先週末,NY TimesとDow&Jonesが,今年第2四半期(4-6月期)の決算を発表した。両社とも新聞紙売上が減り続け,逆にオンライン売上が伸び続けている。NY TimesはAbout.comを,Dow&JonesはMarketWatchを,それぞれ大型買収しており,オンライン事業への依存を高めていた。
新聞社を始め雑誌社,TV局,ラジオ局といったマスメディア会社は,既存のビジネス事業が頭打ちになってきている。大手メディアを中心に,活路をオンライン事業に見いだそうと,あれこれ試行錯誤している最中だ。でも,オンライン事業で上昇気流に乗れるかと言えば,まだまだ不透明である。そこで,オンライン事業でアクセルを深く踏み込んだDow&Jonesを事例に,オンラインシフトの状況を追ってみる。
Dow&Jones の2005年上半期(1-6月)売上高は8億6600億ドルで前年同期比3.2%増だが,営業利益は5600万ドルで38%減となった。売上高が増えたのは買収したMarketWatchの売上を今年2月から上乗せしているからで,はっきり言って,経営状況は厳しくなってきている。
同社の事業は,プリント出版(Print Publishing),電子出版(Electronic Publishing),コミュニティー新聞(Ottaway Newspapers)の3本柱で成り立っているが,ここにきてプリント出版事業と電子出版事業の明暗がはっきりしてきた。WSJ(The Wall Street Journal)紙を抱えるプリント出版が同社の屋台骨事業であったが,そこが大きくぐらついてきたのだ。一方,WSJ紙のオンライン版(WSJ.com)や買収したMarketWatchを配下に持つ電子出版が勢いを増してきている。
プリント出版事業と電子出版事業の2005年上半期(1-6月)収支を見比べてみよう。プリント出版は,売上高が4億5200万ドル(前年同期比8%減)で営業利益が17万ドル(99.3%減)と落ち込んだ。広告売上も販売売上も下降線を辿っている。一方の電子出版事業は,売上高が2億4600万ドル(34.5%増)で営業利益が5100万ドル(22.6%増)と昇り調子である。特にインターネット広告が好調だ。プリント出版事業が経営の足を引っ張るようになってきており,電子出版事業の頑張りで何とか営業利益の黒字を維持している,というのがDow&Jonesの現状である。
電子出版事業の売上が同業他社に比べて大きいのは,老舗サービスのDow Jones Newswiresなどが含まれているためである。そこでWSJ.comやMarketWatchを受け持つConsumer Electronic Pnblishing(CEP)部門に注目したい。CEP部門の2005年上半期売上は8050万ドルで,前年上半期に比べ114%増に膨れあがった。2倍以上に売上が急増したのは,MarketWatchの売上が今年2月から計上されているからだ。
実は,CEP部門の2004年上半期売上は3800万ドルで,総売上高のわずか4.5%程度に過ぎなかった。米国新聞社のニュースサイトが急成長していながら,どこの新聞社も総売上のせいぜい3〜5%と小さいのが現状だ。このため新聞紙事業の落ち込みを補う救世主としてオンライン事業に頼るのは,早急すぎるとした見方が多かった。だが,プリント事業は一向に下げ止まりの気配を見せない。そこでDow&Jonesは,オンライン事業へのシフトを加速させる必要に迫られ,5億1900万ドルでMarketWatchを買収するという大ばくちに打って出たのだ。NY TimesがAbout.comを買収したのも,また最近News Corp.がIntermix Mediaを買収することになったのも,同じ流れである。
広告依存の高い米新聞社では,新聞紙広告の長期低落傾向が明確になってきた現在,急成長が見込めるインターネット広告に賭けざるえないのだ。でも既存のWeb関連サービスだけではいつまでもマイナーな事業に終始し,総売上の5%の壁を突破するだけでも大変である。大型買収でもしなければ,突破口が開けないと見たのだろう。買収結果として,WSJ.comやMarketWatchを抱えるCEP部門の2005年上半期売上高は,全社総売上の9.2%になり,近く10%に達するだろう。営業利益率が高いので,予想以上に早くCEPが利益の稼ぎ頭になっていくかもしれない。同社のCOOであるR.F.Zannino氏は,この5ヶ月間,MarketWatchが期待以上の財務成果をもたらしたと,買収が成功したことを誇らしげに株主に語っている。
だが,成功と宣言するのは早い。今は(WSJ.com+MarketWatch)の加算効果を示している段階だ。全米トップの金融・ビジネスサイトが誕生しているが,ユーザーから見て,新たな魅力がまだ伝わってこない。今後は(WSJ.com×MarketWatch)となる相乗効果を発揮していかないと,プリント出版事業の落ち込みを埋め合わせできないし,同社の飛躍が望めない。同社も,B2B中心のWSJ.comとB2C中心のMarketWatchとの間の相乗効果が現れるのは来年以降と言う。これからが正念場だ。
◇参考
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Dow Jones Reports Second Quarter Results・
2Q05PreparedRemarks
posted by 田中善一郎 at 07:40
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