリンク先のサイト内コンテンツは、有料の場合、一般に無料で読めない。


 World | U.S. | Politics | Business | Technology などのようにサイトのニュースセクションに対応したタイトルは設けないで、全セクションを対象にした「Today’s Headlines」「Today’s Headlines European Morning」、「Today’s Headlines Asian Morning」で毎日、サイトにアップした最新のお薦めニュースを知らせている。その他は、サイト上のブログや特定コラムに対応した「DealBook」、「Bits」、「Well」など、ターゲットが明確なタイトルが目立つ。さらにこの1年ほどの間に、「NYT Living」(週2便)、「Nicholas Kristof」(週2便)、「The NYT Now Morning Briefing」(平日1便)、「Cooking」(週5便)など11タイトルを追加し、メニューを拡充させている。

 また、「Movies Update」、「Travel Dispatch」、「Motherlode」、「Sophisticated Shopper」、「TicketWatch」、「Wine Club」のように、ブレーキングニュースの通知ではなくて、趣味的な、それもニッチなテーマをカバーしたタイトルが多いのも特徴だ。そして全体を見て気が付いたのは、ベビーブーマー世代向けの「Booming」にも象徴されるように、中高年層ユーザーへのサービスとして重視していることだ。

 NYタイムズの最近のマーケッティング活動を見ていると、ミレニアル世代に代表される若年層読者を獲得しようと、フェイスブックなどのソーシャルメディア対策に躍起になっている。でも同新聞の中核読者は中高年層である。最も大事なデジタル版有料購読者が7月末に100万人を突破したが、その中央年齢が54歳である。現読者の高齢者向けにもきっちりとサービスを提供しなければならない。中高齢者ともなると、ソーシャルメディアよりもメールを介してニュースに接する人も多いはず。

 そこで、ニュースレターを充実させるために、12人もの専任スタッフを張り付けている。レターの内容も、機械的にRSSフィード・スタイルで済ませるのではなくて、人手で編集しており、またレター用のオリジナルコンテンツを加えたりもしている。編集室の記者も手伝うことがあるという。その結果、各ニュースレターの購読者数は、1万人から数百万部までとなっている。「Nicholas Kristof」、「Booming」、「Motherlode」、「The New York Times Magazine」などの人気レターの開封率は70%を超えている。ニュースレターのサンプル例(コンテンツの一部)を以下に示す。

NYTNewsletter201508.png
図2 ニュースレター「Booming」、「Cooking」、「Nicholas Kristof」のサンプル例

 看板コラムニストのNicholas Kristof氏の最新のニュースレターでは、彼自身が購読者数が5万人を突破したことを報告していた。

 これとは別に、先ほどHuffingtonPostのビジネス欄を読んでいると、以下のポップアップ画面が突然覆いかぶさってきた。HuffingtonPostビジネス欄のニュースレター勧誘であった。

HuffPostNewsLeter201508.png

追記メモ
 米メール配信サービス会社Yesmailのレポートによると、メルマガとかニュースリリースと称する配信メールのclick-to-open (CTO)率、つまり開封率が、以下の図のように推移している。PC(デスクトップ)メールのCTOがモバイルメールよりも高いが、その差がどんどん狭まっている。モバイルメールのエンゲージメントが高まっているのだ。モバイルでメールを受信する頻度が増えているだけに、スマホ画面向けのHTMLメールの配信に力を入れるべきであろう。

PCMailvsMobileMail2015.png


◇参考
・Email Subscriptions(NYTimes)
・How The New York Times gets a 70 percent open rate on its newsletters(Digiday)
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posted by 田中善一郎 at 19:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2015年08月07日

NYタイムズの有料デジタル購読数が100万部突破

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 NYタイムズのデジタル版の有料購読数が、7月30日に100万部を突破した。デジタル版の有料化を2011年3月末から始めていたので、4年少々で100万部に達したことになる。

 有料購読数の推移を図1に示す。途中、傘下のボストン・グローブの有料購読数も加えていたが、現在は売却したので含んでいない。

NYTDigitalSub1mil201507.png
図1 四半期単位の有料デジタル購読数の推移


 有料デジタル購読数が四半期単位でどれくらい純増しているかを図2に示す。有料サービス開始直後の四半期(2011年第2四半期)は28万1000部と特別に多かったが、それ以降は徐々に成長が鈍り始めていた。ところがこの1年半の間は、3万から4万部少々までの安定した純増ぶりを示している。毎月、1万部少々増えていることになる。

NYTsubadd2015Q2.png
図2 有料購読数の四半期ごとの純増数


◇参考
・The New York Times Passes One Million Digital Subscriber Milestone(Press Release)
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posted by 田中善一郎 at 02:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2015年04月30日

ニュースメディア接触のモバイルシフトが加速化

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  米国でもニュースメディアのモバイル化が加速化している。トップ50のデジタルニュースサイトのうち39サイトでは、既にデスクトップよりもモバイル端末からのトラフィックが多くなっている。これはPew Research Centerが毎年発行する「State of the News Media」の2015年版が明らかにした結果である。

 デジタル特化のニュースメディア・サイトのトップ10は次のようになる。今話題のおなじみのニュースメディアが並んでいる。これはcomScoreが2015年1月に調べた月間ユニークビジター数のランキングである(単位は千人)。デスクトップからのユーザー数とモバイルからのユーザー数も示されている。CNET以外のすべてのサイトでは、モバイルからのユニークビジター数が多い。

State of the News Media 2015TopDigitalNativeNews.png
図1-1

State of the News Media 2015TopDigitaNativelNewsMobileShift.png
図1-2

 次は新聞やTVの伝統メディアが運営しているサイトも加えた、全デジタルニュースメディア・サイトのトップ10を示している。先のデジタル専門のニュースサイトは、HuffingtonPostとBuzzFeedしか入っていない。伝統メディアが絡むニュースサイトの方が、ニュースカバー範囲も広く、また対象読者層も広いため、ユニークビジター数が多くなっている。またモバイルシフトに関しても、伝統メディアサイトも遅れていない。トップ10のいずれのサイトも、モバイルからのユニークビジター数が、デスクトップからよりも多い。つまり有力なニュースメディアサイトは、既にモバイル優先で走っているということだ。

State of the News Media 2015TopDigitalNews.png
図2-1

State of the News Media 2015TopDigitalNewsMobileShift.png
図2-2

 でも、未だにデスクトップからのユニークビジター数がモバイルビジター数よりも多いニュースメディア・サイトには、CNET以外では、
MSN News
BBC
Engadget
TechCrunch
LiveScience
Politico
ArsTechnica
Recode
があった。MSN NewsやBBCはともかくとしても、残りはいずれもデジタル特化のニュースメディアであるが、中心読者層が若者ではなくて中高年層が多いため、まだモバイルファーストになりきれていないようだ。



◇参考
・State of the News Media 2015/  Digital News − Audience: Fact Sheet(Pew Research Center)
・State of the News Media 2015/ Digital News − Revenue: Fact Sheet(Pew Research Center)
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posted by 田中善一郎 at 02:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2015年02月12日

VCが後押した新興デジタルメディア、トラフィックも売上高も急増

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 昨年はオンラインメディア・ブームで沸きに沸いた。VC(ベンチャーキャピタル)が競って新興パブリッシャーに出資したこともあって、米国や日本で大いに盛り上がった。Preqinによると、VCがデジタルメディア分野に投入した出資総額は、昨年(2014年)は世界で少なくとも6億8300万ドルに達したようだ。一昨年の2億7700万ドルに比べ、2倍以上もニュースサイトなどに資金が注入された。

 NYタイムズに代表される米国の伝統メディアの多くは、人減らしなどの経費削減で息をつなぐのに精一杯の厳しい状況が続いている。一方,勢いづいてきたデジタル特化の新興メディアは、投資家から多くの資金を調達でき、一段と攻勢をかけてきたのだ。AdAgeでは、資金調達により躍進した6ブランドのメディアサイトの現況を紹介していたので、次のような表にまとめてみた。

図1 代表的な新興デジタルメディア・サイトの現況
DigitalMedia201502a.png
(ソース:AdAge)

 おおまかにまとめると、こうなる。20億円から130億円規模の資金を調達してリソース(人やシステム)を強化し、サイトを充実させ、この1年間でトラフィックを数10%から多いサイトで400%も増やした。トラフィックは、ComScoreの2014年12月データを使っている。年間の売上高も35億円から120億円規模と、トラフィックの伸びに合わせて増えているようだ。多くは、黒字化を実現していると主張している。 

 こうした新興メディアのサイトは通常のコンテンツは無料で、ほとんどの収益を広告収入に依存している。
CPM(表示1000回あたりの料金)の推定額は、Business Insiderが$20〜$25、Refinery29が$16-$17で、Voxはサイトによって違うが$6〜$8から $18〜$20までとなっているようだ。BuzzFeedは $8 to $10と低料金であるが、登録ベースのクリエイティブなネイティブ広告料金ではまとめて$100,000 〜 $500,000と高額になる。 Thrillist のCPMは$12 〜$15となっているが、eコマース・プラットフォームのJackThreadsを買収して以降、売上高の70%〜80%をeコマースから得ている。

 新興メディアは一般に、NYタイムズやWSJ、ワシントンポストのような伝統メディアに比べると、まだまだ信頼性やブランド力で見劣りすると見られていた。ところがつい最近、オバマ大統領がVoxとBuzzFeedのそれぞれに、単独インタビューに応じたのだ。新興デジタルメディアの社会的地位が一気にアップしたのだ。ミレニアル世代(14歳から34歳)を中心とした若者では、伝統メディア離れが進む一方で、ソーシャルメディアでの接点を重視している新興メディアになびいている。政府も企業も若者にリーチするには、新興メディアを活用していくのが当然の流れとなってきた。

