このサービスの開始に合わせてNYタイムズ(NYT)が次のタイトルのプレスリリースを発表した。
”The New York Times Updates the Scoop App for Iphone With Content From NYC Bike Share and Citi Bike”
NYTが提供しているアイフォン(iPhone)向けアプリ「The Scoop」で、Citi Bikeの利用状況をアップデートするということである。たいしたプレスリリースでないと思っていたら、リリースの途中で次の文が登場しており、驚いてしまった。
This marks the first time The New York Times will feature content from an advertiser in a mobile application outside of an advertising unit.
NYTが初めて、広告枠の外で(つまり編集枠で)広告主からのコンテンツを提供していく。
これは、米国広告業界で今話題の「ネイティブ広告」そのものでなかろうか。なぜ驚いたかといえば、NYTは編集と広告の境界線があいまいな「ネイティブ広告」に否定的な立場をとっていると見られていたからだ。最近のNYTの記事でも、ネイティブ広告のようなものは "corporate propaganda."(企業のプロパガンダ)であるとこき下ろした、著名ライター Andrew Sullivan氏の主張を好意的に紹介していた。そこで、メディア関連ニュースサイトiMediaEthicsがNYTに対し、ネイティブ広告のようなコンテンツにどう対応していくかを問いただした。するとNYTのCorporate Communications managerのStephanie Yera氏から、メールで次のような返事が届いた。
"It is a priority at The Times that our readers are able to clearly distinguish advertising messages from our news and editorial content. For this reason, we tend not to accept native advertising or branded content."
NYTは読者に対して、広告コンテンツと編集コンテンツをはっきり区別して提供することを重視している。このため、ネイティブ広告のようなものを容認しないつもりだ。このようにNYTは4月末に答えていた。さすが高級紙らしい立派な主張である。ところが1か月後の5月末にその主張を覆し、ネイティブ広告に手を染めることになったのだ。
そこで、NYTがモバイルアプリThe Scoopで採用したネイティブ広告を見ていこう。NYTimes The Scoop NYCは、NYTのスタッフが提供するNY市の案内アプリである。そのiPhone向けアプリは、App Storeからダウンロードして無料で利用できる。日本からも利用可能である。NY市案内の対象となる項目として、レストラン、バー、コーヒーショップ、アート、ショー、音楽、各種イベントなどが揃っており、それぞれNYTスタッフが選び、最新情報を提供している。ショップなどの場所は地図上で表示されており、自分の現在位置情報を与えればナビゲートしてくれる。NY市民だけではなくて、観光客にとってもありがたいサービスである。このThe Scoopの最新版(Version1.4)が5月28日に出荷され、案内項目に新たに自転車シェアサービスCitiBikeが加わった。以下の右側のスナップショット画面の右下にCitiBikeのアイコンが現れている。
これまでの案内項目では、NYTのスタッフが編集していた。たとえばレストランの項目では、以下のスナップショットからもわかるように、掲載レストランの選択とそれぞれのレストランの案内やレビューは、NYT側のスタッフが行っている。案内項目ページ内に広告枠が置かれることもあるが、これまでのように編集枠と広告枠とはレイアウト上でもきっちりと分かれている。
新たに加わった案内項目のCiti Bikeも、これまでの案内項目と同じ(編集)フォーマットを採り入れた。ところがCiti Bikeのコンテンツについては、これまでの項目のようにNYTスタッフが関与することはない。広告主となる企業側が編集し制作する。あたかも編集コンテンツ枠の中に、広告主制作のコンテンツが入り込んでいるわけだ。
実例を追ってみよう。案内項目の中からCiti Bikeをクリックすると、マンハッタンの地図が表れる。同サービスはまずマンハッタン(セントラルパークより南)地域を中心にスタートし、同地域内に300カ所を超えるバイクステーションが公道沿いに設けられ、約6000台の自転車を置く。どのステーションでも自転車を借り出せて、別のステーションでも返却できる。モバイル通信やGPS機能、貸出/返却自動管理機能などを活用した次世代自転車シェアリングシステムで、たとえばスマートフォンから各ステーションの使用可能な自転車台数などが、リアルタイムでチェックできるようになっている。
最初のマンハッタンの地図には、多くのバイクステーションが記されている。また、他の案内項目で取り上げているレストランや各種ショップなども、赤ピンで示されている。その地図を拡大して、NY大学沿いのバイクステーションを覗いてみた。そのステーションでは現在、4台の自転車が借り出せて、23台分の返却(空)スペースがあることが、スマートフォンからチェックできた。また、そのステーション近くのレストランなども紹介されている。最初のレストランをクリックすると、ある日本料理レストランが紹介され、NYTスタッフが編集したレストランガイドのコンテンツを閲覧できる。
先に述べたように、Citi Bikeに関するページのコンテンツはすべて、Citi側が用意している。各ページの上部にはCiti Bikeのロゴを置くことにより、コンテンツはCiti Bike側が作っていることを知らせているつもりかもしれない。ユーザーの多くは、Citi Bikeの提供するコンテンツもNYTの編集コンテンツと思って接しているのだろう。市民や観光客にとって、自転車シェアリングサービスが欠かせないNY市内案内項目になってきただけに、現在のサービス内容なら役に立ち問題がないとの判断であろう。NYTとしてはこれが成功すれば、Citi Bikeに続くネイティブ広告スポンサーを探していきたいという。
◇参考
・The New York Times Updates the Scoop App for Iphone With Content From NYC Bike Share and Citi Bike(NYTプレスリリース)
・The Scoop iPhone App(NYTimes.com)
・The New York Times experiments with native advertising…on two wheels (Nieman Journalism Lab)
・NYTimes: 'We Tend not to Accept Native Advertising or Branded Content'(iMediaEthics)
・The Dark Age Of Journalism(Dish)
・Questions and Answers on Citi Bike(NYTimes.com)
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