新聞紙で培ったブランド力があるのだから、後は優れた記事を読者に向かって発信すればよい・・・。新聞社は,有力な新聞を抱えている社ほど,そのように考えていたのではなかろうか。
ブランド信仰だけでは限界が だが,読者に向けて記事を発信するだけではダメになってきた。検索エンジンに向けて発信する必要も高まってきたのだ。これまでは,ブランド力で新聞社サイトのトップページに読者を誘導し,そこから好みの記事を探して読んでもらっていた。トップページに来てもらうことを前提に,サイトも設計されていた。ところが,ユーザーの情報アクセスのスタイルが大きく変わってきたのだ。検索エンジンの浸透に伴い,トップページをバイパスして,読者が特定記事にアクセスするようになってきたのだ。検索エンジン経由で飛んでくる読者を増やす対策が必要になってきたのだ。
こんなこと,今更かもしれない。だが,伝統的なメディア会社では当たり前ではない。紙媒体の世界を闊歩してきた編集者には,頭で理解しても,なかなか実感できない話だからだ。実は,名門新聞社New York Times(NYTimes)も,1年前まではそうだったのだ。その経緯を,SearchEngineWatchの記事をもとに紹介する。
外来者がSEOを断行 つい最近まで,NYTimes.comは検索エンジンを無視し続けていた。検索エンジン対策を講じるようになったのは,同社が昨年,About.comの買収に合わせてMarshall Simmonds を獲得してからである。入社したMarshallが,NYTimes.comのコンテンツを検索エンジン対応(search engine friendly)に変えることに着手したのだ。それまで,Googleなどの検索エンジンクローラー(巡回ロボット)がNYTimes.comのほとんどの記事を巡回していなかったという。
Marshallが最初に手がけたことは,1981年に遡ってアーカイブされている膨大な記事を,検索エンジンのクローラーにアクセスさせるようにしたことだ。これは,サイトの方針の大転換だ。これまでアーカイブコンテンツは,有料読者にしか利用できなかったからだ。だが,有料コンテンツの販売売上を減らすわけにはいかない。どのような手を打ったのか。
説明を進める前に,現在のNYTimesコンテンツのアクセス制御をおさらいしておこう。NYTimesは,毎日,約500本の記事を作り出している。つまり一週間あたり3500本もの記事を発信しているわけだ。こうした記事のほとんどが,最初の7日間,誰もが自由にアクセスできる。Web登録も不要である。これを,“Seven day content”と呼んでいる。7日後にはこれらの記事は,“open content”か“archived/Times Select content”に振り分けられる。大半の記事が移行する“open content”は,無料だがWeb登録者のみ利用できる(利用回数に制約があるようだが)。最後の“archived/Times Select content”は有料コンテンツだ。年間購読料49.95ドルあるいは月間購読料7.95ドルを払った読者か,NYTimes紙の読者しかアクセスできない。
有料コンテンツも検索対象に ここで重要なことは,“Seven day content”から“open content”に移しても,各記事のURLを不変にしたことだ。記事を格納する物理的なサーバーが変わっても,検索エンジンのためにURLを変えないようにした。つまり,パーマリンクということか。現在,“open content”のドキュメント数は,一般ニュースを含めて約2000万本もあるという。全コンテンツの97%が無料で閲覧できると言うことだ。残り3%の記事が,有料コンテンツである。
“open content”には,特別の仕掛けで検索エンジンの巡回ロボットにも登録者と同じようにアクセスさせているようだ。さらに驚くのは,有料コンテンツも検索させているというのだ。Marshallが言うには,GoogleやYahooの検索エンジンが有料のプレミアムコンテンツ全てを,検索用にインデクス化しているとのことだ。実際,Timeselectのコラム記事などが,検索エンジンで検索されている。
プレミアムコンテンツを検索対象にする仕掛けを理解するのは,小生の能力を超えているので,誰かに解説してもらいたい。どうも,検索エンジン用に各有料記事のアブストラクトページを用意したようである。だが,クローキング(cloaking)技術を利用しているのではとの疑いも。おっと,難しい技術用語が出てきた。
WebAccessUp.comの解説記事によると,クローキング技術とは,検索ロボットには見えても,人間には見えないページを作成する技術のことである。GoogleもYahooもクローキングを一種のスパムと見なしているようで,警鐘を鳴らしている。
MarshallがやっているSEO対策は,クローキングっぽいグレーゾーンに踏み込んでいるのかも。GoogleもYahooもNYTimesのコンテンツを検索対象にしたいのが本音。だが,NYTimesだけを露骨に特別扱いすることもできない。ただ,NYTimesが仕掛けていることを詳細にウオッチし,ちょっと危ない手法も大目に見ているようだ。
見出しもキャプションも検索エンジン向けに Marshallがすごいのは,というかNYTimesのnewsroomがすごいのは,記者や編集者に対し,検索エンジンを配慮した記事作りを徹底的に教育したことだ。まず記事見出しの作り方だ。人間が飛びつく見出しと,機械(検索エンジン)が反応しやすい見出しとは違うのである。結論から言えば,読者にも検索エンジンにもフレンドリーな見出しを付けろと言うことになる。お〜,これは難しそう。このあたりについては,NYTimes.comの記事“
This Boring Headline Is Written for Google”がおもしろい。
さらに,Marshallは写真にも注文を付けた。新聞社のニュースサイトでは写真やイラストを多用している。だから,イメージ検索への対策も欠かせない。具体的には,写真のキャプション(説明文)も検索エンジンフレンドリーにすべきだと言うのだ。
もちろん,RSSフィードの発信も徹底させた。このように,紙媒体で育った記者や編集者が嫌がるようなことを,強引に断行していったのである。
SEO対策の効果,検索トラフィックが59%増に SEOキャンペーンを本格的に始めたのは今年の4月から。早速,効果が出てきた。NYTimes.comに検索エンジンから来るトラフィックが59%も増加しているのだ。驚くべき効果である。
SEO対策をさらに進める。同社は,1854年に遡ってNYtimesの全コンテンツのデジタル化を進めており,それらが有料のプレミアム/Timeselectコンテンツとなっていく。実は,それらのコンテンツ全てを,GoogleやYahooの検索エンジンの対象に仕向けようとしているのだ。この壮大なプロジェクトは,1年以内に完成する予定である。
インターネット時代の新聞は変わろうとしている。
◇参考
・
Getting The New York Times More Search Engine Friendly(SearchEngineWatch)
・
New York Times Allowed to Cloak Content?(Search Engine Roundtable)
・
・クローキング/Cloaking-サーチエンジンアクセスアップ支援 (WebAccessUp.com)
・
Timeselect関連のエントリー(メディア・パブ)
posted by 田中善一郎 at 12:30
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