 BuzzFeedのサイトに掲載されていたオバマ大統領インタビューを以下に載せておく。 

図2 BuzzFeedのオバマ大統領インタビュー。2015年2月11日付け記事
BuzzFeedObama2015a.png

 これら新興メディアの特徴は、自サイトだけではなくてソーシャルメディアでのコンテンツ発信に力を入れていることである。今回のBuzzFeedやVoxの大統領インタビューも、ビデオ撮りした動画コンテンツをソーシャルメディアから視聴できるようにしている。以下はVoxのFacebookページに掲載されていた動画コンテンツ例である(複数本を投稿していた)。視聴回数が約45万回となっていた。YouTubeにも投稿していたが、各動画コンテンツの視聴回数はまだ2万回に届いていなかった。昨年後半から、投稿動画の視聴回数でFacebookがYouTube を追い抜いたと言われているが、この例でも拡散しやすいFacebookの視聴回数が YouTubeを圧倒しているようだ。  

図3 Voxのオバマ大統領インタビュー。2015年2月10日付けのVoxのFacebookページ
VoxObama201502a.png


◇参考
・Reality Check: Sizing Up VC-Backed Publishers' Prospects(AdAge)
・Venture Capital Investments in the Digital Media Sector - October 2014( Preqin)
・Vox and BuzzFeed Obtain Interviews With Obama(NYTimes)
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posted by 田中善一郎 at 12:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2015年02月09日

バイラルメディア編集長が米大統領とホワイトハウスでインタビュー

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 とうとうバイラルメディアの編集長が米大統領とホワイトハウスでインタビューすることになった。

 今週の火曜日(10日)に、BazzFeedのBen Smith編集長がオバマ大統領とインタビューを実施する。BuzzFeedのサイトを始め、FacebookやTumblrなどのソーシャルメディア上でも告知している。

 インタビューでは、反発の多い皆保険制度「オバマケア」や世界的な混乱のなかでの経済政策などについて話し合う予定だが、インタビューに対する要望や質問事項などを読者から募っている。メールだけではなくて、 Facebook, Snapchat, Instagram, Twitter, Tumblrといったソーシャルメディアでも対応する。写真などの素材も受け付ける。厳しい質問を用意したいという。

 Facebookと Tumblrでの告知を、以下に掲げておく。

図1 BuzzFeedでの告知、
BuzzFeedObama201502a.png


図2 Tumblrでの告知
BuzzFeedObama201502b.png


 インタビューではビデオ撮りも実施する。同社のビデオ制作部署の「BuzzFeed Motion Pictures」が担当。BuzzFeed Videoなどでも、ビデオコンテンツを拡散させていく。

◇参考
・BuzzFeed is about to have its first presidential interview(CNN)
・What Should We Ask President Obama?(BuzzFeed)
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2015年02月05日

米英の有力パブリッシャー、なぜSnapchatの「Discovery」に飛びついたいのか

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  昨日(2月4日)の台湾機墜落のニュースでは、動画情報のインパクトの強烈さを印象付けた。一週間ほど前の1月27日から始まったSnapchatの「Discovery」サービスを見ていると、米国のCNNやYahoo! Newsもトップニュースで台湾機墜落ニュースを伝えていた。図1と図2で示したように、ともに見出しに、旅客機が高速路を横切って川に墜落する衝撃的な動画を背景にしていた。ループ動画の威力を見せ付けた。

図1 CNNのSnapchat版ニュースコンテンツ事例。左が動画背景の見出しで右が記事本文
SnapchatCNN20150204.png

図2 Yahoo!NewsのSnapchat版ニュースコンテンツ事例。左が動画背景の見出しで右が記事本文
SnapchatYahooNews20150204.png

 Snapchat(スナップチャット)は開封後10秒以下で消える動画メッセージング・スマホアプリで、特に10代〜20代の若者に人気が高く、月間ユニークユーザー数が1億人を超えていると言われている。そのSnapchatが先月末から、パブリッシャーがニュースやエンターテイメントコンテンツなどを提供できるサービスDiscoveryを開始した。コンテンツに短かい動画を組み込めるのが売りであるが、パブリッシャーが投稿したコンテンツは24時間後には消えることになっている。サービス開始時には、パブリッシャー・パートナーとして次の11ブランドが参加した。
・CNN
・Cosmopolitan
・Daily Mail
・National Geographic
・ESPN
・Bleacher Report
・People
・Yahoo! News
・Vice
・Fusion
・Food Network
有力なメディアタイトルが並んでおり、Snapchat自身も含めて12ブランドでスタートしている。

 試行錯誤の段階であるが、ほとんどのブランドは、自サイトから選んだ(キューレートした)記事を毎朝5〜10本程度Snapchat版にして投稿している。24時間後に消えるので、毎朝、新しい記事を上げることになる。また各ブランドのコンテンツには広告が付くようになっいる。すでに、CNNにはBMWが、Cosmopolitanには Pinkと StarbucksとSperryが、 Daily Mailには T-MobileとStrideが、そしてESPNにはUniversal Picturesがスポンサーになることになっている。

 ニュースやエンターテイメントコンテンツを提供するパブリッシャーからすれば、コンテンツに接する場として、フェイスブックなどのソーシャルメディアを重視するのは当然の流れとなっている。ネット世代の若者との接点が乏しかったメディアブランドにとっては、ソーシャルメディアを介して若い読者開拓が欠かせない。世界トップのオンライン新聞Daily Mailも、先ほど若い読者を獲得するためにバイラルメディア「Elite Daily」を買収したが、さらにもっと若いユーザーに接するためにSnapchat版にも手を出すようになった。

 最後に、CNNと Daily Mailの動画コンテンツ例を掲げておく。

図3 CNNの動画コンテンツ例
cnn-snapchat.gif

図4 Daily Mailの動画コンテンツ例
dailymail-snapchat.gif


◇参考
・Introducing Discover(Snapchatのブログ)
・How top publishers are using Snapchat(Digiday)
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posted by 田中善一郎 at 23:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2015年01月31日

世界トップのオンライン新聞「Mail Online」、若者世代で人気急伸のバイラルメディア「Elite Daily」を買収

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 訪問者数世界一のオンライン新聞を所有する英「Daily Mail」が、若者世代で人気急上昇のバイラルメディア米「Elite Daily」を買収した。買収額は約4700万ドルと見られている。

EliteDaily20150130.png

 Daily Mailが運用する「Mail Online」は、英ABC(the British Audit Bureau of Circulation)が公表した2014年12月の月間ユニークビジター数で約2億人に達しており、世界トップの新聞社サイトと見なされている。一方の「Elite Daily」は20代前半の若者たちが2012年に立ち上げたばかりのサイトであるが、ミレニアル世代のハフィントンポストをうたい文句にバイラルメディアとして急成長し、現在のグローバルの月間ユニークユーザー数が7400万人になったと主張している。従業員数は65人になったという。

 Mail Onlineはゴシップやエンターテイメント記事中心の典型的な大衆新聞サイトである。NYタイムズによると、わいせつ記事満載の軟派新聞である。ネットでは柔らかいコンテンツが受けるようで、1年半ほど前に紹介したように、「世界で最も人気の高い新聞サイト「Mail Online」、勢いが止まらない」のは確かである。ただ浸透している層はどうもオジサン読者が中心で、若者にはあまりリーチしていないようだ。そこで、若者読者を一気に囲い込もうとして、ミレニアル世代で人気急上昇のElite Dailyを買収することになったのだ。

 またDaily Mailは昨年末に、米市場向けにDailyMail.comを立ち上げている。Mail Onlineサイトで既に、米国の月間ユニークビジター数を約7000万人も抱えており、新聞社サイトランキングで全米2位にのし上がっている。読者の重なりの少ないElite Dailyを加えることにより、全米トップの新聞社サイトになりそう。さらに、米国のニュースサイト市場では、バズフィードやハフィントンポストとの3すくみの争いが始まるのかもしれない。Daily Mail北米のトップのJon Steinberg氏(バズフィードの前社長)は、Elite Dailyを獲得することによりDaily Mailを“ Time Warner とか Viacom.”にしていきたいと鼻息が荒い。

 Elite Dailyの特徴は、バイラルメディアと称されるように、ソーシャルメディアからの流入トラフィックが多いことだ。昨年6月のデータでは、トラフィックの70%がソーシャルサイトから流入しており、50%〜55%はフェイスブックからであった。

 フェイスブックにおけるパブリッシャーサイトのバイラル度ランキングを、メディア分析会社NewsWhipが発表しているが、その最新版(2014年12月データ)を以下に掲げる。記事のバイラル性の指標としては、Interaction総数(=Comment数+Share数+Like数)を用い、各パブリッシャーサイトについて1か月間に投稿した全記事のInteraction総数(表のTotalFB)をはじき出している。

Newswhip201412FacebookShare.png
(ソース:NewsWhip)

 FB Totalのランキングでは、Elite Dailyが7位でMail Online(dailymail.co.uk)が11位であった。シェア数(Shares)も同じであった。半年前の昨年6月には、Elite Dailyが10位であったがMail Onlineは8位であった。シェア数の変化を見ても、Elite Dailyは昨年6月の1,857,432件から12月の2,233,076件と増やしているのに対して、Mail Onlineは2,233,840件から2,057,852件と減らしている。つまり、Elite Dailyはソーシャルメディアでのバイラル度を高めて、若いユーザーからのアクセスを増やしている。逆に、Mail Onlineは、若者からのトラフィック増に苦戦しているようだ。今回のElite Daily買収により、Mail Onlineが若いユーザーをどれくらい取り込んでいくかは興味深い。

◇参考
・How Elite Daily's 20-something founders sold their startup to Daily Mail for ~ $50 Million in cash(Business Insider)
・Daily Mail Buys Site Targeting Millennials(NYTimes)
・DailyMail.com launches in America(PR Newswire)
・The Biggest Facebook Publishers of December 2014(Newswhip)
・世界で最も人気の高い新聞サイト「Mail Online」、勢いが止まらない(メディア・パブ)
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posted by 田中善一郎 at 18:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年10月08日

淘汰繰り返すネットメディア市場で、持続的成長を堅持する「Gawker Media」

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  「Gawker Media(ゴーカー・メディア)」が未だに成長を続けている。同メディアは、日本でもおなじみのLifehacker(ライフハッカー)、Gizmodo(ギズモード)、それにKotaku (コタク)などのブログを配信しているブログ・パブリッシャーである。

 Gawker Mediaを2002年に立ち上げ、今もオーナーであるNick Denton(ニック・デントン)氏が、社員に届ける月間ニューズレータの中で、同メディアが持続的成長を続けていることを誇らしげに伝えている。トップ3のオンライン・パブリッシャーの推移を示しながら、この6年の間、同メディアが絶えずトップの座を競ってきたことを誇示したのだ。

Gawker201410a.png
GMG:Gawker Media Group、 Huffpo:Huffington Post

 これはトラフィック量を比較したランキングであろう。ネットメディア事業は浮き沈みが激しく、最近では爆発的な勢いで成長するバイラルメディアが台頭するように、絶えず淘汰の波が押し寄せてくる。そうした中で、長い間にわたってトップの座を競い続けるのは、確かにすごい。

 Quantcastのトラフィック計測結果からも、月間ユニーク数が増え続けているのが分かる。最新調査データでは、米国で7100万人、グローバルで1億1350万人となっている。モバイルシフトも順調に進んでおり、トラフィックの2/3がスマホなどのモバイル端末からとなっている。

Gawker201410c.png
(ソース:Quantcast)

 Gawkerは現在、10近いブログを擁しているが、各ブログのユニーク数は次のようになっている。Gizmodo 、Lifehacker 、Gawker、それにスポーツブログのDeadspinは、いずれも米国だけの月間ユニーク数でも1000万人を超えている。

Gawker201410d.png
(ソース:Quantcast)

 同メディアは現在、フルタイムのスタッフを120人ほど抱えているが、年末までに150人に増える予定という。気になるのは売上である。Denton氏のニューズレターには次のような図が添えられていた。売上高の大半を占める広告売上高の推移である。週間広告売上高の累積の推移を、一昨年と昨年と今年について示している。今年は40週間までの広告売上高が描かれている。大雑把なグラフであるが、トラフィック増に合わせて広告売上高も順調に増えていることを言いたいようだ。

Gawker201410b.png

 米国のオンラインメディアの歴史の中で、こうしたブログ・パブリッシャーが成長しながら今も活躍しているのは興味深い。21世紀に入るまでは、オリジナルコンテンツを発信するオンライン・パブリッシシャーとしては、新聞社や雑誌社、TV局などの伝統マスメディアが主役であった。その流れを大きき変え始めたのが、ブログの出現であった。誰もが比較的容易にメディア発信者になれるようになり、個人ブログが雨後の筍のごとく生まれてきた。その中から、人気ブログも登場し、優れた職業ブロガーも現れてきた。

 一方で、マスメディア側からも動きが出てきた。何かと制約の多い伝統マスメディアから抜け出て、新しく、かつ自由な表現手法を求めてブログメディアに挑戦するレポーターが増えてきた。記者(ジャーナリスト)からブロガーへの転身が、一つのブームになってきた。

 こうした職業ブロガーやマスメディア出身ブロガーの受け皿となったのが、2000年代前半から次々と誕生してきた商業ブログ・パブリッシシャー(ブログ・ネットワーク)であった。元フィナンシャル・タイムズ記者のDenton氏がGawker Mediaを立ち上げたのは2002年であった。その後に登場したWeblogs(2003年)、Techcrunch(2005年)、Mashable(2005年)、Huffington Post(2005年)、Gigaom(2006年)などとともに、激動のネットメディア市場で勝ち残ってきたのである。

◇参考
・Denton: ‘no other company has grown more consistently’ than Gawker Media(Poynter.)
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2014年08月03日

NYタイムズ、デジタル版有料事業に課題が浮上、黄信号が再び点灯

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さすがにNYタイムズは並の新聞とは違う。デジタル版の有料化で購読料収入を増やし続け、一時の経営危機から抜け出し、回復軌道に乗ってきているようだと、言われてきた。今年の第1四半期(1月~3月)の決算発表では、不振続きの広告売上がプラス成長に転じたこともあって、経営陣が楽観的な見通しを語り始めていたほどだ。


外部からも高く評価されているのは、デジタルシフトが進む中でデジタル版購読者数が順調に増え、購読料(販売)売上が着実に伸びていることである。また、売上高が広告依存から販売依存にシフトしていることも、好感を持たれていた。


NYTInn11.png
(ソース:An internal report on digital innovation at the New York Times)

デジタルコンテンツの有料化に突入してから3年以上が経つが、確かにその間の購読料売上高は一本調子で増え続けている。先週発表のあった第2四半期(4月〜6月)決算でも、その四半期の間にデジタル版購読者数が3万2000人も増え、6月末に総計で83万1000人に達した。順風満帆に思えた。


ところが第2四半期の決算内容は、以下のように甘くはなかった。前年同期と比べ売上高が下回り、純利益が55%減と急落した。

NYT2014Q2SixMonth.png

 以下の表は、今年の第2四半期と第1四半期における、各種売上高の増減率などをまとめものである。増減率は前年同期比である。総売上高が第1四半期では2.6%増のプラス成長であったのが、第2四半期には0.6%減のマイナス成長に沈んだ。その理由は、表からも明らかなように、第2四半期のプリント版広告売上高が同6.6%減と落ち込んだためである。でも、プリント版広告が前年同期割れでマイナスになるのは覚悟していたはずである。NYタイムズの場合も昨年まで13四半期連続してマイナスであった。


NYT2014Q1Q2.png

(ソース:Nieman Journalism Lab)

 第1四半期のプリント版広告売上高がプラス4%になったが、これは高額の広告出稿などの特需のお蔭であろう。嬉しい誤算であったと見るべきだ。CEOのMark Thompson氏は" we are making in both performance and innovation in advertising,"と自慢したが、その3か月後の第2四半期に6.6%減と急落したのだ。でも、第2四半期はいつも季節要因で凹む時期だし、プリント版広告売上高がマイナス成長に戻るのは織り込み済みであったはず。このため、プリント版広告売上高の落ち込みが、今回の減益の主要因であることは、あまり悲観すべきではないかもしれない。

 ところが、今や成長エンジンとなってきたデジタル事業で、雲行きが怪しくなってきたとなれば大問題である。デジタル事業での売上としては、広告売上と販売(購読料)売上とがある。デジタル広告売上は構造的に伸び悩んでいる。主要なオンラインメディアサイトの多くが二けた成長を続けているのに対して、伝統新聞サイトでは一けた台の低い所で低迷している。新聞サイトはオンライン広告メディアとしては相対的に弱体化しているのだ。第2四半期のデジタル広告売上が同3.4%増で順調と言われているが、この程度ではプリント版広告の減少分をまったく補えない。3.4%増と少しアップしたのはネイティブ広告の成果だと自慢するが、デジタル広告売上に大きなけん引役を負わせるのは酷であろう(paywallも壁になる)。

NYTDigitalSubscriber2014Q2.png
(ソース:Columbia Journalism Review)

 となるとやはり成長エンジンの要であるデジタル版販売にもっと売上を伸ばしてもらいたい。そのためには有料デジタル購読者数の純増分をなるべく大きくしたい。次のグラフは、その有料デジタル購読者数の純増分の推移である。2~3年前のデジタル有料サービスの開始当時は有料デジタル購読者数が勢いよく増え続けていたのだが、次第に有料デジタル購読者数の純増分が減っていくのは仕方がないところがある。2012年には毎四半期ごとに有料会員が約6万人も増えていたのが、2013年には半分近い3万人に減ってしまった。このような有料会員の純増分の鈍化が、デジタル版販売売上高の伸びも鈍らし始めるのではとの懸念は以前からあった。


そこで、新たな有料会員をより多く獲得するために、4月から低額のスマホ向け有料サービス「NYTNow」を始めた。4週間の購読料が8ドルと、これまでの有料サービスに比べ大幅に安い。これまでのサービスのサブセット版で、スマホ向けのカジュアル版ということで、新規ユーザーを獲得できるものと大きな期待がかかった。


ところが、第2四半期のデジタル版購読者数が3万2000人しか増えなかったのだ。季節要因があるにせよ、第1四半期の3万9000人に比べ7000人も減っていのが気になる。低額サービスNYTNowの新規会員を含めた純増数だけに、なおさら心配だ。デジタル版購読者の純増が鈍化し始めているのに加え、購買単価の低い会員の割合が高まると、販売売上の伸びが大きく鈍る懸念が高まる。その前兆か、第2四半期の販売売上高(Circulationrevenue)が前年同期比で1.4%増と成長率にブレーキがかかった。


またソーシャル時代において、NYタイムズの” Paywall”が” Socialwall” となりつつあるのも、気がかりな点である。有料デジタル路線で順調に展開していると見られているNYタイムズにも、黄信号が再び点灯するかもしれない。


◇参考
・The New York Times Company Reports 2014 Second-Quarter Results(Press Release)
・The NYT’s new paywall products flounder(Columbia Journalism Review)
・A stormy set of revenue numbers for The New York Times (and the broader news industry)(Nieman Journalism Lab)
・The Full New York Times Innovation Report




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2014年07月26日

高級新聞もバイラルメディア化,英インディペンデント紙が「バズフィード」風サイトを立ち上げ

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     英国の高級新聞「インディペンデント」(TheIndependent)がBuzzFeed風サイト「i100」を7月17日に立ち上げた。高級紙までもバイラルメディアで疾走するのか。 

インディペンデントは個人的にはあまり馴染みのある新聞ではなかったが、それでもニュースアグリゲーター経由でWebサイトの記事には時々アクセスしていた。何となく信頼できる記事だなぁとの印象が強い。インディペンデントのサイト(independent.co.uk)は堅い高級紙のサイトとは思えないほど、ビジュアル重視のデザインで活気がある。

  同紙は1986年10月に創刊された若い新聞で、政治的な記事が売りで、リベラルな立場で環境や反戦のようなメッセージ性のある記事が多いが、右や左に縛られない中道派の新聞とされている。高級紙で初めてタブロイド版に切り替えたように、若い新聞のせいか思い切りが良い。オンラインシフトもやはり軽やかで速い。新聞紙の購読者数が10万部を切っているのに対して、オンラインサイトの今年6月の月間ユニークブラウザー数は前年同月比70%増の4000万台に乗せた。そして今度はバイラルメディアにも挑むことになったのだ。

図1
UKNewspaperwebTraffic201406.png 


インディペンデントのサイトはこれまで通り続けるが、同じドメイン内にサブタイトルの形で「i100」を立ち上げた。以下のインディペンデント・サイトの画面で示すように、i100への誘導枠を目立つように配している。これまでのインディペンデント・サイトのユーザーにすれば、i100は新しい目玉コーナーが加わったように見える。


図2
i100Independent20140720a.png


i100のホームページは次の通り。左枠サイドのThe Listは一種のタイムラインで、最新記事を中心に100本の記事が連なっている。ただ新しい記事を次々と上段に積み上げていくだけではなくて、ユーザーから多くの賛成票(UPVOTE)を投じられた記事は、居残る期間を長くしている(REDDITとよく似ている)。中央には、重要とされる記事が大きめの写真とともにいくつか掲載されているが、ユーザーはListの中から選んで閲覧する場合が多そう。最新記事がどれかが識別できるし(上位に掲載)、各記事にUPVOTE数が明示されているので人気記事がどれかも分かり、便利である。読みたい記事をクリックすると、中央枠にすぐに表示される。


図3
Independent20140725b.png


ローンチ後の1週間ほど閲覧してきたが、やや軟派系の記事も適当に発信しているが、やはり政治がらみの硬めの分野が目立つ。今はガザの紛争に関する記事が多く、ユーザーからの賛成票(UPVOTE)も次々と投じられていた。今、The Listのトップに出ていた以下の記事は、ガザ地区で犠牲になった子供たちを報じたラジオ局にイスラエル軍が砲撃した、とのニュースである。いかにもインディペンデントらしい記事で、賛成票が多かったため、投稿後10時間経過してもThe Listの上位に残っていた。

図4
Independent20140725c.png

全体としては、バイラルメディアお得意のリスト記事(まとめ記事)が多い。クイズ記事も掲載する予定だがまだ少ない。リスト記事のキューレーション対象となる素材は、自前のオリジナルコンテンツもあるが、外部のメディアサイトのコンテンツも利用している。次のアルジェリア航空機の墜落事故に関する記事もリスト記事であった。事故が判明した直後に投稿されたが、最初は墜落情報が錯そうしており、見出しで”・・・: What we do and do not know”とあるように、明らかになったことや不明な点を、時々刻々更新しながら伝えていた。第一報では、中国の国営メディアCCTV(China Central Television)のツイート画面も使ったりしていた(数時間後に削除)。CCTVは2012年1月にケニアにCCTV Africaを設立し、今やアフリカでのニュース市場でCNNや BBC、Al Jazeeraと競うまでに成長し、今回の事故も素早くツイートで伝えたようだ。

図5

Independent20140725d.png

 これまでのバイラルメディアではソーシャルサイトで話題になることを最優先し、記事の信頼性や社会性の意義などは2の次となる傾向があった。そこでi100が目指したのは、信頼できるバイラルメディアである。次の記事もある写真の信憑性を問いている。イスラエルの子供たちが「イスラエルからの愛をこめて」とミサイルにサインしている写真についての記事である。パレスチナとイスラエルとの間の憎しみを煽り立てる写真となるところだが、この写真は数年前に撮影されたもので、今回の紛争とは関係ないことを暴露している。 


図6
i100Independent20140720c.png

次はウクライナ紛争で、EU各国がロシアへの制裁で躊躇している状況を伝えた記事である。3360億もの理由があるから、制裁できないでいると皮肉っている。つまり、2012年にはEUとロシア間の貿易額が€336bnにも達しており制裁できそうもないとことを、各国の主要メディア記事を引用しながら説明していた。

図7

Independent20140725e.png

i100が立ち上がってから1週間ほど経過したが、UPVOTE数も増え始めており、順調に滑り出したようだ。信頼のおける質の高いバイラル記事を提供していくために、あえてi100を独立させないでインディペンデンス・サイト内に置き、スタッフも同じ編集室内で働いている。

i100の実働部隊としては、i100編集長のMatthew Champion氏(元 Metro News)に加えて自称フリーランス・ジャーナリストのDina Rickman氏(元Telegraph 、元Huffington Post)と Evan Bartlett氏の3人が中心になってバイラル記事を執筆している。一部、インディペンデント編集スタッフも手伝っているようだ。一般のバイラルメディアと同様、かなり少人数のチーム構成となっている。

ただバイラル記事を執筆したり制作するためには、コンテンツキューレーション、データ活用とビジュアル表現、クイズ編成、対話形式のチャート/マップ活用と、これまでの新聞記者とはちょっと違った能力が必要となりそう。新聞記者が足で(取材して)記事を執筆していたのに対し、バイラル記者は主にネットサーフィンし、最新ツール/サービスを駆使して記事を執筆することになる。

現在i100は、インディペンデンスサイトの下での一つのコーナーに過ぎないし、脇役的な存在かもしれないが、ページビューやユニークユーザー数の獲得で先導的な役割を演じてきた場合どうなっていくかが興味深い。バイラルメディアでどこまで高級感や信頼感を確保できるかである。たとえば、外部リンクを多用するリスト記事がメディアブランドを毀損するリスクが伴うので、どう対応していくかである。ともかく、こうした挑戦は楽しみだ。

◇参考
・Now i goes digital with a BuzzFeed-style website called i100(Guardian)・
・The Independent passes 40m web browsers for first time in June(journalism.co.uk)
・Why The Independent launched the new user-focused i100(journalism.co.uk)


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posted by 田中善一郎 at 07:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年07月23日

ソーシャルネット時代のニュース事業バブル、その実態は?

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 オンラインのニュースメディア事業が盛り上がっている。ベンチャーキャピタルやネット事業で大儲けした資産家までもが、有望市場と見込んでかニュース事業への投資に入れ込んでいる。ソーシャルネットワークやモバイル端末の浸透が追い風になって、オンラインのニュース事業がバブルっぽくなってきた。米国市場だけではなくて日本市場においてもだ。

 ここでは、先行している米国のニュースメディアの動きを、特に旋風となっているバイラルメディアの影響を見ながら追ってみた。ニュース記事との接触で、若者を中心にプリントメディアからオンラインメディアへのシフトが加速化している。さらに、オンラインにおいても、ポータルからサーチ、さらにはソーシャルへと主流チャンネルが一気に変わってきている。ニュースサイト(ブランド)に直接アクセスして所望のニュース記事を見つけるよりも、サーチエンジンで探したり、さらにはフェイスブックやツイッターなどのソーシャルネットワークで出会ったニュース記事を閲読することが増えている。Reuters Institute のレポートの図で示されているように、若年層(図の18歳〜24歳)がニュースサイトのホームページにアクセスしなくなってきている。一方で日常的に滞在するフェイスブック上で話題になっているニュース記事と接する機会が増えてきている。

図1


SocialDiscoveryNews2014Reuter.png
(ソース:Reuters Institute)

 こうした若年層のニュース接触環境の変化を先取りしたのが、バイラルメディアのBuzzFeedである。フェイスブックで話題になりやすい記事作りに注力し、現在では流入トラフィックの75%をフェイスブックから得るまでになった。このフェイスブックの参照トラフィックを爆発的に増やすことにより、ページビューやユニークユーザー数で世界トップクラスのニュースサイトに躍り出たのである。

 BuzzFeedに続けと、この1〜2年、バイラルメディア・ラッシュが続いている。図2は、各パブリッシャー(ニュースサイト)の記事がどれくらいフェイスブック上で話題になっているかを比較した時のランキングである。記事のバイラル性の指標として、メディア分析会社NewsWhipが測定しているInteraction数(=Comment数+Share数+Like数)を用い、各ニュースサイトについて1か月間に投稿した全記事のInteraction総数(表のTotal Facebook)をはじき出している。2014年6月の1か月間でInteraction総数の多かったトップ16のパブリッシャーを、図2に抜き出した。

図2
FacebookNewssite201406.png
(ソース:NewsWhip)

 目立つのはやりバイラルメディアで、buzzfeed.com、ijreview.com、elitedaily.com、upworthy.com、playbuzz.comが上位を占めるようになってきた。一方、フェイスブック対策が遅れていた伝統メディア(新聞サイトやTVサイト)も、バイラルメディアの手法をいくつか参考にして、Interaction数の増加に努めている。この結果、一つ前の記事でも紹介したように、月間Interaction数が100万件を超えたパブリッシャーサイト数が、2013年8月の25サイトから今年5月に80サイトへと一気に跳ね上がった。つまり、ニュースサイトに代表されるパブリッシャーサイトの記事が、この1年少しの間に急速にフェイスブックで拡散され始めているということである。それに合わせてフェイスブックを介してニュースサイトにアクセスする人がドッと増え、今のニュースブームに至っている。スマホのようなモバイル端末を使って、気軽にいつでもニュース記事を閲覧できるようになったことも後押ししている。


これまで新聞や雑誌のプリント中心のニュースとあまり縁のなかった若年層も、ソーシャルネットワークを介してニュース記事と接する機会が増えてきたことは、確かなようだ。そこで気になるのは、どのようなニュースが新たに多く読まれるようになってきているかである。そのためには、どのようなタイプの記事がより多くのInteraction数を獲得してきているかを見ていけば推測できるだろう。

 そこで、フェイスブックの月間Interaction数でトップを競っているBuzzFeedとHuffingtonPostの両サイトにおいて、それぞれこの半年間(2014年1月〜6月)に投稿した記事の中で最もInteraction数の多かった記事をまず見ていこう(図3の記事がそれ)。


図3
FacebookTotalViralNews.png

最初のBuzzfeedの記事「What State Do You Actually Belong In?」(あなたが住むべき州はどこ?)は、なんとInteraction数が387万回で、ページビューが4101万ビューと驚異的な値を残した。1本の記事だけで、ちょっとしたニュースサイトの月間ページビューに匹敵するほどだ。2番目に多くバズった記事は「What Career Should You Actually Have?」(あなたが選ぶべき職業は何?)でInteraction数が298万回で、ページビューが1779万回となっていた。3番目の「Which Classic Rock Band Are You」(あなたはどのクラシック・ロック・バンド派?)はInteraction数が278万回で、ページビューが471万回であった。このBuzzFeedの3本の記事はいずれもクイズで、特にニュース性があるわけではないが、時間つぶしにぴったりの気軽な記事となっている。BuzzFeedでの実績から、クイズはページビューを確実に稼げる定番のバイラル記事となっている。

図4

BazzFeedQuiz201402.png


上の3本のクイズ記事のInteraction数は、合計で963万件。これはNYタイムズ・サイト(nytimes.com)の総Interaction数918万件を上回っている。ちなみにNYタイムズは毎月約9000本の記事を発信している。BuzzFeedのクイズ記事の桁違いのバイラル人気に驚く。

 HuffingtonPost(HuffPost)で最もInteraction数が多かった記事は、「Hidden Camera Catches Beagle Stealing Chicken Nuggets In Epic Style (VIDEO)」(ビーグルが凄いやりかたでチキンナゲットを盗む。隠しカメラが撮った)であった。


図5
HuffPostViralVideoa.png

バイラル記事の定番であるペット関連のバイラルビデオである。バイラル記事はネット上の素材をキューレーションしている場合が多く、この動画もHuffPostのオリジナルではない。オリジナルの動画は昨年6月に、撮影者のRodd Scheinerman氏によって YouTubeに投稿されていた。

図6

HuffPostBeagle20130617.png

 上の動画はその後、YouTubeに再投稿され、さらに今年の1月10日にViralViralVideoと称するサイトで以下の図7のように紹介された。

図7
HuffPostViralVideoVVV2014Jan.png

 The Huffington Post UK がViralViralVideoでこの動画を見つけ、すぐにHuffPostに転載すると、フェイスブック上で一気にバズり、117万回を超えるInteraction数を獲得したのだ。HuffPostの記事1本当たりのInteraction数が平均して1775件であるのと比較しても、いかに同サイトにとって大ヒットになったかが分かる。

 こうなると伝統メディアもバイラル記事に挑戦したくなる。NYタイムズ・サイトでこの上半期で最もフェイスブック上で話題になった記事は、「52 Places to Go in 2014」(今年、旅で行きたい52のスポット)であった。

  この記事は、バイラルメディアの定番となっているリスト記事で、テーマもよく登場する世界の絶景である。よくあるバイラル性を狙った記事であるが、NYタイムズらしく、著作権処理や写真のキューレーションをしっかりこなし、Interaction数が68万回を超えた。高級紙の中でNYタイムズの記事は、おそらく最もフェイスブックで話題になる機会が多い。記事1本当たり平均Interaction数も約1000件と比較的大きいのだが、紹介したバイラル記事では数百倍も共有されているのだ。

Business InsiderがNews Whipの測定データを基に、今年上半期のバイラル記事トップ30(Interaction数の多い記事)をまとめてくれているが、リスト記事やクイズ記事が大半を占めている。リスト記事は日本でもよく見かけるまとめ記事。フェイスブックで話題になりそうなテーマを選び、ネット上からキューレートしたコンテンツを素材にしてまとめた記事である。笑い、愉快、畏敬などの感情に訴えた話が多く、テーマも可愛いペットや素晴らしい絶景などのように思わず「いいよ!」とクリックしたくなる内容が中心である。

縦軸にInteraction数、横軸にInteraction数の多い記事順に並べたロングテールグラフを描くと、ヘッド部分の記事は殆どがバイラルメディアのリスト記事やクイズ記事となっている。こうしたバイラル記事が桁違いのトラフィックをニュースサイトに呼び込んでいることが、今のニュースブームを引き起こしているとなると、本当の”ニュース”ブームなのかとの疑問もわいてくる。政治記事や経済記事のような本流のニュース記事は、ソーシャルサイトでは話題になりにくい。例えばWSJ.comでもサイト全体で月間Interaction数が100万回に届かず、記事1本当たりの平均Interaction数は100件程度と小さい。


どうも今のニュースブームにおいては、ソーシャルサイトで受ける記事(米国ではフェイスブックのInteraction数の多い記事)を、皆で読むべきとみなす流れがある。若い人たちがSNSを介してニュース記事を読むようになったと言っても、命がけで取材した紛争記事(例えばガザからの記事)などがフェイスブックでバズったという話は殆ど聞かない。

ただ、ニュースブームも新しい第2波が押し寄せている。これまでの第1波では、バイラルメディアが中心になって、ニュースもどき記事も含めて面白くわかりやすく提供することにより、若年層を中心に多くの人がニュース記事に接触するように仕向けた。さらに次の第2波では、バイラルメディアなどの新興ニュースメディアも、ニュース記事本流の政治や経済分野も取り込んで、新しいテクノロジーを駆使してもっと面白くわかりやすく提供していこうとしている。コンテンツキューレーション技術、ビッグデータなどのデータジャーナリズム手法、インフォグラフィックなどのビジュアル表現技術・・・、これらをサポートするツールやサービスが次々と出てきている。また簡単な決算発表記事のような定型ニュースならロボット記者に任せられそうだ。

 新聞などの伝統メディアも、比較的手軽にページビューを稼げるクイズやリスト記事などのバイラル記事に頼るのも限界がある。やはり本流の小難しい政治記事や経済記事などをもっと楽しく、わかりやすく読ませる工夫が必要で、このためデータジャーナリズムやビジュアル表現などにも注力し始めている。同時に面白くわかりやすく読ませる術に長けている既存バイラルメディアを見習おうとする動きが顕著になってきたのも興味深い。それを象徴するニュースが先週末に飛び込んできた。英国の高級新聞「インディペンデント」(The Independent)がBuzzFeed風のサイト「i100」を立ち上げたのだ。信頼のおけるバイラル記事を提供していくという。このi100については、次の記事で紹介したい。

図8
IndipendentBuzzFeedLikeViralmedia201407.png




◇参考
・People Are Sharing More News Than Ever On Facebook(WhipBlog)
・NewsWhip: Interaction with news content on Facebook up 23 percent in three months(Pointer)・
・Report: People share news on Facebook more than ever… if “news” means quizzes and puppy videos(pandodaily)
・The 30 Most Viral Stories Of 2014 Will Make You Shake Your Fists And Scream, 'Why?!'(BusinessInsider)
・The Biggest Facebook Publishers of June 2014(Whip Blog)
・Reuters institute Digital News Report 2014
・Now i goes digital with a BuzzFeed-style website called i100(Guardian)


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2014年06月28日

欧米のジャーナリスト、組織の発表よりもソーシャルメディアを信頼する

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 欧米のジャーナリストは、組織の発表よりもソーシャルメディアのほうが信頼できると見ているようだ。これは、ジャーナリストやPR専門家の活動にソーシャルメディアがどのような影響を及ぼしているかを、オランダのIDGが今年3月〜4月に調査した結果である。この調査に165人のジャーナリストが参加した。国別内訳は、オランダ人が66人で、米国人が42人、英国人が37人、その他はすべてヨーロッパのジャーナリストである。

 回答したジャーナリストの40%は、ソーシャルメディア上の投稿を信頼できる情報源として利用することがあるという。PRの専門家は53%が信頼できる情報源として活用している。


IDG2014a.png

 ジャーナリストの50%は、組織の発表よりもソーシャルメディアにおけるコンシューマーの意見のほうが信頼できる答えている。組織の発表が信頼できると答えたジャーナリストはわずか19%であった。国や企業などは、組織にとって都合の良いことを中心に発表しがちなので、鵜吞みにできないということであろう。ソーシャルメディアで流れている意見に真実が見つかるということか。


IDG2014b.png


 ソーシャルメディア時代ではニュースはほぼリアルタイムに発信され、伝播されていく。そのためジャーナリストもニュースの真偽を十分にチェックしないままに発信しなければならなくなってきている。ジャーナリストの45%は急ぐニュースの大半(60%〜100%)を真偽を確かめずにとりあえず発信し、あとでチェックをしていると答えている。真偽を確かめてから発信しているジャーナリストはわずか20%である。つまりファクトチェッキングよりもクラウドチェッキングに頼るようになっているのか。

IDG2014c.png




◇参考
・2014 Study impact of Social Media on News: more crowd-checking, less fact-checking(ING)

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posted by 田中善一郎 at 01:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年06月02日

新聞ブランドを切り捨て、記者ブランドで成功した「Re/Code」

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 アップルが約3000億円でビーツ(Beats)を買収すると発表してから数時間もたたないうちに、カンファレンス会場にアップル上級副社長のEddy Cue氏とビーツ共同創業者のJimmy Iovine氏が駆けつけ、買収の狙いなどを語った。同じ会場でその2日前には、グーグル共同創業者のSergey Brin氏が、同日に公開した自社設計の自動運転車についての抱負を語った。

 5月27日から29日までカリフォルニア州Rancho Palos Verdesで開催された「Code Conference」では、Microsoft、Netflix、Comcast、Qualcomm、Intel、Dropbox、 Flipboard、Salesforce.com、Twitter、Uberなどの有力IT企業のCEOがこぞって、カンファレンスに登壇した。ソフトバンク/Sprintの孫氏もその一人である。他に、女優のGwyneth Paltrow 氏も登場した。またKPCBのパートナーであるMery Meeker氏も恒例のインターネットトレンド・レポートの2014年版をこの場で発表した。

RECODESon20140529.png

 このCode Conferenceのホスト役を演じたのが、ウォルト・モスバーグ(Walt Mossberg)氏とカラ・スウィシャー(Kara Swisher)氏である。シリコンバレー業界のカリスマ的な存在のコラムニストとライターである。2人にとって、今回のカンファレンスは格別の意味があった。

 2人は昨年末まで、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)傘下のITニュースブログ「AllThingsD」の看板記者であった。AllThingsDはWSJの姉妹サイトとして運用されていたが、WSJ本体の技術分野ページよりも人気が高く、業界での影響力も大きかった。

 そのAllThingsDの目玉事業が「D Conference」であった。2007年から定期的に実施されており、2人の求心力もあってIT業界のビッグネームが登場する充実したカンファレンスとして確立していった。ところが、WSJブランドの下にありながら、AllThingsDの編集・企画はWSJ本体から事実上独立していた。そこでWSJとしては、もっと収益性を高めるためにも、AllThingsDをWSJ本体の制御下に置きたかったのだろう。自由な独自路線を貫きたい2人は反発し、昨年末にNews Corp(WSJ)との契約を継続しないで、縁を切ることになった。

 2人は、AllThingsDの何人かのブロガーを引き連れて新会社を設立し、新たにITメディアサイトを立ち上げることにした。ところが、なかなかスポンサーが見つからず足踏みが続いた。WSJブランドがあったらこそ、経営者を含むビジネスパーソンに信用され、AllThingsDがやってこれたのでは・・・。個人の記者ブランドでは難しいのではとの不安がよぎった。でもNBCUniversal News Groupなどからの出資もなんとか受け、今年の年明けに新サイト「Re/code」を立ち上げたのだ。また、目玉事業であった「D Conference」を引き継ぐ形で、「Code Conference」を5月27日から実施することを宣言した。その時すでに、Sergey Brin氏やMery Meeker氏の登壇が決まっていたというから、WSJを離れても2人の求心力は変わらない。WSJのような新聞ブランドに頼らなくやっていけそうだ。

 WSJも対抗心を燃やした。AllThingsDブランドは捨て去り、WSJ本体の技術分野ページ「WSJD」を年初に立ち上げた。編集力を強化するために、外部から評判の高いIT分野記者を複数人採用した。そのせいか、WSJのIT関連記事の質が良くなってきている。

 Kara Swisher氏もWSJDの動向が気になっていたのだろう。4月2日のツイートでRe/codeがWSJを越えたと喜んでいる。技術系ニュースのアグリゲーターであるTechmemeは、ニュースサイトの掲載数ランキングをLeaderboardとして公表している。Re/codeとWSJは春先から抜きつ抜かれつのシーソーゲームを展開しているのだ。ちなみに彼女のツイッターアカウントは約95万人のフォロワーを擁している。

RecodeSwisherTechmeme201404.png
 最新のLeaderboardは次のようになっていた。

*TechmemeのLeaderboard、2014年5月の月間掲載数ランキング
TechmemeRecode201405.png

 昨年12月のLeaderboardでは、AllThingsDがWSJ本体よりも上に位置していた。WSJとしては面白くない状況だったのかもしれな い。

*TechmemeのLeaderboard、2013年12月の月間掲載数ランキング
Techmeme20140101.png

 そのAllThingsDからWSJブランドのないRe/codeに変わっても、WSJ本体と渡り合っていけるのである。Re/codeの月間ユニーク数は、Quancastの調査によると米国内で約700万人に達している。一般コンシューマーではなくてビジネスパーソンを対象にしたニュースサイトで、700万人に届いているのは評価できる。また心配していたカンファレンス事業「Code Conference」も、6500ドルのチケットがすぐに完売したことからも、成功したと言える。カンファレンスの内容は、例えばWalt Mossberg氏からインタビューを受けた孫氏の発言は、すぐにRe/codeに掲載されていた。

◇参考
・Code Conference (re/code)
・An Interview With Walt Mossberg And Kara Swisher, The Most Powerful Media Duo In Silicon Valley(Business Insider)
・Masayoshi Son at Re/Code’s Conference Talking T-Mobile Acquisition and More(AndroidHeadlines)
・Google’s New Self-Driving Car Ditches the Steering Wheel(re/code)
・Apple’s Jimmy Iovine and Eddy Cue Explain the Beats Deal and Hint at the Future(Video) (re/code)




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posted by 田中善一郎 at 00:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年05月15日

NYタイムズとルモンドの女性編集長、同じ日に共に辞任へ

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 名門新聞のNYタイムズとルモンドの編集主幹(全体の編集長)が共に、同じ14日に辞任した。

 NYタイムズのJill Abramson( ジル・エイブラムソン)氏は約160年の歴史上初めての女性編集主幹として、またルモンドのNatalie Nougayrède(ナタリー・ナウゲレード)氏は約68年の歴史で初めての女性編集主幹として就任し、活動ぶりが非常に注目されていた。その編集トップの女性二人がいみじくも同時に、辞めたのだ。

 伝統的な新聞は、たとえ有力紙であっても、デジタル化やソーシャルメディア化に向けて岐路に立たされている。ジャーナリズムを看板にしているNYタイムズやルモンドともなると、デジタル化の進路をまとめるのは至難の業である。女性初の編集トップが、よりによってこの最も難しい時期に就いたのだから、どうなるのやらと皆が注目するのも当然であった。

 2011年9月にNYタイムズ編集主幹に就いエイブラムソン氏に対しては、就任当初、彼女の仕事の進め方にからんで、NYタイムズ編集室の内輪もめ話が連日のように報道されていた。彼女を批判する記事が多かった。でもその後、デジタル化路線でそれなりの実績を重ねるようになり、彼女もよく踏ん張っているとの印象があった。一方のルモンドのナウゲレード氏は2013年3月に、編集スタッフ450名の80%の支持を受けて編集長に就いたのだが、最近は編集方針や人事面などで編集室からの反発を受け、編集幹部が相次ぎ辞めていった。このため、彼女の辞任も時間の問題とされていた。

 それだけに驚いたのは、やはりエイブラムソン氏のいきなりの辞任であった。辞任というよりも解任である。ザルツバーガー会長などとの確執が伝えられていたので、いずれ辞任させられるとの声も上がっていたが、突然の解任であった。その社内発表が彼女の姿のない中で行われたようだ。そしてすぐにサイトのマストヘッドも追従し、以下のように編集主幹(Executive Editor)が後任のDean Baquet(ディーン・バケット)氏に取って代わられていた。

NYTExecutiveEditor20140514.png


 なぜエイブラムソン氏が解任されたかの背景については、アメリカのメディアを中心に解説記事が氾濫し始めている。その解任理由の中で枝葉の話かもしれないが、ジェンダー・ギャップ(男女差別)が浮上してきたので触れておく。エイブラムソン氏は給与や年金支給について不満を述べていたようだが、これもジェンダー・ギャップ問題と絡んでいるのかもしれない。

 どうも、今回の解任劇の矛先を、NYタイムズのジェンダー・ギャップにも向かわせたい動きが見受けられる。その前兆は、先日、Women's Media Center(WWC)が公表したレポート「The Status of Women in the U.S.Media 2014)」に現れていた。その中で、次のグラフを示して、米国の主要新聞の中でNYタイムズの編集が最もジェンダー・ギャップが大きいと指摘していた。このグラフは、各紙の署名記事を対象にして、女性記者執筆と男性記者執筆の記事本数の割合を示している。NYタイムズでは、全署名記事のうち女性記者が執筆した記事の割合が31%と、主要新聞10紙の中で最低となっていた。

WomanMediaCenterNewspaperGenderGap2014.png

  同レポートはまた、Pew Researchのデータによるグラフで、新しいソーシャルメディアでは女性ユーザーの割合が高く、かつ滞在時間も長いことを示していた。 つまりソーシャルメディアの世界では、女性の声が反映されている。それに対して伝統的な新聞では未だに男性文化がはびこっており、男性の目線での記事が多いと言いたいのだろう。


WomanMediaCenterSNSGenderGap2014.png
 NYタイムズの女性記者Margaret Sullivan氏も、このレポートを受けて、NYタイムズの現況をブログ記事で報告。NYタイムズには、全記者の1/3に相当する約400人の女性記者が働いているという。20年前には女性の割合が1割程度であったことに比べるとかなり進出しているが、もっと増やすべきということだ。

  メリーランド大学はNYタイムズの署名記事3万本を対象に、女性記者の記事と男性記者の記事の違いを比較している。女性記者はヘルスや旅行、家庭などの分野の記事を多く執筆しているが、スポーツ、サイエンス、オピニオンなどの分野では女性記者の記事が極めて少ない。興味深いのは、頻度の高い見出しの単語が、男女の記者によってかなり違うことが示されていたことだ。記事の切口が、男性記者と女性記者とでは異なっているせいかもしれない。

 NYタイムズのマストヘッドを見る限りでは、編集幹部の半分を女性が占めており、深刻なジェンダー・ギャップがあるとは思えない。でも、女性記者の割合が少ないと、どうしても男性目線の記事が多くなるのは仕方がない。ちなみにソーシャル化が進んでいる新興新聞のHuffington Postでは、署名記事の半分近くの48%が女性レポーター(記者)の手によるものだ。


◇参考
・Female editors of Le Monde and the New York times spiked in a single day(The Independent)
・Times Ousts Its Executive Editor, Elevating Second in Command(NYTimes.com)
・WHY JILL ABRAMSON WAS FIRED(New Yorker)
・Still Talking About It: ‘Where Are the Women?’(NYTimes.com)
・The most comprehensive analysis ever of the gender of New York Times writers(Family Inequality )
・France’s Le Monde elects first female editor-in-chief(France24)
・A Sexist Explanation For Why The New York Times Just Fired Its Top Editor(HuffPost)



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posted by 田中善一郎 at 20:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年04月12日

保守系政治ニュースのバイラルメディア「IJReview」、米国で一気に頭角を現す

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  政治ニュースのバイラルメディアIJReviewが驚異的な伸びを示している。Quantacastの調査によると、3月の月間ユニーク数が約2000万に到達し、この7カ月の間に10倍近くも増やしている。


ijreview20140411site.png

 Quantcastが測定した月間ユニーク数(モバイルユーザー数+オンラインユーザー数)、月間ユニークユーザー数、月間ビジット数を以下に示す。昨年の9月からの増え方がすさまじい。また際立つ変化としては、半年前まで少数派であったモバイルユーザーが今や2/3近くも占めるようになったことだ。


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(ソース:Quantcast)

 ソーシャルメディアでの拡散効果により急伸したのだが、特にフェイスブックでのバイラルが目覚ましく多くのユーザーをサイトに誘導したようだ。IJReviewの記事が、フェイスブックでどれくらい”いいね!”されたり、”コメント”されたり、”シェア”されたか、その総数の推移は次のようになる。以下のグラフはNewsWhipにより毎月公表されるデータをプロットしたものである。この4カ月だけで総数(月間Interaction数)が8倍も増えている。3月の月間記事本数が630本だったので、記事1本あたり平均して1万8500回ものInterctionを起こしていることになる。


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(ソース:NewsWhip)

 ソーシャルメディアが政治的分極化に拍車をかけているとよく言われている。ネットでは好きなものしか接触しない傾向が強まっており、保守系ニュースサイトとリベラル系ニュースサイトが分断され、それぞれの閉じた中だけで「いいね!」を交わし合いながら拡散し、増幅していく流れが見られる。保守系の政治ニュースサイトであるIJReviewが急浮上したのも、そうした流れに乗ったのだろうか。米国の保守系政治ニュースサイトとして、Fox News, The Blaze, The Drudge Report, Newsmaxに次ぐ5番手に早くものし上がってきた。


 IJReviewの昨日の記事例を示す。

ijreview20140410news.png


いかにもバイラル狙いの記事つくりである。このようなバイラルメディアがすぐには政治の世界で大きな影響力を及ぼさないだろう。でも、若者を中心に一般大衆が、伝統的なマスメディアよりもソーシャルメディアなどを介してニュースを選び閲覧するようになってきているだけに、バイラルメディアを介して政治ニュースと接触する機会も増えてきそうだ。


◇参考
・The Biggest Facebook Publishers of March 2014(NewsWhip Blog)
・TOP 50 NEWS POLITICS SITES BY U.S. TRAFFIC: IJREVIEW CLIMBS TO #5 CONSERVATIVE WEBSITE(Before It's News)



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posted by 田中善一郎 at 01:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年03月29日

新聞は今でもニュース産業の不動の王様

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新聞の読者離れと広告主離れが止まらない。多くの若い人にとって今や、新聞が無くても構わないのだろう。ニュースは、まとめサイトや、SNSで拡散しているニュースや、パーソナライズしたニュースアグリゲーターなどで閲覧しておけば、十分ということか。

ところがニュース産業として見ると、新聞はまだまだ圧倒的に強い。ネット先進国の米国でもそうだ。米国のニュース産業の総売上高は632億ドル程度であるが、そのうちの61%は新聞の売上高(386億ドル)が占めている。ウィークリー新聞も含めると、67%近くも占める。BuzzFeedやHuffington Postのような新興のデジタルニュースサイト(デジタルネイティブ)はネット住人にとって主流かもしれないが、これらの総売上高は年間10億ドルにも達せず、新聞売上高の約1/50に過ぎない。

米Pew Research Centerが編纂した「State of the News Media 2014」で示されていた、米国におけるニュースメディア別の年間売上高を以下に示す。

NewsMedia2014Pew4.png


 代表的な米国の新興デジタルニュースサイトの年間売上高は次のようになる。売上高が急増したとされるHuffington Postでも1億ドル程度で、BuzzFeedは6000万ドル程度である。大手の伝統新聞に比べると、かなり少ない。

NewsMedia2014Pew5.png


米国のニュース産業全体の売上高の内訳は次のようになっている。総売上の69%を広告売上が占めている。コンテンツ課金の販売売上は24%である。広告売上依存度が非常に高いのが、米国のニュース産業の特徴である。これまでニュースメディアは、広告単価を高く設定できていたのだ。

 NewsMedia2014Pew1.png



 メディア別の広告売上高は次の通り。新聞広告は急落しているのだが、それでもニュースメディアの総広告売上高の58%を新聞が占めている。ウィークリーを加えると64%となる。新興デジタルネイティブは1%程度しかない。


NewsMedia2014Pew2.png


有料コンテンツの販売売上高でも、新聞は69%と圧倒している。新興デジタルネイティブは一般コンテンツの有料化が難しいだけに極めて少ない。

NewsMedia2014Pew3.png

新聞の長期低落傾向が止まらないのだが、それなのに今も新聞メディアの売上高がニュースメディアの中で圧倒的なシェアを占めているのである。一方で伝統的な新聞メディアもデジタル化を加速化させている。でもデジタル化で先行しているNYタイムズでも全売上高(15億8000万ドル)の約75%をもプリント(新聞紙)事業から稼いでいる。新聞メディアの売上高の大半は、新聞紙事業から得ているのだ。つまり米国のニュース産業は、現実として未だに”紙”の新聞に頼っていることになる。

それに言うまでもないことだが、政治、経済、社会などに及ぼす新聞の影響力はニュースメディアの中でもダントツに大きい。それを支えるには新聞編集経費がかさむが、これまで新聞紙売上に支えられてきたのだ。問題は、その新聞紙売上が下げ止まらないことだが・・・。


◇参考
・State of the News Media 2014(Pew Research Center)
・The Revenue Picture for American Journalism and How It Is Changing(Pew Research Center)
・The Growth in Digital Reporting(Pew Research Center)




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posted by 田中善一郎 at 00:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年03月27日

ニュースメディアは斜陽なのか成長産業なのか、新興のデジタルオンリーが台風の目に

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 ニュースメディア産業は斜陽の時代に入ったのか、それとも新たな飛躍の時代を迎えているのか。

 新聞や雑誌、テレビなどの伝統ニュースメディアを中心にユーザー離れと広告売上減が進み、ニュースメディア産業はビジネスとしての栄光の時代を終えたと悲観的に見る向きがある。一方で、オンライン/デジタル技術革新により新しいニュースメディア環境が出現し、今まさにニュースメディア産業は大飛躍の時代を迎えているのだと興奮気味に語る人も少なくない。

 ちょうど先ほど、Pew Research Centerが毎年発行する「State of the News Media」の2014年版が公開されていたが、その中で新興の米国デジタルニュースメディアの動向をまとめ、興味深いデータを整理してくれていたので、いくつか紹介する。

 米国のニュースメディア産業は昨年から今年にかけて、新興のネイティブなデジタルニュースサイトが台風の目になってきている。今年に入ってからだけでも、「The Marshall Project」、「Re/Code」、「FiveThirtyEight」、「ProjectX(Vox Media)」、「First Look Media」といった注目のニュース組織が立ちあがり、あるいは近く離陸する予定だ。こうした中で目立つのは、大手ニュース組織から飛び出たスター・ジャーナリストがこうした新興ニュースサイトに移ったり、あるいは自ら新サイトを立ち上げる動きが活発になっていることだ。さらに人の流れだけではなくて、金の流れも活気づいていることも見逃せない。 Jeff Bezos氏(アマゾン創設者), John Henry氏(レッドソックス・オーナー)、 Pierre Omidyar (eBay創設者)などの資産家が、ニュースメディアに強い興味を抱き投資し始めていることも、ニュース産業を一段と盛り上げてくれている。


NewsDigitalMedia2014.png


 Pewの調査によると、デジタルニュースメディアが約500組織生まれ(その半分はこの数年の間に登場)、フルタイムで働く約5000人の専門職を創出したという。そのデジタルニュースメディアのトップ30は次のようになる。この上位30のデジタルメディア組織だけで、約3000の職を生み出したという。


NewsMedia2014PewDigital1.png

 こうしたデジタルメディア組織は、レイオフの嵐が吹き荒れた伝統ニュースメディアから追い出された記者たちの受け皿にもなってきた。でも最近は、既存の有力メディアでエース的存在の記者が、デジタルニュース組織に飛び込んだり、新組織を立ち上げているのだ。ソーシャルメディアなどの浸透により、伝統組織(新聞など)のブランドに頼らなくても、記者のパーソナルブランドでやっていける時代になってきたと言える(こちらやあちらを参照)。最近だけでも、以下のように著名なエース記者が相次いで、新興のデジタルデジタルメディアに飛び込んでいる。


NewslMedia2014PewDigital2.png


 こうしたデジタルオンリーのニュース組織の特徴は、米国外の海外展開に意欲的に取り組み始めていることだ。Vice Mediaは海外に35カ所の支部を構えている。Huffington Postは日本を含め11カ国に進出しているが、今年中に15カ国に拡大させたいという。バイラルメディアのBuzzFeedは、英国、オーストラリア、ブラジル、スペイン語圏、フランスに加えて、今年中にインド(ムンバイ)、メキシコ(メキシコシティー)、日本(東京)、ドイツ(ベルリン)に上陸する予定だ。その後すぐにも、シンガポールや香港にも進出したいという。Quartsは既にロンドンやバンコック、香港にレポーターを配し、編集スタッフは計19か国語をカバーしていると自慢する。Huffington Postに続いてBuzzFeedと、米国のデジタルオンリーニュース組織の2強が日本上陸を果たすことになる。

◇参考
・State of the News Media 2014(Pew Research Center)
・The Growth in Digital Reporting(Pew Research Center)
・有力新聞から飛び出た看板ジャーナリスト、相次ぎニュースメディアを立ち上げへ(メディア・パブ)
・新聞サイトに集客させるには、新聞ブランドよりも記者ブランドで(メディア・パブ)



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posted by 田中善一郎 at 12:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
2014年03月19日

ジェフ・ベゾス、ワシントンポストの社主として打った第一手は

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 アマゾンCEOのジェフ・ベゾス 氏が、ワシントン・ポスト(WP)の社主として本格的に動き始めた。その第一手として、地方紙などと提携し、WP紙デジタルコンテンツのリーチ拡大を目指す。

 今回のパートナープロジェクトでは、提携する地方新聞の有料購読者が、ワシントン・ポストの有料デジタル記事(pay wall内の記事)を無料でアクセスできるようにする。

 このプロジェクトのサービスは5月から開始し、最初は次の6新聞がパートナーとして加わる。
The Dallas Morning News, 
Honolulu Star-Advertiser, 
The Toledo Blade, 
Minneapolis Star Tribune, 
Pittsburgh Post-Gazette, 
Thee Milwaukee Journal Sentinel,

 6新聞の有料購読者数の総計が約150万人である。つまりWPの有料デジタル記事のリーチが一気に150万人も拡大することになる。pay wall(課金の壁)内に置かれた記事は、閉ざされたリーチのためにデジタル広告料金が抑えられたり、購読者が限られるため影響力が低下する心配があった。こうした心配をまず払しょくさせたいのだろう。

 FT(フィナンシャルタイムズ)にも話を持ちかけているようだ。もし実現すれば、以下のようにFPの有料購読者がWPのプレミアムコンテンツを無料でアクセスできることを付加サービスとして提供できるようになる。パートナーにとっても販促に使えるわけだ。

WaPoFTPartner.png

 WPが自前で、100万人の有料購読者を獲得するのは難しいだろう。WPを最も影響力のあるメディアに飛躍させたいとするベゾス氏の「果てなき野望」を達成させるには、1000万人程度の有料購読者にリーチさせたい。そのためには、新聞などのメディアを含めた各種サービスに対して金を払って享受する人たちを囲い込みたい。そこでWPは、次のサービスの有料会員に無料でWPコンテンツを利用させるよう、準備を進めているという。

・アマゾン・プライム(年会費3900年で1回350円または500円のお急ぎ便が追加料金なしで、無制限に使える会員制プログラム)会員
・音楽ストーミングサービス Spotifyの有料会員
・ペイTV会員

◇
・Washington Post Lifts Paywall for Other Papers' Subscribers as Bezos Seeks Readers(AdAge)
・In its first major venture of the Bezos era, the Washington Post launches national subscription partnership(GIGAOM)
・The Washington Post goes national by offering free digital access to readers of local newspapers ( Nieman Journalism Lab)
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2014年03月10日

FT、NYTそしてガーディアン、デジタル事業で「クリティカルマス」に到達したか

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 デジタル事業でクリティカルマスを超えた。FT(フィナンシャルタイムズ)CEOの John Ridding 氏はTheMediaBriefingのインタビューで、そのように誇らしげに語った。10日ほど前のFTグループの2013年度決算報告でも、2013年度の営業利益を前年比で17%も増やしたと発表し、デジタル事業が軌道に乗ったことを強調した。

 良く知られているように、欧米の伝統新聞は構造的な不況業種に陥っている。プリント(新聞紙)事業の読者数や広告売上が下げ止まらないため、経営的に深刻な状況に追い込まれているのだ。活路を見出そうと、オンラインなどのデジタル事業へ軸足を移そうとしているのだが、プリント事業の下落をデジタル事業でなかなか補えなていないのが現状である。デジタルシフトを早めると、プリント事業の落ち込みを加速化してしまい、出血増による経営破たんを起こしかねない。そこで出血量を減らすために、レイオフやリストラを強行したりして延命を図ってきているのである。でもそろそろ、デジタル事業は新聞復活のエンジンとして活動しなければならない時期と言えよう。

 それだけにFTのCEOが、デジタル事業がクリティカルマスに到達したと宣言したことは興味深い。でもFTも御多分に漏れず、プリント(新聞紙)事業は急降下している。次のグラフは、FT紙(プリント版FT)の購読数推移である。2001年のピーク時には50万部を超えていたのが、現在は半分以下の23万7000部にまで落下してしまった。特にこの2〜3年の間の新聞紙購読数の減り方はすさまじい。 


*FTの新聞紙(プリント版)購読数の推移

FT201401PrintSub.png


ところが、プリント版購読数が急減した同じ時期に、逆にデジタル版購読数が目覚ましい伸びを示した。2013年のデジタル版購読数が前年比31%増の41万5000部となり、約24万部のプリント版部数を大幅に上回った。総購読数(デジタル版+プリント版)は65万2000部となり、126年の歴史を誇るFTにとって過去最大の購読部数を達成したのだ。


*FTのプリント版購読数とデジタル版購読数

FTCirculation201402.png

伝統新聞がデジタルファーストをうたっていても、売上依存の高いプリント版の購読数をなるべく減らないように配慮しながら、デジタルシフトを進めている場合が一般である。でもFTはデジタル版の成長を最優先し、そのためにはプリント版の犠牲はやむを得ないという戦略だ。そのようにデジタル化のアクセルを思い切り踏み込めるようになったのは、2007年に業界で初めてメーター制のpaywall(課金の壁)を採用しオンライン有料化を軌道に乗せてきた背景がある。デジタル購読料収入が増えるに伴いプリント版広告収入の依存を軽減してきたからだ。つまり、プリント版の購読数が減っていっても気にしないで、デジタル版購読数を増やすことに注力すれば、売上も利益も上向かせることが見えてきたのである。

2013年度のデジタル事業の売上高も、全売上高の55%を占めるようになった。2008年の31%から大幅にアップしており、デジタルシフトが順調に進んでいることが分かる。また別の見方をすれば、広告依存からの脱皮も進んでいる。コンテンツ売上高(購読料収入)は全売上高の63%となり、37%の広告売上高を大幅に上回るようになった。2008年ころまでは、全売上高の半分以上を広告に頼っていた。

またディジタル化ではモバイル対応がより重要になっている。FTサイトのトラフィックの50%はモバイルデバイスからであり、さらに購読者のモバイルデバイスに限定すれば2/3も占める。そこで“universal content”戦略を掲げており、次世代デバイスも含めてどのようなデバイスにも対応していきたいという。すでに現在でも、アップルやグーグルのエコシステム向けのネイティブアプリに頼らないで、HTML5(ブラウザ)アプリでモバイル向けデジタルコンテンツを提供している。かなり自力で販売しなければならないが、自由な販促活動が展開できるし、アップルやグーグルに売上の30%近くを手数料として持っていかれることもない。このようにデジタル事業でクリティカルマスを超えたFTは、今後はさらにデジタル化に拍車をかけていくのだろう。

同じように、デジタル化で先行している伝統新聞としてはNYT(NYタイムズ)と英ガーディアンがあげられる。そこで両新聞もデジタル事業でクリティカルマスに達しているかが気になる。両新聞のデジタル事業売上高は次のように推移している。

両新聞は共に、確かにデジタル事業の売上を伸ばしている。両新聞はデジタルシフトで違う方向に歩んでいる。NYTは3年前からFTと同じメーター制のデジタル有料化を実施しているのに対し、ガーディアンはオンラインサイトの有料化を今のところ実施していない。このため、デジタル事業の売上高に、NYTはデジタル広告に加えてデジタル購読も含まれるが、ガーディアンは大半がデジタル広告となる。


*NYTとガーディアンのデジタル事業売上高
GuardianNYTDigital2013.png


ここで問題なのは、両新聞とも全売上高に占めるデジタル事業売上の割合が小さいことだ。NYTの場合、約20%に過ぎない。全売上高(15億8000万ドル)の約75%もプリント事業に頼っている。プリント広告が急減したと言っても2013年度は約5億ドルも稼いでいるし、さらにプリント購読売上が6億5000万ドルと相変わらず大きい。プリント事業を犠牲にしたデジタルファーストの実施は難しいと言わざる得ない。

ガーディアンの場合でも、デジタル事業の売上高が1億1700万ドルで、3億4500万ドルのプリント事業に比べかなり少ない。ただ注目すべきは、デジタル事業の売上高の伸びが目覚ましいことである。売上規模はNYTに比べ小さいが、2013年度のデジタル事業売上高の年間純増分で見ると、NYTの3000万ドルに対して、ガーディアンは2600万ドルとほとんど差がない。成長率で比べると、以下のグラフのようにガーディアンが上昇し、NYTが下降している。

*デジタル売上高の成長率の推移。2013年には、成長率でガーディアンがNYTを追い抜いた
GuardianNYTDigitalGrowth2013.png

 NYTのデジタル事業売上の伸びが鈍っているのは、二つの要因がある。一つはデジタル購読売上が急成長から安定成長になってきたためである。有料デジタルサービスを開始してから次第に新規購読数が減っていくのは仕方がない。課題は、2013年のデジタル購読売上が1億5000万ドルで、2015年でもせいぜい2億ドル程度しかならないと予測されていることである。6億5000万ドルのプリント購読売上に比べると少ない。もう一つの要因は、オンライン有料化のためにpay wall(課金の壁)を置いたことにより、デジタル広告売上が頭打ちになり、最近では減り始めていることがある。 


*NYTのデジタル版購読数の成長率推移
NYTDigitalSubTtoY2013Q4.png

NYTがデジタルシフトに突っ走っても、現状ではデジタル事業売上を大きく伸ばすのはしばらく難しそう。そこでデジタル事業のテコ入れとして、月額8ドル程度の低額のデジタル購読サービスを提供したり、デジタル広告メニューにネイティブ広告を用意し始めている。でもプリント事業に頼らざる得ない現段階では、デジタル事業がクリティカルマスに到達したとは言いづらい。

一方のガーディアンは、デジタル事業の売上(ほとんどがデジタル広告売上)が2013年度は前年比で25%も増えた。グローバルに人気の高い伝統新聞サイトなのに、オンライン有料化を踏みとどまり課金の壁を置かなかったことが功を奏して、デジタル広告売上が高成長している。2015年にはNYTのデジタル広告売上を追い抜くと見られている。ただ今後も25%の高成長を維持し続けるは厳しい。ガーディアンもネイティブ広告サービスを始めたり、驚くことに出会い系サービスsoulmates(soulmates.theguardian.com)までも実施したりして、デジタル事業の売上アップに励んでいる。でも、デジタル広告に頼っているだけでは限界が見えるので、各種有料サービスを仕掛けていかなければならない。ガーディアンのデジタル事業も、まだクリティカルマスに達していなようだ。



◇参考
・Financial Times CEO: 'We've now achieved critical mass in digital'(MediaBriefing)
・The Guardian’s digital boom(Columbia Journalism Review)
・FT Group boosts profits to £55 million as business daily's digital subs rise to 415,000(PressGazette)
・The Financial Times breaks the law of large numbers (Columbia Journalism Review)
・The NYT preps its paywall part deux(Columbia Journalism Review)
・The Guardian signs seven-figure deal to build on 'shared values' and provide branded content for Unilever(PressGazette)
・NYタイムズの電子版有料化、成功しているが未だに"紙"に大きく依存(メディア・パブ)
・NYタイムズ、なぜネイティブ広告導入に追い込まれたのか(メディア・パブ)


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posted by 田中善一郎 at 10:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
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